精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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2 新人研修編

1-9 副官という仕事

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 ハァァァァァ

 いやまったく、本当に困ったことになったというかなんというか。

 上位竜種でもない、普通の竜種は部隊長か師団長直属の副官が定番職なはずなのに。
 俺、何の間違いか、総師団長直属の副官に抜擢されてしまいました。

 俺が就任するには最高ポストだし、そのせいで、肩の荷が重いというか、毎日、頭痛と胃痛と腹痛がお友達というか。

 副官の仕事というのは、その名の通りサブの仕事。
 上官の予定管理に始まって、仕事の穴埋めまで。多岐に渡るんですよ。

 そして、俺は今、副官として大変な仕事を仰せつかりまして。
 関係先の直属副官たちを集めたわけなんです!

「マディアス・コーネリアス、だったっけ?」

「カーネリウスです。そろそろ覚えてくださいよ」

「アー、はいはい。アンタ、いっつもショボクレタ顔、してるわねー」

 エルヴェスさん、悪口挟まないでもらえます?

 第六師団長、黒竜さんの成婚記念祝と称して竜種全員召集されて、いつもの竜殺し亭で大宴会をしたのが、ついこの前のこと。

 あの黒竜さんでさえ伴侶捕獲に成功したんだと思うと、独身竜種全員、歓喜に沸いたものですよ。

 だって、あの黒竜さんですよ?

 しかも捕獲したのが、これまた、かわいい奥さんじゃないですか!
 最強竜種の奥さんだけあって、ちょっと、いや、かなりあれでしたけど。

 ハァァァァァ

「ソンナ顔じゃカノジョできないわよー」

 エルヴェスさん、傷を広げるようなこと、言わないでもらえます?

「黒竜さんのお相手様が、あんなに凄いとは思わなかったんです」

 俺、本気で死を覚悟しました。

「アー、美少女ちゃんね。でも、いい匂いしたでしょ。アタシ、あの匂いだけでご飯食べられるわー」

 エルヴェスさん、軽く竜種を超えてきますね。

「匂いって、あの焦げ臭いやつですか?」

「…………お相手様、また何かやったんですね」

 カーシェイさんが悟った表情で確認してきました。

「訓練用闘技場の地面に直径一メートルくらいもある、おっきな穴、空けました」

 魔法防御がガッツリかかっているから、穴なんて空くはずないんですよ。

「果てしなく深い穴でした」

 当然、標的も消え去りました。
 あの標的、どこに行ったんですかね。

「黒竜さんが、自分にも穴を開けてほしいって、照れながら言ってて。
 捕獲成功者になると、ああなるんだなぁと」

 さすが、捕獲成功者の精神は違います。
 俺、ガタガタ震えることしかできませんでしたからね。

「…………あれは、うちの師団長だけだと思いますよ」

「でも、あれじゃ、穴が開くどころではなく、存在が消されます」

「同意します。捕獲に同行しましたが、俺も死を覚悟しました」

 うひぃ、やっぱり!

「黒竜さん、まだ新婚期間ですよね?」

 これを確認しないといけません。
 今回の仕事に直接は関係しませんが、重要事項です。

「当たり前でしょう。ついこの前、いっしょに暮らし始めたばかりです」

「美少女ちゃんと新婚ホヤホヤ。お熱いわよねー アァ、師団長、羨ましすぎるわー」

 うひぃ、やっぱり!

 竜種の新婚期間て、竜種が一番、神経質で不安定になる時期なんです。
 そんな時期に、あんな決定になるとは。

 ハァァァァァ

「ということは、これから、ちょっとしたことから夫婦のすれ違いに夫婦喧嘩、家庭内別居に離婚の危機、はたまた、お相手様の昔馴染みや幼馴染みの登場、想いの再燃、駆け落ち騒動に発展して、いやいや、修羅場だぁぁぁぁ」

「カーネリウス、落ち着きなさい」

「ソウよ、ショボクレ顔!」

 エルヴェスさん、だから、悪口挟まないでもらえます?

「どうして悪い方に考えるんですか?」

 そう言われても、想像が悪い方へ悪い方へ発展するんです。

 ハァァァァァ

「でなければ、仕事で素敵な男性との出会い、職場の仲間の噂話から夫婦がお互い勘違いをして夫婦喧嘩、家庭内別居に離婚の危機、はたまた、相談相手と頻繁な密会から愛が芽生えて、いやいや、修羅場だぁぁぁぁ」

「カーネリウス、落ち着きなさいって」

 これが落ち着いてなんていられますか!

「アノね、ショボクレ顔!
 師団長と美少女ちゃんは、コレから、夫婦のすれ違いを通して愛を深め、晴れてシアワセいっぱいの結婚式よ!」

「おぉ、なるほど! そう来ますか!」

「そこへ美少女ちゃんの元護衛くんが登場! 人妻になってしまったお嬢様に対する元護衛の許されざる恋!」

「おぉ???」

「美少女ちゃんを忘れられない元護衛くんは、結婚式の場から美少女ちゃんを連れ去って愛の逃避行! それを追う…………ってアレ? 修羅場?」

「やっぱり修羅場だぁぁぁぁ」

「だから、カーネリウス、落ち着きなさい」

 カーシェイさん、そう言われても!

「エルヴェスも、カーネリウスで遊ばないでください」

「ウヘヘ」

 エルヴェスさん、怖い妄想はやめてもらえます?

「いいですか、カーネリウス。
 師団長は、お相手様の目をかいくぐって、見事、熊ポジションから夫ポジションに昇格しています」

 はい? 意味が分かりません。

「エルヴェスさん、どういう意味ですか?」

「アー、師団長、カーシェイ使って書類をごまかして、婚姻許可書にサインさせたらしいわー キャッ、カワイイ」

 どこが?!

「ソレまで、熊って呼ばれてたのが、イッキに『ラウ』って愛称呼びに進化よ、進化! オット、サイコー!」

 よく分かりませんが、とにかく今はラブラブってことですかね。羨ましいです。

「そしてですね、カーネリウス。
 師団長はお相手様を言い含めて、今度は公私ともにパートナーです」

「美少女ちゃん、師団長に配属されるのよねー 師団長に就職だなんて、ヤルワ、師団長!」

 盛り上がる二人に、告げなければなりません。

「…………問題はそれなんです」

「「はい?」」

 二人が固まりました。
 ですよね、知りませんよね、それを二人に告げるのが、今回の俺の仕事ですからね。

「すぐには、黒竜さん配属にならないんです」

「ハアー?!」

「どういうことですか?!」

 二人が青くなりました。
 ですよね、そうなりますよね、俺もきっと青くなってますよね。

「特級補佐官の研修があるので、しばらく第一塔塔長室に仮配属となるんです」

 重要決定だから、先に副官に伝えとけと、総師団長。

 俺の補佐官~と悶えている黒竜さんが、この事実を知ったら、どうなるか。

 怖い、怖すぎる。

 お願いだから、本部には怒鳴り込まないでほしい。文句は第一塔長さんに言ってほしい。

 そして、新婚期間という大事な時期に、一時とはいえ、黒竜さんから離れるお相手様。
 職場恋愛みたいなものに発展してしまったら! マジでどうしよう!

 終わる。俺、終わる。
 きっと巻き込まれて、俺、終わる。

 無言のまま頭を抱えるカーシェイさんに、目が虚ろになってるエルヴェスさん。

「カーシェイ。コレ、絶対に何かが無事に終わらなそうな気がするわー」

 ですよねー
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