精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

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 いつもより早く起きた私は、そーっとベッドから抜け出して、出かける支度を始める。

 今日は自然公園への出張。

 特級補佐官三人という豪華な顔ぶれでのメダル探索だ。

 自然公園はこの前、ラウに連れていってもらったばかり。

 火花草の時期はもう終わっていて、今の時期は雪見草と氷花と呼ばれる花が咲き始めるそうだ。
 ちょうど、氷雪祭の頃に見頃になる。

 氷雪祭、行きたかったな。

 そうだ。別々なんだから、ひとりで行こう。

 ラウの朝食の準備を終えて、出かけようと家の扉を開けたとき、ドタドタと慌ててラウが起きてきた。

 ラウが起きるには少し早いから、まだ寝てていいのに。

「フィア!」

「出張だから、行ってきます」

「フィア、俺が送っていく」

「メモリア、お待たせ」

 私はラウの言葉も聞かず顔も見ず、扉を閉める。

 扉の外には、昨日の帰りに伝えておいた通り、メモリアが待機してくれていた。




 集合場所は第一塔の塔長室だ。
 メモリアとは塔長室前で別れる。

 今日はいつものカバンより、少し大きいカバンを持ってきていた。

 中身は仕事の支度の他に、着替えの服や下着とお金などなど。
 別々の準備、ばっちり。

 ラウが気付くころには、私は出張先だろう。

 メモリアがじーっとカバンを見ていたので、今日は出張だから荷物が多いと伝えておいた。
 嘘はついてない。

「クロエル補佐官、早いな」

 ナルフェブル補佐官がやってきた。

 ごそごそと自分の机から物を出しては、カバンに詰め込んでいる。
 今日のナルフェブル補佐官は、記録係だ。

「ん? いつもよりカバンが大きくないか?」

 目ざとい。

「ラウが箱を返してくれるまで、いっしょは止めました」

 ラウはいっしょが好きだ。だから、いっしょは止める。
 いっしょじゃないなら、別々だ。

「は?」

「別々にすることにしました」

「別々? 意味が分からないんだが」

 ナルフェブル補佐官が首を傾げる。

「家を別々にします」

「あぁ、なるほど。家を別々か」

 頷くナルフェブル補佐官。理解が早くて助かる。

 と、突然、動きが止まった。

「それ、別居って言わないか?!」

 顔色を悪くして、自分のことでもないのに慌てだす。

 そこへフィールズ補佐官がやってきた。

「おはようございます。お二人とも早いですね」

 フィールズ補佐官も自分の机から必要なものを取り出し始める。
 今日のフィールズ補佐官は連絡係なので、軽装だし、手荷物も少ない。

「フィールズ補佐官、緊急事態だ。塔長を呼んでくれ」

 怪訝な顔をするフィールズ補佐官に、ナルフェブル補佐官が別居の話をかいつまんで伝えた。

「師団長が、よく出勤させましたね」

 フィールズ補佐官の顔が、怪訝な顔から不味いものでも食べたような顔に変わった。
 指でこめかみを押さえて、ぐりぐりやっている。

「ラウが起きる前に家を出てきました。出る直前に起きてきましたけど」

 今頃、ラウは朝食を食べているはず。

 あ。

「ラウの夕食の準備、してくるの忘れてた」

「ほら、別々は心配だろ」

「ナルフェブル補佐官、後でラウに伝えておいてください。夕食つくってないからって」

「ひぃぃ。そんなこと言えるか!」

 そんな私たちを、フィールズ補佐官は黙って見ているだけだった。

 そして、上司の人がやってくる。

「おはよう。三人とも揃ってるな。緊急事態って連絡だったけど、いったい…………」

 上司の人が出勤するには早めの時間だ。

 出張の見送りをする予定もなかった(たぶん)割には、準備が早いな。
 さすがは上司の人。緊急事態慣れしている。

「クロエル補佐官が、第六師団長と別居するそうです」

 淡々と報告するフィールズ補佐官。

「え?」

「ラウとは別々です」

 補足する私。動かなくなる上司の人。

「ちょっと待て! 本気で待て! ラウゼルトが暴走するぞ!」

「全力で迎え撃ちます」

 さらに補足する私。強張る上司の人。

「破壊の赤種と最強竜種の全面対決ですね」

「ひぃぃ。世界が終わる!」

「フィールズ補佐官もナルフェブル補佐官も、物騒なことを言うな!」

 慌てる上司の人に、怯えるナルフェブル補佐官。対して、どこまでも冷静なフィールズ補佐官。三者三様の反応だ。

「というわけで、緊急事態だ、塔長!」

「早朝から緊急事態すぎるだろ!」

「慌ててもどうにもなりませんよ。わたくしたちは仕事がありますので」

 そういえば、昨日は上司の人が仕事を理由に、箱の件を誤魔化したよね。

 そもそも、上司の人がラウを塔長室に入れなければ、私の箱を守ってくれていれば、こんなことにはならなかったはず。

「さぁ、行きましょうか」

「はい!」

 私は元気良く返事をした。
 いろいろなもやもやを吹っ切るように。
 今日もお仕事、頑張ろう。

「塔長、師団長の方はお任せしました」

「はぁあ?!」

「クロエル補佐官が、師団長の夕食をつくっていないそうです。伝えておいてください」

 フィールズ補佐官が、上司の人に伝言も押しつけている。

 直接、ラウに言うつもりはないので、伝えておいてもらえるとありがたい。

「よろしくお願いします、上司の人」

 私からもお願いしておこう。

「そんなこと言えるかぁぁぁ!」

「さぁ、皆さん、行きましょう」

 早朝から絶叫する元気な上司の人を残して、私たちは第一塔を後にした。
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