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2 新人研修編
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寒々とした赤の樹林が、私の目の前に広がっている。
ここで、ネージュ・グランフレイムとしてのすべてを失った。
あれから二ヶ月。
私は出張で赤の樹林にやってきた。
職場の先輩ナルフェブル補佐官、護衛のメモリアもいっしょだ。ひとりではない。
そもそも、ナルフェブル補佐官のおまけで、私とメモリアがくっついて来ているだけ。
緊張する必要はまったくない。
赤の樹林はあのときと同じ外観で、私たちを出迎えた。
空気は冷たいが、良く晴れていて乾燥している。早朝は薄曇りだった空もすっかり青空だ。
ときおり吹く風が木々を揺らし、鳥のさえずりや動物の気配が感じられる。
外観こそあのときと同じだったが、雰囲気はまったく違う。
これがいつもの赤の樹林だ。
「とくに変わりはないようだね」
最後に車から降りてきたナルフェブル補佐官が、辺りを窺いながら、声をかけてきた。
そう、車!
いつものように出勤して、第一塔に集合した私たちは、いくつか注意を受けた後、車でここまでやってきたのだ。
ナルフェブル補佐官は技能なし。
精霊獣付きの車は使えない。馬付きの車か、乗馬で行くのかなぁ、と思っていたのに。
なんと! 輓獣なしの車!
第三塔が道具や魔導具の開発を担当しているのは知っていた。
その第三塔とナルフェブル補佐官が組んで、魔導具の車を開発してるというのは、初めて聞いた。
まだ、試作段階で、あれこれ研究を重ねて改良しているって話だけれど。
この車、馬も精霊獣もいらなくて、魔力を使って車だけで動く。
「開発中の魔力貯蔵装置が完成すれば、いずれ、誰でも動かせる車ができるかもしれない」
普段は控えめでよく悲鳴をあげるナルフェブル補佐官が、そう熱く語ってくれた。
いつもとはまるで別人のよう。
凄い! 凄すぎない?!
ナルフェブル補佐官と魔導具の車を交互に見ながら、凄い凄いとそれしか言葉が出なかった。
ナルフェブル補佐官を尊敬の目で見ていたら、どうやら、じーっと見過ぎていたらしい。
つい、興奮し過ぎた。
ラウが私の見送りに来ているのをすっかり忘れるほど。
何か誤解したラウが、ナルフェブル補佐官を怖い顔で睨みつけて。
睨みつけられたナルフェブル補佐官が、悲鳴をあげて。
そして、いつものナルフェブル補佐官に戻ってしまった。ちょっと格好よかったのに残念だ。
もちろん、ちょっと格好よかったという感想は口に出していない。
私だって、言って大丈夫なこととダメなことの区別くらいつく。
でもこれで、ナルフェブル補佐官の命が助かったことだけは間違いない。
「ちょっといいかい。いろいろデータを録らないといけないんだ」
「これを出せばいいんですね」
命拾いしたナルフェブル補佐官が、調査の準備を始めた。
車から荷物を引っ張り出しているのを、私とメモリアも手伝う。
「収集するデータのリストだ」
空気中の混沌は、その場で調査し、ノートに記録し、土、葉、樹皮といったものはサンプルを採って持ち帰って調査するみたいだ。
引っ張り出した荷物には、サンプルを入れる容器がたくさん入っていた。
それぞれ番号が振ってあるので、どこで何を採ったかの記録もしやすい。
「いくつか観測地点がある」
どうやら、赤の樹林を突っ切る通路に沿ってデータ収集を行うらしい。
まぁ、周辺部から最深部まで揃うし、道沿いなので、移動も楽だ。
いつもはひとりで行っているので、効率重視なんだろう。
「そこで、混沌の濃度、精霊力を調査するんだ」
あれ? 精霊力?
「ナルフェブル補佐官も技能なしですよね?」
「ああ、そうだけど?」
「技能なしなのに、精霊力はどうやって調査するんですか?」
精霊魔法の技能がないと、精霊は見えないし、精霊力も感じない。
技能なしなのに、精霊力を調査って?
「鑑定で分かるけど?」
「えええ!」
さらりと言われた。
鑑定! 《鑑定》ってまさか、そういうのまで鑑定できるの?!
鑑定、便利すぎない? 精霊魔法より便利じゃない?
「もしかして、知らなかった? っていうか、いままで気づかなかったのか?」
「はい」
ナルフェブル補佐官から、訝しげな視線を感じる。
「嘘だろ。君は《鑑定眼》を使えるんだから、視ようと思えば視えるよな?」
「えーーーっと」
愕然とする。
今まで、視えるなんて知らなかったから、視ようとなんて思わなかったわ。
そんな私の反応を見たナルフェブル補佐官から、鑑定眼の発動を促される。
「やってみろ。今すぐ」
「はい」
まずは赤の樹林とは反対側を向く。
赤の樹林は精霊力がほとんどない。精霊力が視えるか試すなら、赤の樹林とは反対側だ。
いったん目を閉じて。
《鑑定眼》!
私は、そろーっと目を開いた。
「!!! 視えました!」
目の前には、見たこともないものが存在していた。
それは、あちこちに浮いていたり、動いていたり、その場に佇んでいたり。
初めて目にするものばかり。
半透明の姿の、これが精霊なんだ。
精霊の力も視える。
精霊の力、つまり精霊力は精霊の種類によって色が違っていた。
そして、精霊がいるところはキラキラ生き生きしている。
前に、マリージュが言っていたことが、少しだけ理解できた。
「もうちょっと自分の能力を磨こうな」
「はい、そうします」
精霊に夢中な私は興奮しながら、あちこちキョロキョロしていて、うっかり本来の目的を忘れかけたほど。
ナルフェブル補佐官の呆れたような声が背後から聞こえ、私を現実に引き戻した。
精霊力も視えたことだし、さっさとデータ収集してしまおう。
ここで、ネージュ・グランフレイムとしてのすべてを失った。
あれから二ヶ月。
私は出張で赤の樹林にやってきた。
職場の先輩ナルフェブル補佐官、護衛のメモリアもいっしょだ。ひとりではない。
そもそも、ナルフェブル補佐官のおまけで、私とメモリアがくっついて来ているだけ。
緊張する必要はまったくない。
赤の樹林はあのときと同じ外観で、私たちを出迎えた。
空気は冷たいが、良く晴れていて乾燥している。早朝は薄曇りだった空もすっかり青空だ。
ときおり吹く風が木々を揺らし、鳥のさえずりや動物の気配が感じられる。
外観こそあのときと同じだったが、雰囲気はまったく違う。
これがいつもの赤の樹林だ。
「とくに変わりはないようだね」
最後に車から降りてきたナルフェブル補佐官が、辺りを窺いながら、声をかけてきた。
そう、車!
いつものように出勤して、第一塔に集合した私たちは、いくつか注意を受けた後、車でここまでやってきたのだ。
ナルフェブル補佐官は技能なし。
精霊獣付きの車は使えない。馬付きの車か、乗馬で行くのかなぁ、と思っていたのに。
なんと! 輓獣なしの車!
第三塔が道具や魔導具の開発を担当しているのは知っていた。
その第三塔とナルフェブル補佐官が組んで、魔導具の車を開発してるというのは、初めて聞いた。
まだ、試作段階で、あれこれ研究を重ねて改良しているって話だけれど。
この車、馬も精霊獣もいらなくて、魔力を使って車だけで動く。
「開発中の魔力貯蔵装置が完成すれば、いずれ、誰でも動かせる車ができるかもしれない」
普段は控えめでよく悲鳴をあげるナルフェブル補佐官が、そう熱く語ってくれた。
いつもとはまるで別人のよう。
凄い! 凄すぎない?!
ナルフェブル補佐官と魔導具の車を交互に見ながら、凄い凄いとそれしか言葉が出なかった。
ナルフェブル補佐官を尊敬の目で見ていたら、どうやら、じーっと見過ぎていたらしい。
つい、興奮し過ぎた。
ラウが私の見送りに来ているのをすっかり忘れるほど。
何か誤解したラウが、ナルフェブル補佐官を怖い顔で睨みつけて。
睨みつけられたナルフェブル補佐官が、悲鳴をあげて。
そして、いつものナルフェブル補佐官に戻ってしまった。ちょっと格好よかったのに残念だ。
もちろん、ちょっと格好よかったという感想は口に出していない。
私だって、言って大丈夫なこととダメなことの区別くらいつく。
でもこれで、ナルフェブル補佐官の命が助かったことだけは間違いない。
「ちょっといいかい。いろいろデータを録らないといけないんだ」
「これを出せばいいんですね」
命拾いしたナルフェブル補佐官が、調査の準備を始めた。
車から荷物を引っ張り出しているのを、私とメモリアも手伝う。
「収集するデータのリストだ」
空気中の混沌は、その場で調査し、ノートに記録し、土、葉、樹皮といったものはサンプルを採って持ち帰って調査するみたいだ。
引っ張り出した荷物には、サンプルを入れる容器がたくさん入っていた。
それぞれ番号が振ってあるので、どこで何を採ったかの記録もしやすい。
「いくつか観測地点がある」
どうやら、赤の樹林を突っ切る通路に沿ってデータ収集を行うらしい。
まぁ、周辺部から最深部まで揃うし、道沿いなので、移動も楽だ。
いつもはひとりで行っているので、効率重視なんだろう。
「そこで、混沌の濃度、精霊力を調査するんだ」
あれ? 精霊力?
「ナルフェブル補佐官も技能なしですよね?」
「ああ、そうだけど?」
「技能なしなのに、精霊力はどうやって調査するんですか?」
精霊魔法の技能がないと、精霊は見えないし、精霊力も感じない。
技能なしなのに、精霊力を調査って?
「鑑定で分かるけど?」
「えええ!」
さらりと言われた。
鑑定! 《鑑定》ってまさか、そういうのまで鑑定できるの?!
鑑定、便利すぎない? 精霊魔法より便利じゃない?
「もしかして、知らなかった? っていうか、いままで気づかなかったのか?」
「はい」
ナルフェブル補佐官から、訝しげな視線を感じる。
「嘘だろ。君は《鑑定眼》を使えるんだから、視ようと思えば視えるよな?」
「えーーーっと」
愕然とする。
今まで、視えるなんて知らなかったから、視ようとなんて思わなかったわ。
そんな私の反応を見たナルフェブル補佐官から、鑑定眼の発動を促される。
「やってみろ。今すぐ」
「はい」
まずは赤の樹林とは反対側を向く。
赤の樹林は精霊力がほとんどない。精霊力が視えるか試すなら、赤の樹林とは反対側だ。
いったん目を閉じて。
《鑑定眼》!
私は、そろーっと目を開いた。
「!!! 視えました!」
目の前には、見たこともないものが存在していた。
それは、あちこちに浮いていたり、動いていたり、その場に佇んでいたり。
初めて目にするものばかり。
半透明の姿の、これが精霊なんだ。
精霊の力も視える。
精霊の力、つまり精霊力は精霊の種類によって色が違っていた。
そして、精霊がいるところはキラキラ生き生きしている。
前に、マリージュが言っていたことが、少しだけ理解できた。
「もうちょっと自分の能力を磨こうな」
「はい、そうします」
精霊に夢中な私は興奮しながら、あちこちキョロキョロしていて、うっかり本来の目的を忘れかけたほど。
ナルフェブル補佐官の呆れたような声が背後から聞こえ、私を現実に引き戻した。
精霊力も視えたことだし、さっさとデータ収集してしまおう。
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