精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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2 新人研修編

3-0 騒ぎは騒ぎを呼ぶ

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「まさか、特級まで鑑定不能だとはな」

 鑑定会議は実験場で行われていた。

 実験場という名前が付いているが、どう見ても、試験を行った闘技場に似た作り。
 違いは円形か長方形か、天井があるかないかだけ。

 肝心の鑑定はというと、上級補佐官が片っ端からどんどん敗れていって終了。

 そして、今、ナルフェブル補佐官が鑑定できずに終了した。

 ナルフェブル補佐官ががっくりと肩を落とす。それに合わせるかのように青紫色の魔法陣が静かに消えていった。

 フィールズ補佐官はナルフェブル補佐官の前に挑戦していたので、特級補佐官が揃って失敗したことになる。

 うん、ナルフェブル補佐官が言った以上の事態になったね。

 しかし、特級補佐官はもう一人いる。

 そう、私だ!

「次は私ですね!」

 私は勢い込んで、上司の人に話しかけた。

 私は特級補佐官だ。まだ見習い期間だけど、いちおう、特級補佐官だ。

「え?」

 私を見て、きょとんとする上司の人。
 何その反応。

「私も特級です!」

「いや、君は特級補佐官だけど、特級じゃないだろ」

 そういう突っ込みは要らない。

 ま、上司の人の言い分は正しいけどね。
 私、鑑定技能は神級だから。
 こうみえて、上司の人より凄いのだ。

 経験では他の人に劣るのが難点だな。地道に経験値を稼ごう。

 上司の人の言葉で周りがざわつく。

 特級じゃないのに特級補佐官だと。
 確か技能なしだったよな。
 実績も実力もないのに。
 いきなり塔長室勤務だなんて。
 大神殿に知り合いがいるみたいだぞ。
 中途半端な時期に突然採用だなんてな。

 はぁ。忘れていたけど、ここでもか。
 嫌な声はどこに行っても、私を追い回す。そんなに技能なしが悪いんだろうか。

 技能なし含めて、まぁ、全部事実だけど。嫌な気分になるのには変わりない。

「次は僕だ」

 周りのざわつきを打ち消すように、上司の人が凛とした声で宣言する。
 今度は別の意味で周りがざわついた。

 上司の人が鑑定対象が置かれた台に近寄っていくと、ざわつきは自然と静かになる。上司の人の鑑定を邪魔しないように。

 円形の実験場の真ん中に、これまた円形の台が置かれ、その台の上にポツンと鑑定対象はあった。

 鈍く光る銀色の円い物体。

 貨幣よりは大きくて、勲章よりは小さい。
 鑑定室では、そのサイズ感から『小さいメダル』と呼んでいたそうだ。

 このメダル。最初の一枚は、自然公園を訪れた子どもが見つけた。

 勲章がわりにして遊んでいたのを親が見つけ、落とし物だと騎士団に届け出たのから始まって。自然公園でさらに二枚が見つかっている。

「前の三枚とはぜんぜん違いますわ!」

 なぜか、私の隣にいて、今までの経緯を解説をしてくれるエレバウトさん。

 いつも通りの勢いで小声。エレバウトさんも、上司の人の鑑定を気遣っているようだ。

 そして、エレバウトさんの声がする度に、少し離れたところにいる男性が反応する。

 この前、エレバウトさんを回収していた上司らしき人だ。じーっとエレバウトさんを睨んでる。
 あれは監視だな。何かやったら、また、回収するつもりなんだな、きっと。

「三枚目までは魔法陣を刻む前、四枚目は刻んだ完成品というところでしょうね」

 フィールズ補佐官が弱々しい声で補足してくれた。目の下の隈も成長している。
 かなり大変な鑑定だったのが窺えた。

 メダルの方に視線を戻すと、上司の人が、歌うような口調で言葉を紡ぎ、丁寧に丁寧に魔法陣を広げているところだった。

「レクシルド様の《鑑定》は滅多に見られませんのよ!」

 まぁ、そうだよね。

 上司の人は超級。特級補佐官が揃ってダメなときだけしか、出番はないはずだからね。

「見ているだけで、うっとりしますわね!」

 上司の人の魔法陣はまるでレース編みのようだ。
 複雑で細かく文字や形が入った魔法陣が、静かに編み上げられていくさまに、皆が注目する。

 ナルフェブル補佐官もフィールズ補佐官も魅入っていた。
 確かに。見るだけの価値はある。

 鑑定魔法。けっきょく、ちゃんと教えてもらえなかったんだよね。
 なにせ、鑑定眼があるから。

 じーっと上司の人の魔法陣を眺めている間にも、上司の人の《鑑定》は続いていた。

 ようやく、魔法陣が展開し終わると、あちこちから、賞賛のため息が聞こえてくる。

 完成した魔法陣はまさに芸術品だった。

 人によってここまで違うものなんだ。これは勉強になる。
 私のは一瞬で終わるからな。もっと勉強して魔法陣を練り上げられるようにしよう。

 上司の人の鑑定はまだまだ続いている。

 鑑定魔法用の魔法陣が展開したので、本番はこれからだ。

「《鑑定》」

 凛とした力のある言葉が発せられた。

 緻密な編み目模様のような魔法陣が光り、魔力の糸が、真ん中にあるメダルに向かって一斉に伸びていく。

 ところであのメダル。

 あれと似たような物を、どこかで見たことあるんだよね。どこだったかな。

 と、突然。周りがざわめいた。

 私が自分の記憶を探っている間に、メダルに変化があったようだ。

 上司の人の魔力の糸を拒むように、メダルの表面に刻まれた魔法陣が光り出している。
 光はメダルを包み込んで、魔力の糸の侵入を遮断した。

「くっ」

 さらに魔力を込める上司の人。

 糸が針のようになり、メダルを守る光に向かって突き刺さる。

 キーーーーーン

 澄んだ音が十数秒、続いた。

 そして、光と音が同時に消える。
 おおっ?! 成功した?!

 ドサッ

 大きな音を立てて片膝を着く上司の人。
 ヤバい。顔色が真っ青だ。

「くっ」

 上司の人が呻くと、芸術品のような魔法陣がサーッと消えていった。
 上司の人の鑑定が失敗した。

 誰も何も喋らない。

 小さいメダルは相変わらず鈍く光っている。

「師匠を呼ぶようだな」

 疲れきった上司の人が、掠れた声で静かに宣言した。
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