精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

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 翌日。

 今日は朝からメダル対策会議が開かれていた。
 本部、全師団長、全塔長が参加ということで、上司の人は不在。

 ラウも会議が憂鬱なのか、元気なさそうな感じで出勤していった。

 失敗作とはいえ、魔物を召喚する魔導具が見つかった。しかも王都の中心で。

 これは大変なことだ。

 おそらく会議も長引くだろうし、今夜も疲れきったラウがくっついてくるだろうし。

 さて、私は私でできることをするのみ。

 ナルフェブル補佐官のデータ解析も、後は自分でまとめるだけだそうなので、私の手伝いも終了。

 補佐官の業務手順も一通り覚えたので、後は実地で少しずつ経験を積むだけ。

 今日はとりあえず、あれだね、あれ。

 上司の人の机の上の、山積みになっている書類。
 あれを整理しておこう。

「うん?」

 塔長の机から自分の机に目を戻したとき、何か違和感があった。

「そういえば」

 朝、出勤してきたときも、何か違うと引っかかっていたんだっけ。

「どうかしたの?」

 マル姉さんが声をかけてきたので、

「何か、机がいつもと違うなーと」

 うん、気のせいかと思っていたけど、なんか違う。

「そう? 昨日の帰りと同じに見えるけど」

 私とマル姉さんのやり取りを聞いていたナルフェブル補佐官が、またか、と呆れたように声をかけてきた。

「赤種の記憶力は頭抜けている。違和感あるなら何かが違っているはずだ。鑑定してみろ」

「え? これも鑑定できるの?」

 鑑定、精霊魔法より便利じゃない?

「誰かが弄ったのなら痕跡がある。君の鑑定眼なら、たいていのものは視える」

「へー」

 痕跡か。なるほど。普通では見えない、誰かの何かが残っているかも?

 精霊魔法ができる人はそれこそ、精霊に教えてもらうんだろうけど。

 精霊魔法が使えなくたって、権能や魔法を使えば、分かること、できることの幅は広がる。

「だから、もっと技能を磨いた方がいいぞ」

「まぁまぁ。クロエルさん、やってみたらぁ?」

 それならば、《鑑定眼》。

「で?」

 魔力の跡がはっきりと視えた。この魔力は見覚えがある。
 というか、毎日視てるし、今も私に纏わりついている。

 とはいえ、この魔力がここにあるはずがない。

 そして『何か違う』の原因は、

「箱がない」

「え! 箱って組み紐飾りを入れてた箱? 大変じゃない!」

「ラウの痕跡がある」

「………………………………………………。」

 二人して、『ああ、見つからないように職場で作ってたのがとうとう見つかっちゃったかー』みたいな、分かりやすい表情しなくても、良くない?!

 にしても!

「酷い! 酷すぎない?!」

 職場の私の机までチェックするのって、なくない?!

 確かにね、ラウは私の服や下着やカバンの中身から、ぜーーーんぶチェックするけどね!

 食堂で使ったカトラリーやお皿まで回収してるって話も聞いたけどね!

 それに、第一塔の塔長室を出たら、護衛やら監視やらいろんな人が私についてまわるけどね!

 塔長室のこの場だけは、ラウの目が入らなかったのに!

 私の自由は?!

『そんなもの、黒竜に目をつけられた時点で、あるわけないだろ』

 なんか、どこかからテラの声が聞こえてくるようだわ。

「もう一度、話し合ってみなさいよぉ。
 師団長、クロエルさんのお願いなら、なんでも聞いてくれるでしょぉ」

 マル姉さん、なんでも聞いてくれるわけじゃないんだって。

「組み紐飾りはダメって言われたから! ラウに関係なく作ってたのに!」

「いや、その、師団長と関係なくってのが、マズいんじゃないか?」

「だって、ラウ、関係ないし!」

 私が作りたくて作ってるんだから、ラウなんて関係ない。

「関係ないって言われると寂しいものよぉ。師団長が要らないって言っても、作ってあげたいって伝えたら?」

「要らないって言ったラウになんて、作ってあげないし! 私があげたい人にあげるんだから!」

 私があげたい人はひとりだけだ。

「それ、師団長以外の男じゃないよな?」

「誰だっていいでしょ!」

 でも、あげたくても、あげられない人。

「ひぃぃ、マズいだろ」

「あたし、塔長、呼んでくるわ!」

「フィールズ補佐官も呼べ!」

「分かった!」

「ラウ、酷い! 嫌い!」




「で、怒っていると」

 マル姉さんから連絡を受けた上司の人とフィールズ補佐官が、急いで塔長室に帰ってきた。

「「はい」」

「困りましたね」

 二人が来る頃には、私も少しは鎮火していた。

 憤慨していたときは、魔力が漏れだして、室内がヤバかったらしい。

「でも、ホントに、あの師団長が箱を持っていったのかしらぁ」

「………………………………………………。」

 マル姉さんの言葉に黙り込む上司の人。

「塔長、何かご存知なんですね?」

「いや、その、僕は止めたんだ」

「上司の人!」

 ラウをこの部屋に入れたのは上司の人か。そうか、昨日の緊急会議。その帰りか。

「それより仕事だ、仕事。あのメダルの探索命令が出た。メンバーは特級補佐官の三人」

「上司の人! 誤魔化しましたね!」

「まぁまぁ、クロエルさん。あのメダル、子どもが拾ったら大変だからぁ」

「まぁ、そうですけど」

 上司の人は、けっきょくラウの味方だ。

「箱の件は、もう一度、師団長と話し合いましょう。それでもダメなら、また作ればいいだけです。皆で材料を買いに行きましょうか」

 フィールズ補佐官が、とりなすように、肩を落とした私に声をかけてくれた。

「いいお店、知ってるわよぉ」

 マル姉さんも。

「ついでに、美味しいケーキのお店も知ってますよ」

 二人とも、優しい眼差しで気遣ってくれる。上司の人とは大違いだ。
 二人に対して、私はコクンと頷いた。

「で、塔長。出張は今すぐか?」

「いや。今、先発で第二師団が自然公園に行っている。
 第一塔と第四師団が後発。明日、それぞれ、自然公園に向かう」

「なら、ここにいったん集合してからだな。フィールズ補佐官もクロエル補佐官も、明日はよろしく頼む」

「「はい」」

 気を取り直して、私たちは明日の準備を始めた。




 その日の夜。
 この日もラウの帰りは少し遅く、そしてヨレヨレだった。

 夜のいつものまったりタイム。
 ソファーに座るとラウがくっついてくるので、私は立ったまま、ラウに話しかけた。

「ラウ、私の箱、返して」

「フィア、あれはダメだと言っただろう」

 知ってるってことは、やっぱり、ラウが持っていったんだ。

「返してくれないなら、別々ね」

「フィア、別々って……?」

「別々が嫌なら、箱、返して」

「フィアには必要ないだろう」

 そんなの、ラウに決められたくない。

「じゃあ、別々。ベッドも別々だからね」

「フィア、俺たちは夫婦なんだ。だから、組み紐飾りなんて」

 組み紐飾りなんて、だなんて、言われたくない。

「氷雪祭も行かなくていいから」

 氷雪祭、楽しみだったけど。
 ラウといっしょに行きたくない。

「フィア?!」

 目を大きく開けて、弾かれたように身を乗り出すラウに対して、私は背を向けた。

「明日、出張で早いから。おやすみなさい」

 この日、私は大きなベッドの左の隅に小さく丸まって寝た。涙が出てきた。
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