精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
67 / 384
2 新人研修編

2-0 就職は騒ぎの第一歩

しおりを挟む
 私が第一塔の塔長室に仮配属されてから、二週間が経過した。

 何事もなく順調に研修は進んでいる。

 と、言いたいところだけれど、世の中はそう甘くない。
 技能なしに対しては、さらに厳しい。

「なぜ、あなたのような平凡な方が、塔長室所属になるのかしら?」

 そして今、私の目の前には、ルミアーナ・エレバウトさん(恋人なし、十九歳)がいた。

 明るい金髪がクリンクリンしている。高く一つにまとめているので、クリンクリンがかわいい。目は金茶。よくある色だ。

「おかしくはなくて?」

 私にそう言われても困るんだけどね。決定権ないし。
 文句は私の上司の人に直接、言ってほしい。

「こんな平凡な方が、あの、レクシルド様のおそばにいるだなんて」

 エレバウトさんは上級補佐官だ。
 長いこと、第一塔長の塔長室配属を希望している、と言っていた、本人が。

 第一塔長の王子さまを崇拝している、王子さま大好き人間だ。

 あの王子さまのどこが良いのか、正直、ちょっと理解できない。

 あの人、ラウとやり合うくらいのくせ者だし。フィールズ補佐官なんて『ものぐさ』って呼んでたし。

「あたくしの方があなたより、何倍もレクシルド様に相応しいでしょうに」

 返事をしたくても、相応しいの基準が分からない。困ることが続く。

 上司の人よ、自分の女性関係くらい自分でどうにかして。

「仮配属です。研修が終われば他部署に回されますので」

 だから毎回、同じ言葉しか返せない。

「あら、塔長室で研修だなんて、もっとおかしいでしょう?」

 そして毎回、同じ文句を言われる。
 だから、そう言われても困るんだって。

 こんな感じで、ほぼ毎日のように誰かに絡まれるのだ。
 今日は資料整理の最中、第一塔の二階、資料室に本やら書類の束やらを戻しに行ったときに、絡まれた。

 資料室はところ狭しと書架がたくさん列をなしている場所。窓はない。
 資料の貸し借りと資料整理で担当者がいる以外は、基本、静か。

 そんな場所なので、エレバウトさんの高い声がおもしろいほど、よく響く。

 これだけ騒げば誰かに注意されてもおかしくないのに。
 いつものやりとりなので、もはや、何事かと見る人すらいない。

 ちなみに、エレバウトさんの出現率が一番高く、ついで出現率が高いのは、マギナローザ・ノルンガルスさん。
 ノルンガルスさんには昨日、第一塔の入り口で絡まれた。

 何かと絡んでくるのは、今ではこの二人だけ。

 あとは絡むというよりは、グループで私の陰口を言っていたり、グループで無視してきたり。
 その程度なので実害はない。

 まぁ、グランフレイムの頃と変わりはないので耐性はできている。
 どこに行っても、こんな感じなんだと思って、ちょっとがっかりしたけど。

 塔長室に配属になった当初は、階段から突き落とされたり、階上から水をかけられたり、物が降ってきたり、書架が倒れてきたり、そんなことがよくあった。

 でも、その場に居合わせた人は翌日には消えていて、不思議に思ったものだ。

 行政部の多忙な部署に異動になったり、王都から離れた地域の担当になったり、家庭の事情で退職したりで、その数、ざっと十人ほど。

「年明けから春にかけては、急な異動や退職が多いからな」

 この前、ラウに訊いたら、にっこり笑って教えてくれた。
 師団長だけあって、ラウは人事のことにも詳しい。さすがだと感心する。

 さて、問題は目の前にいるエレバウトさんだ。

 どうしよう。

 研修期間中にトラブル起こしたくない。
 なんとか、穏便にお引き取り願いたい。

「あのー、これ置いてすぐ戻らないといけないので」

「あら? 雑用は楽なお仕事でよろしいわね」

 これ、重いから楽ではないんだけどな。しかも、ずっと立ち話してるしな。

「あたくしなんて、小さいメダルやら偽造の護符やら、鑑定で大忙しですのよ」

 忙しいなら、自分の部署に戻ればいいのに。ずっと立ち話してるから暇なのかと思ってたわ。

「それで、あなた。あたくしの、」

「いた! エレバウト!」

 バーンと大きな音がして、資料室の扉が開かれた。

 エレバウトさんの同僚の人かな。あちこち駆け回ったんだろう、ぜいぜいと肩で息をしている。
 資料室の担当者は、さすがに嫌ーな顔をして、闖入者を睨んでいた。

 エレバウトさん、呼ばれてるよ。

 闖入者と目が合い、押し黙るエレバウトさん。
 と思ったら、くるっと私の方に向き、話を続け始めた。

「えーっと、それで、」

 …………見なかったことにするようだ。

 そんなこと、相手が許すはずもない。
 ましてや、あちこち探し回ってようやく見つけたんだろうし。

「エレバウト! さっきから呼び出してただろう! 何してる! 鑑定が大量にたまってるんだ! さっさと戻れ!」

「ひっ。きょ、今日はこの辺で終わりにして差し上げますわ!」

 こうして、エレバウトさんは穏便に回収されていった。

 エレバウトさんの所属は鑑定室だ。

 鑑定室と情報室は、第一塔の花形で人気部署。
 あの様子では鑑定室はかなり大変な状況のようだ。逆に、そんな中、よく抜け出してきたよな。

 ふー

 私は一息ついて、手に持った本やら資料の束やらをカウンターに置いた。
 担当者に説明し、書類を作ってもらう。

 本はここで借りた分なので返却、資料の束はこっちで作成した分なので持ち込み。それぞれ、書類にサインして終了。

 これだけの仕事なのに、精魂尽き果てる。

「やぁ、大変だったね。ご苦労さま」

 塔長室に戻ると、上司の人がのほほんと声をかけてきた。

 うん? この様子だと、エレバウトさんに絡まれていたのを知ってるのかな?

「上司の人、ご自分の女性関係はご自分でなんとかしてください」

「おーい、言い方」

 手にした書類をパタパタさせ、自分のイスにふんぞり返る上司の人。

「エレバウトくんも、鑑定技能は優秀なんだけどねー」

 やっぱり知ってたんだ。

「鑑定技能だけじゃ、ここは無理なんだよねー」

 どうやら、エレバウトさんの塔長室配属は、夢のまた夢ってとこらしい。

 はー

 鑑定依頼が集中しているようで、鑑定室もしばらくの間、忙しいそうだ。
 忙しい間だけでも、エレバウトさんの襲撃がなくなりますように。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

処理中です...