精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

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 翌日。

 嬉しそうに出勤していったラウを見送った後、姿見を介して、テラと就職対策会議を再び行った。

 もちろん、昨日の安眠妨害の謝罪もきっちり行った。
 原因はラウだけど、テラを巻き込んだのは私なわけなので。

 いろいろな意味で疲れきった身体に鞭を打って会議に臨む。
 肉体的な疲れは赤種の権能でどうにかなるけど、精神的な疲れはどうにもならない。

「で? 黒竜から、就職の許可もらったって?」

「はい」

 寝不足で調子が悪いと自己申告してきたテラ。声も視線も、低く冷え冷えとしている。

 昨日のあれで今日のこれなので、私の方は自然と敬語だ。

「で? 僕から補佐官の推薦して、紹介状を送っておけばいいんだね?」

「はい、お願いします」

 テラは赤種の一番目なので、立場的には国王と同格。
 見た目は子ども、中身は赤種。
 トップの貫禄もバッチリだ。

 私も赤種の四番目だから、テラと同じ立場なんだろうけど、テラより遥かに認知度も知名度も低い。

 なので、ここはテラに頼るしかない。
 テラは師団本部にもよく顔が利くとのこと。
 存在が存在なせいか、見た目が子どもなせいか、公には伏せられているそうだ。

 そんなテラに推薦してもらったり紹介してもらったりすれば、就職の話はすんなり通りそうだと思って、お願いしてみた。

「で? 黒竜、なんか言ってた?」

「朝起きたら『話を通しておいたから』って言われました」

 夫は上位竜種なので、師団内ではそれなりの地位にいる。

 とはいえ、昨夜に出した話が、今朝に通っているって。
 いつ何をしたのかが分からない。それに何の話を通したのかも分からない。

「あいつ、すでに動いてるのか」

「そうですね」

 一晩中、私にくっついていたはずなんだけどね。

「うーん、動きが早すぎるな」

 顎に手を当てて考え込むテラ。テラの思考を邪魔しないよう静かに待つ。
 しばらくの沈黙の後、テラがまた話し始めた。

「ところで、黒竜になんて言って、就職許可もらったの?」

「補佐官になって、第六師団で仕事したいって」

「一言一句、正確に」

 かいつまんで伝えた私に対して、詳しい内容を求めるテラ。

「ラウといっしょに仕事したい。
 補佐官になって、第六師団で働けば、昼間もラウといっしょ。
 昼も夜もラウといっしょにいたい。
 以上」

 一瞬、無言になるテラ。

「…………喜んだだろ」

 やっちゃったな、っていう目で見ないでほしい。

「はい」

「それで昨日、ああなったのか」

「はい」

「黒竜、単純だな」

「ラウは純粋なんです」

 テラが思うほど、ラウは単純ではないと思う。確かに行動指針は単純だけど。

 それを言ったら、赤種や他の竜種だって自分の権能や行動指針に忠実なので、全員、単純ということになる。

「あいつが純粋か? ま、純粋なやつほど、面倒だけどな」

 テラのラウに対する評価が相変わらず低い。

「とにかく分かった。推薦状と紹介状、用意して送っとく」

「ありがとう。テラ」

「それと」

 と言って、話を続けるテラ。
 まだ何か連絡事項でもあったかな。

「補佐官のトップ、第一塔長のレクシルドは僕の舎弟で、黒竜の馴染みだ。
 話は通しておくから。何かあったら、レクシルドに相談するといい」

「何かとは、具体的に」

「君の夫の暴走以外に何かあるか?」

 そこで顔をしかめないでほしい。

 ラウだって、わざと暴走しているわけではない。あれは、きっと、本能だ。

「ありません」

「官職は二月に募集して、三月に試験やって、四月に新規採用となるから。
 とくに準備は要らないけど、そのつもりでいて」

「分かりました」

 これで就職対策会議が終了した。

 就職まであと二ヶ月もあるのか。

 話が進んだとはいえ、先は長かった。まぁ、仕方ない。
 準備は要らないと言われたけど、少し勉強でもしておこう。

 私はさっそく、試験の参考になりそうな本の手配を、メモリアにお願いした。

 さて、少しは忙しくなるかな。




 と思っていた、その日の午後。

「おい、四番目」

「テラから連絡があるなんて、珍しいね」

 そう。珍しいも何も、姿見を使ったやりとりで、私がテラから呼び出されるのは初めてだ。

 いつもは私が呼び出して、ラウの愚痴を言ったり、ラウの相談に乗ってもらっている。

 そして、それを惚気だとかイチャイチャだとか言われて、テラに嫌がられている。

 しかし。テラからの連絡、何か緊急の用事だろうか。

「明後日だ」

 何の前触れもなく、告げるテラ。
 それだけ告げられても意味が分からない。

「何が?」

「採用試験」

 あれ? 補佐官のだよね?
 さっき話したときは確か……

「三月でしょ? 今は一月だけど?」

「明後日になった」

「なんで? って、まさか……」

 心当たりはひとりしかいない。

「君の夫しかいないだろ」 

「はい」

 やっぱり。
 話を通しちゃったんだ。

 テラも同じ事を考えていたらしい。諦めたような表情で、話を先に進める。

「準備は要らない。黒竜と本部に行ってくれ」

 ラウを連れていかないといけないのか。暴走しないといいんだけど。ちょっと心配だな。

 ではなく。

 ラウの暴走の心配より、私の試験の心配だ。落ちたら就職できない。

 それとなく、試験について探る。

「試験は何をするの?」

「筆記と実技。筆記は知識問題だな。実技は鑑定技能の他、体力、実戦力など基本的な能力を見る」

 けっこう、たくさんあるな。

「注意することは?」

「他の男と仲良くするな」

「はぁ?」

 試験について訊いたんだけど。
 なぜ、他の男?

「黒竜が暴走するぞ」

 あ、そっちの心配か。

 でも、友だちとか知り合いはほしいな。

 ラウ、テラ、メモリアしか知り合いがいないとなると、知識や考えが偏りそうなんだよね。
 話し相手も、遊びや買い物に行ったりする相手もほしいしね。

 私が他のことを考えているのが分かったのか、テラが釘を刺してきた。

「あいつが暴走したら、君の就職、キレイサッパリなくなるからな」

「はい」

 私の試験の心配より、ラウの暴走の心配の方が重要だった。
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