精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

3-1

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「なら私だわ! 順番は私の方が下だし」

 テラは一番目、私は四番目。
 どう考えても私の方が下だ!

「え? いや、数字上は下? なのか?」

 上司の人が、かすれた声を絞り出す。

「それに、最近、頻繁に呼び出してるから」

「ああああ、そうだった! 次、呼び出したら、ただじゃおかないって、師匠に言われてた!」

 そう。ああ見えてテラは意外と忙しい。
 なにしろ、世界の平穏を守る正義(?)の赤種だ。

「それじゃ、私がやるってことで!」

 私はスタスタと台に歩み寄る。

「え? いや、それはなぁ」

 この期に及んで、まだ渋る上司の人。
 ならば、ダメ押しするのみ。

「このメダル。テラや私と同等か、ちょっと劣るくらいのレベルだから」

「え?」

「赤種、魔種、もしくは、それに準じる存在が作ったかなーってところだから」

「そういうのは、先に言え!」

 真っ赤になって、かすれた声で怒鳴る上司の人。

 王子さまっぽい容貌が台無しだ。
 って王子さまっぽい、じゃなくて、本物の王子さまだったっけ。

 なので、このありさまでも、素敵だとあちこちから声があがっている。

「そう言われても、初めて見たし」

「うっ」

「それに、上級から鑑定するのがルールだ、って言われてたし」

「そうだけどな!」

 このままでは埒があかない。

「それじゃ、私の力、少し解放するんで」

 そばに立っている上司の人の了承も待たず、私はおもむろに紅い翼を顕現させた。

 ミシッ

 ふわっと私を包むように、紅い翼が現れる。
 今回は鑑定だけだから、そんなに力はいらない。全解放する必要はない。
 そう思って、翼は二枚だけ。

 二枚だけでも開放感あるよね。
 私は翼を大きく広げた。うん、伸び伸びする。

 ミシッ ミシミシッ

 翼を広げたとたん、実験場の上の方から軋むような音が聞こえてきた。

「うん? なんだろう?」

 とくに異常はなさそうだ。

 私は目の前のメダルに集中する。
 見た目はなんの変哲もないメダルだ。魔法陣が刻まれてる以外は。

 《鑑定眼》でメダルを探る。

 ミシッ

 表面に刻まれている魔法陣は、メダルの表と裏の二つ。《防御》と《増幅》。

 うん? 増幅?

 私は首を傾げる。

 《防御》はメダルが壊されないようしたり、さっきみたいに誰かの魔法を防いだり、守るためのものだろうけど。

 《増幅》って?

「どうした? 何が視えた?」

「表面の魔法陣が鑑定できました」

 あ。《鑑定眼》だから上司の人には、結果が分からないのか。
 《鑑定》も基本は似てるけど、こっちは分かる人には分かるみたいだから。

「周りの皆にも、視えるようにした方がいいかな?」

「そうだな。君の鑑定眼だと、君以外には分からないからな」

 《視覚共有》だと全員にかけないといけなくて、面倒だな。ならば。
 さっと右手を振って魔法陣を展開させ、

「《視覚化》」

 ミシッ ミシミシッ

 これでいい。さっきの鑑定結果が視覚化される。

「なるほど。《増幅》か。それで首を傾げたのか」

「はい」

 さすが、上司の人。話が早い。

「表面だけでなく、中も視てみろ」

「中?」

「メダルの中だ」

「はい」

 言われるがまま、私は目を凝らしてメダルの中を探る。

 ミシッ

 さっきのように、メダルの《防御》が邪魔をするが、このくらいで負けるはずがない。

 私の紅い魔力がメダルの《防御》を貫いた。

 ミシミシミシッ

「視えた」

 上司の人の助言は的確だった。伊達に塔長やってないな、この人。

 中にあったのも魔法陣だ。
 見たことがある。これは、赤の樹林の渓谷にあったやつだ。

 そのまま力を込める。

「《鑑定》」

 ミシミシミシミシッ

 《鑑定眼》と《鑑定》の重ね掛け。
 これで判明しないものはない。

 そして、結果は予想通りのものだった。

「《混沌獣の召喚》だと?!」

「魔物が湧いてくるやつだ」

 そう、間違いない。
 あの渓谷でトカゲ型魔物の素になっていたのと同じもの。

「でも、中の魔法陣はちゃんと完成してない。未完成、いや、失敗作かな」

「ああ、そのようだな。ついでに、メダルの素材組成なんかも解析しといてくれ」

 メダルの正体はとりあえず分かった。

 いつ、誰が、何の目的でこんなものを作ったのか。謎は深まるばかりだ。

 そのとき。

 ビシッ ビシビシビシッ

 頭の上から、凄い音が響き渡る。

「ここも脆いな」

 頭の上には天井しかない。
 目を凝らすと、その天井に亀裂が入っているのが視えた。
 この前の闘技場もここも脆すぎるよね。

「脆くないぞ! クロエル補佐官、力を絞れ。できるだろ。な!」

「えー、これでも絞ってるんだけど」

 翼の数、三分の一だし。

 ビシビシビシッ

 また聞こえた。
 私と上司の人が言い争っている間にも、亀裂はどんどん広がっているようだ。

「えー、じゃない! もっと絞れ! くっ。ラウゼルトを呼ぶぞ!」

「えー、ラウが来ると過保護が過ぎるんだけど」

「そのくらいでちょうどいいだろ! 天井が割れる!」

 ビシビシビシッ

「うーん、仕方ないな」

 私は胸の前で両手を合わせ、左右に大きく腕を広げた。広げたまま、さらに、腕を上下に向ける。

 流れるような動きに合わせて、魔法陣が展開していく。

「《防魔障壁》」

 これで、私の魔力が及ぶ範囲を絞る。

「《強化》」

 心配症な上司の人のために、障壁を少し強くしておこう。

 そして、私の固有権能。

「《復元》」

 私が壊したところを元に戻す。

 ミシュミシュミシュ

 微妙な音を立てながら、亀裂が徐々に元の状態に戻っていく。

「その翼はしまえないのか?」

「無理。二枚だけでも解放させとかないと、今の状態、維持できない」

「分かった。そのまま続けてくれ」

 ミシュミシュミシュ

 復元はまだ続いている。
 天井だけでなく、あちこちヒビだらけだったらしい。

「だいたい、実験場なんだから、もうちょっと強くしといた方が」

「赤種に耐えるものなんて、作れるかよ!」

「あ、そう」

 ミシュミシュミシュ…………

 音が止まった。 

「元に戻ったようだな」

 よし、メダルを《封印》して《鑑定》も《視覚化》も解除する。
 これなら、翼をしまっても問題ない。

 それにしても、

「さすが皆さん、慣れてますね。騒ぎもせず落ち着き払っているなんて」

 翼を消して《防魔障壁》も解除した。

 そんな私に、ため息を付きながら、上司の人が話しかけた。

「皆、君の力に怖じ気づいて、ピクリとも動けなかっただけだ」

「え?」

 周りを見る。

 特級補佐官の二人は、試験を見ているので、耐性があったようだ。表情が青ざめている程度。
 でも、他の人はガタガタ小刻みに揺れている。

 もしかしなくても、これは怖がられるやつ?

 ま、嫌がらせさせるよりはいいかな。
 視線を逸らして、ため息をつく。

 と、私の耳に、甲高い声が突き刺さった。

「あなた! 平凡ですのに、なかなかやりますわね!」

「……………………。」

 エレバウトさんは、やっぱりどこまでも、エレバウトさんだった。
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