精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

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「おかしくありませんか?」

 縮小模型の反応の位置を、手元の地図に書き写しながら、フィールズ補佐官が疑問を口にした。

「いくら木立の中が人目に着きにくいとはいえ、今まで、こんなにたくさんのメダルが見つからなかっただなんて」

 確かにそうだ。長い間、これがすべて目に触れる状態であれば、見つからないはずがない。

 でも、今の全域探索には問題がある。

「あのー、この全域探索では、あのメダルと同じ反応をする地点を洗い出しただけなので」

「詳しいことは分からないってことか?」

 そうなんだよね。

「本当にメダルかどうか、地面の上にあるのか、どこかに隠されているのか。
 実際の場所に行って見てみないと、詳細が分かりません」

 メダルだとしても、いつ頃からそこにあるかも分からない。
 昨日、置かれたばかりかもしれない。

「つまり、全域探索は簡易探索ということか」

 ふむっと頷くナルフェブル補佐官に対して、私は慌てて説明する。

「違います。魔力を制限しているので、詳細な全域探索ができないだけです。今、無翼なんで」

「……………………。」

「私をなんだと思っているんですか」

 赤種の力を侮ってもらっては困る。

 翼をぜんぶ出せば、ここに来なくたって詳細な全域探索ができる。と思う。

 まだ、ぜんぶ出した状態での力のコントロールができないので、やったことないだけだ。

 二枚でも力のコントロールができてないみたいで、上司の人に『ここで翼は出すな』と怒られたばかりだけどね。

「ちょっとぽわんとして天然なところがあってヤバすぎる最強竜種の夫にほぼ丸め込まれている新人補佐官の赤種」

「……………………。」

 私の扱い!

 完全に侮られているような気がする。

「まぁ、引っかかるところはありますが、予定通り、気になる地点のみ詳細探索をしましょうか」

「でも、大丈夫か? 危険はないか? 第四師団の後発隊を待った方が良くないか?」

「塔長の許可済みです。このメンバーなら、戦力的にも問題ないので、」

 フィールズ補佐官の目が私に向かい、言葉を続ける。

「そのまま探索するようにと」

「そう来たか」

 ナルフェブル補佐官も私を見てる。どうやら、戦力的には侮られてないようだ。

 ならば、ここは元気良く!

「はい、問題ないです! ここなら、ぜんぶ翼を出せますから」

 周りに大きな建物もないし、大丈夫だ。
 ここはきっと上司の人の『ここ』には含まれない。

「ん? 二枚だけじゃないのか?」

「もっとあります!」

 破壊の赤種だからね!

「で、もっと出すと?」

「もっと力を解放できるので、たいていのことは問題ないと、テラが言ってました!」

 壊すのも直すのも、たぶん自由自在!(保証はない)

「この前、以上ということか?!」

「だから、問題ないです!」

 二人を安心させようと、私は明るく元気に返事をした。はずなのに、

「…………別の問題が生じますね」

 顔色が急に悪くなるナルフェブル補佐官と、こめかみを高速でぐりぐりし始めるフィールズ補佐官。

 あれ? なんか反応が違くない?




 ともあれ、私たちは予定通り歩き出した。

 火花草の群生地を抜け、池をぐるっと通り越して、ようやく木立までやってくる。

 ラウと来たときはここまで来なかったので、見るのは初めて。
 木立というよりはちょっと広い。そして、木が密集している。

 通常の《探索》も使いながら、木立の中を歩き回り、件の地点を発見した。

 そのすぐ脇は、倒木や岩を集めて積んでいる場所。けっこう高く積んであるな。明らかに人の出入りがあるところだ。

「担当部隊のあの騎士殿。『応援が来るのを待っていた』とおっしゃっていましたので。
 わたくしたち、後発隊のことだとばかり思っておりましたが」

 その地点を見ながら、フィールズ補佐官が困ったように話し出した。

 私もナルフェブル補佐官も同じように、その地点を眺めている。

「見つかったメダルを処理する、応援部隊のことだったのではないでしょうか」

 私たちの視線の先は小さく結界で囲まれていた。その中心には、四枚のメダル。

 第二師団の先発隊が見つけて、処置をしたものに違いない。

「さらにメダルが見つかったなんて報告は、まったく聞いてないぞ」

「はい。今、塔長に報告して、確認しましたが、塔長にも連絡は入っていないそうです」

 連絡ミス? マズいんじゃないの?

「上司の人が知らないことなんてあるんですか?」

「ない。あってはいけないんだ」

「これから会議なので、本部に確認するそうです」

「大変なことになったな」

 私たちはお互い顔を見合わせながら、ため息をついたのだった。

 で、そんなことより、肝心のメダル。

「こっちのは三枚目までのと同じで、魔法陣がないやつですよ」

 慎重に視ながら、二人に告げる。

「十数個、反応があったと思いますが」

「そっちです」

 私は木や岩が積んであるところを指した。

「この中にあるか、下敷きになっているか、か」

「おそらく」

「確かにこちらの方が反応が強いですね」

 鑑定魔法をかけながら、フィールズ補佐官も確認をした。
 さらに何かつぶやくと、光の玉が現れ、フィールズ補佐官の回りをくるくるし始める。

 精霊魔法だ。

 フィールズ補佐官の指示で、キラキラした光の玉が隙間に入り、中を照らす。
 人では入れない、狭い空間がそこにあった。

 そして、銀色の鈍い光。メダルだ。

 その数、十枚ほど。反応は十を超えていたので、見えないところにまだあるはずだ。

 私がよく探ろうとしたその時。

「にゃー」

 頭の上の方から、かわいい声。

「ん? なんだ? 猫か?」

「にゃー」

 木や岩が積んである、その天辺に、それは突然現れた。
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