88 / 384
2 新人研修編
4-1
しおりを挟む
新年初日の夜にデートを計画し、明日デート。
新年の休暇で街はそれなりに賑わいをみせているし、デートスポットもいくつか把握済み。
行き当たりばったりでも、どうにかなるわけなんだが。
「なんといっても、記念すべき、フィアとの初デートだからな」
できる限り手を尽くしたものにしたいし、記憶に残るものにもしたい。
それに、以前にフィアが言っていた言葉が、ずっと気にかかっていた。
『告白されて、お付き合いして、求婚されて、承諾して、結婚式あげて、結婚なんじゃないの?!』
フィアは、存在こそ普通でないが、育ちはお嬢様で、中味は普通の女の子。
普通の人間の普通の結婚、しかも『恋愛結婚』に憧れていた。
実際の、俺とフィアの結婚は、竜種の理想の結婚だった。
俺は理想の結婚で満足しているが、フィアはそうではない。
こうした小さな不満は可能な限り取り除いた方がいい。
金竜もそう言っていたので、『告白』は毎日するようにしている。
『求婚』『承諾』は済んでいるが、意識が半分ない状態を狙って済ませたので、
「この辺、初デートでどうにかならないものかな」
そう思った俺は、すぐさま、とある人物に伝達魔法で連絡をとった。
行きたい店や場所、求婚の件も伝えておく。
十分後、詳細なデート計画書とともに伝達が届いた。
『このアタシにかかれば、告白求婚デートなんて、オテノモノ! さっすが師団長、見る目あるわー デートのオニと呼ばれたアタシの実力、とくとゴランアレ!』
計画書に書かれていたのは、綿密なデートプラン。人気店の個室の予約はもちろん、貸切の予約まで準備済み。
支払いはすべて第六師団へ俺宛てで来ることになっている。
手の空いている第六師団の記録班も動員する計画のようだ。特別業務での出張扱い。抜かりがない。
「………………。」
思わず無言になる。
俺が頼んでおいて、なんなんだが、手際が良すぎる。それもわずか十分で。
有能なんだよな、有能なんだけどな。
「あいつ、新年初日から何やってんだ?」
翌日は宣言通り、フィアをデートに連れ出した。
午前中は飛竜に乗って王都の遊覧。
飛竜は引越のときに一度乗せて以来、二度目だ。
あのときも、フィアは怖がるどころか、気持ちよさそうに景色を眺めていた。
なにしろ、身体がぴったりくっつくし、少し寒いのでいっしょのマントに包まれる。実に良い。
昼は王都で人気の店でのランチ。
老舗ではないが、なかなかの評判だ。
前夜に特別室の予約なんて、よく取れたよな。
初めてのレストランで、フィアもご機嫌だ。
昼食後は美術館を貸し切って鑑賞した。
主に、スヴェート帝国の美術品とメイ群島国の工芸品を扱う美術館だが、フィアは、初めてだったらしく、目をキラキラさせていた。
フィアは、グランフレイムでほぼ閉じ込められるようにして、生きてきた。
技能なしと判明する前も、魔力の多さから、誘拐の危険があったらしい。
デートどころか、本格的な外出はこれが初めてだったようで、とてもとても喜んでいた。
こんなに喜んでいるフィアに外出禁止を告げるのは、俺だって心苦しい。
しかし、外は危険なんだ、フィア。
最後に立ち寄った自然公園は大勢の人で賑わっていた。
まだ夕方前の明るい時間なので、仕事仲間や友人同士、家族連れも多い。
今の時期、ここは火花草が見頃となる。
火花草の群生地は予想通り、人でごった返していた。
はぐれないよう、フィアの手をしっかりと握る。
火花草を見て喜ぶフィア。とてもかわいい。
フィアの横顔を眺めていたら、思っていたことが、つい、口をついてしまった。
自然と足も止まる。
「フィアが官職に就いて、住む家と収入を得たら、俺はどうなる?」
そう、俺は夫という生き物でしかない。
「え? どうにもならないよね?」
突然の話にきょとんとするフィア。
「フィアが官職に就いて、住む家と収入を得たら、俺に頼らなくても生活できるようになるだろ」
そう、俺の価値は、フィアに住む家と生活費を提供できることだけ。
「ええ? 家や収入の有無と、頼る頼らないは別だよね?」
「そうなったら、俺はフィアに捨てられる」
価値がなくなったら、俺は捨てられる。
「えええ?」
「俺はフィアに捨てられたくないんだ」
俺に価値がなくなった後も、フィアに選ばれるには、どうしたらいいんだ?
「最期は、フィアといっしょに死んで、フィアといっしょの墓に入りたいんだ」
金竜も銀竜も『時間が解決する』だなんて、呑気なことしか言わない。
「だから、フィア、俺を捨てないでくれ!」
俺はフィアといっしょにいたいんだ。
「ラウを捨てたりしないから! ずっとずっと、いっしょだから!」
俺の真剣な言葉を、フィアも真剣に受け取ってくれる。
真っ赤になりながらも、はっきりと言葉を返してくれた。すごく嬉しい。
「フィア、大好きだ、愛している、ずっとずっと、いっしょにいよう!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
ギューッとフィアを抱きしめる俺の耳に、周りから祝福の拍手が聞こえた。
「兄ちゃん良かったな」「幸せになれよ」「サイコー!」などなど。拍手に混じって、いろいろな声も聞こえる。
求婚と周りからの祝福。
普通の人間の普通も悪くない、そう思いながら、腕の中で恥ずかしがるフィアに笑いかけた。
そう、俺は焦っていた。
フィアの独立計画と就職を聞いたときから。いや、その前からかもしれない。
外出先で、就職先で、万が一、フィアがムカつくあいつに再会でもしたら。
それでも、フィアは俺を選んでくれるだろうか。
初デート翌日は、第六師団の幹部との事前打ち合わせ。
記録班のデート映像をチェックしながら、俺は不安と焦りをどうにか胸の奥底に押し込んだ。
新年の休暇で街はそれなりに賑わいをみせているし、デートスポットもいくつか把握済み。
行き当たりばったりでも、どうにかなるわけなんだが。
「なんといっても、記念すべき、フィアとの初デートだからな」
できる限り手を尽くしたものにしたいし、記憶に残るものにもしたい。
それに、以前にフィアが言っていた言葉が、ずっと気にかかっていた。
『告白されて、お付き合いして、求婚されて、承諾して、結婚式あげて、結婚なんじゃないの?!』
フィアは、存在こそ普通でないが、育ちはお嬢様で、中味は普通の女の子。
普通の人間の普通の結婚、しかも『恋愛結婚』に憧れていた。
実際の、俺とフィアの結婚は、竜種の理想の結婚だった。
俺は理想の結婚で満足しているが、フィアはそうではない。
こうした小さな不満は可能な限り取り除いた方がいい。
金竜もそう言っていたので、『告白』は毎日するようにしている。
『求婚』『承諾』は済んでいるが、意識が半分ない状態を狙って済ませたので、
「この辺、初デートでどうにかならないものかな」
そう思った俺は、すぐさま、とある人物に伝達魔法で連絡をとった。
行きたい店や場所、求婚の件も伝えておく。
十分後、詳細なデート計画書とともに伝達が届いた。
『このアタシにかかれば、告白求婚デートなんて、オテノモノ! さっすが師団長、見る目あるわー デートのオニと呼ばれたアタシの実力、とくとゴランアレ!』
計画書に書かれていたのは、綿密なデートプラン。人気店の個室の予約はもちろん、貸切の予約まで準備済み。
支払いはすべて第六師団へ俺宛てで来ることになっている。
手の空いている第六師団の記録班も動員する計画のようだ。特別業務での出張扱い。抜かりがない。
「………………。」
思わず無言になる。
俺が頼んでおいて、なんなんだが、手際が良すぎる。それもわずか十分で。
有能なんだよな、有能なんだけどな。
「あいつ、新年初日から何やってんだ?」
翌日は宣言通り、フィアをデートに連れ出した。
午前中は飛竜に乗って王都の遊覧。
飛竜は引越のときに一度乗せて以来、二度目だ。
あのときも、フィアは怖がるどころか、気持ちよさそうに景色を眺めていた。
なにしろ、身体がぴったりくっつくし、少し寒いのでいっしょのマントに包まれる。実に良い。
昼は王都で人気の店でのランチ。
老舗ではないが、なかなかの評判だ。
前夜に特別室の予約なんて、よく取れたよな。
初めてのレストランで、フィアもご機嫌だ。
昼食後は美術館を貸し切って鑑賞した。
主に、スヴェート帝国の美術品とメイ群島国の工芸品を扱う美術館だが、フィアは、初めてだったらしく、目をキラキラさせていた。
フィアは、グランフレイムでほぼ閉じ込められるようにして、生きてきた。
技能なしと判明する前も、魔力の多さから、誘拐の危険があったらしい。
デートどころか、本格的な外出はこれが初めてだったようで、とてもとても喜んでいた。
こんなに喜んでいるフィアに外出禁止を告げるのは、俺だって心苦しい。
しかし、外は危険なんだ、フィア。
最後に立ち寄った自然公園は大勢の人で賑わっていた。
まだ夕方前の明るい時間なので、仕事仲間や友人同士、家族連れも多い。
今の時期、ここは火花草が見頃となる。
火花草の群生地は予想通り、人でごった返していた。
はぐれないよう、フィアの手をしっかりと握る。
火花草を見て喜ぶフィア。とてもかわいい。
フィアの横顔を眺めていたら、思っていたことが、つい、口をついてしまった。
自然と足も止まる。
「フィアが官職に就いて、住む家と収入を得たら、俺はどうなる?」
そう、俺は夫という生き物でしかない。
「え? どうにもならないよね?」
突然の話にきょとんとするフィア。
「フィアが官職に就いて、住む家と収入を得たら、俺に頼らなくても生活できるようになるだろ」
そう、俺の価値は、フィアに住む家と生活費を提供できることだけ。
「ええ? 家や収入の有無と、頼る頼らないは別だよね?」
「そうなったら、俺はフィアに捨てられる」
価値がなくなったら、俺は捨てられる。
「えええ?」
「俺はフィアに捨てられたくないんだ」
俺に価値がなくなった後も、フィアに選ばれるには、どうしたらいいんだ?
「最期は、フィアといっしょに死んで、フィアといっしょの墓に入りたいんだ」
金竜も銀竜も『時間が解決する』だなんて、呑気なことしか言わない。
「だから、フィア、俺を捨てないでくれ!」
俺はフィアといっしょにいたいんだ。
「ラウを捨てたりしないから! ずっとずっと、いっしょだから!」
俺の真剣な言葉を、フィアも真剣に受け取ってくれる。
真っ赤になりながらも、はっきりと言葉を返してくれた。すごく嬉しい。
「フィア、大好きだ、愛している、ずっとずっと、いっしょにいよう!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
ギューッとフィアを抱きしめる俺の耳に、周りから祝福の拍手が聞こえた。
「兄ちゃん良かったな」「幸せになれよ」「サイコー!」などなど。拍手に混じって、いろいろな声も聞こえる。
求婚と周りからの祝福。
普通の人間の普通も悪くない、そう思いながら、腕の中で恥ずかしがるフィアに笑いかけた。
そう、俺は焦っていた。
フィアの独立計画と就職を聞いたときから。いや、その前からかもしれない。
外出先で、就職先で、万が一、フィアがムカつくあいつに再会でもしたら。
それでも、フィアは俺を選んでくれるだろうか。
初デート翌日は、第六師団の幹部との事前打ち合わせ。
記録班のデート映像をチェックしながら、俺は不安と焦りをどうにか胸の奥底に押し込んだ。
11
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる