精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

0-0 精霊の国の補佐官という仕事

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 ここは精霊の国。
 精霊の加護厚いエルメンティア王国。

 この国の人は皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。




 摂理の神エルムの加護たっぷりの国なわけで、エルムが司る自然の力、竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前。
 精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、うじゃうじゃいるからなんだけど。

 精霊の加護が厚いんじゃなくて、あくまでも摂理の神エルムの加護が厚いだけ。
 それでもって精霊魔法を扱える人がうじゃうじゃいるだけ。

 それなのに、うちの王国は精霊に愛されているのよ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言うようだ。

 そんな精霊の国には『補佐官』という、普通の職業ぽい名前の、特殊な職業がある。

 他国で補佐官というと、上司や組織の予定を調整したり管理したり、業務を補佐したり補充したり、様々な雑務をこなす雑用係のような職種であるらしい。

 が、エルメンティアでは少々事情が異なる。

 エルメンティアの補佐官は、鑑定技能を駆使して業務を分析し活動する、いわば業務補佐の専門家。
 鑑定技能がないとなれない重要職だ。

 当然ながら、鑑定士のような仕事も回ってくる。
 文字通り、補佐官が業務を補佐するというのは他国と同じ。

 他国の補佐官のように、鑑定技能がなくて補佐業務を行う役職は、単純に『補佐』と呼ばれる別の職業だ。

 エルメンティアでも、補佐官と補佐の違いが分からない人もいるので、もっと周知してもらいたいと思う。

 さて、鑑定技能も、精霊魔法と同じく先天技能と言いたいところだけれど、実は先天技能と後天技能の両方がある。

 そのため、生まれつき持った才能というだけでなく、後から努力して修得可能な技能だったりするのだ。

 なんか凄くない? 凄いよね?

 もちろん、全部が全部ではない。
 鑑定技能のトップランク、赤種の一番目で創造の赤種、テラが言うには、

「鑑定の後天技能は中級まで。分野によっては上級も可能」

 そして、特級以上は先天技能だけだそうだ。

 エルメンティアと他国との違いが、この先天技能にあった。

 精霊の国だなんだと自慢気にしているこの国、実は始まりの三神の加護を持った土地も含まれている。

 鑑定技能は、始まりの三神の一柱、運命と宿命の神バルナの加護。
 つまり、鑑定の先天技能は、バルナの加護があるエルメンティアにしか生まれない。

 しかも、鑑定の先天技能持ちはエルメンティアでも全王国民の一割に満たない(大神殿の調査による)稀少技能。

 もちろん王国も稀少技能を他国に渡したくないので、特殊な官職『補佐官』を用意して、待遇は手厚くしている。

 だから、他国では真似したくても真似できない。それが『補佐官』という仕事。

 頭打ちがあるとはいえ、努力してもどうにもならない精霊魔法技能より、努力すればある程度はどうにかなる鑑定技能は、私にとって、希望の星のように思える。

 かくいう私の鑑定技能は先天技能の一部なので、努力云々なんて偉そうなことは言えないけど、努力して技能は磨いていきたい。

 そんな私は赤種の四番目、破壊の赤種だ。テラとは同類に当たる。

 少し前までは、ネージュ・グランフレイムという名で、精霊魔法の一大家門で技能なしの第二子として生きていた。
 ネージュは親がつけてくれた大切な名前だった。

 ところが、ちょっと特殊な事情で、大切な名前も家門名も住んでいる家も失った。

 私の大切な名前は、今では、こじんまりとした小さな墓石につけられている。
 そんな私の墓を訪れる人はいない。

 葬儀のときの花が、枯れて茶色くなったまま置かれている。生前の私の扱い、そのものだった。

 そうして死んだ私は、今はクロスフィア・クロエル・ドラグニールだ。

 創造と終焉の神がつけてくれた名前と、夫がくれた家門名で新たな人生を楽しんでいる。
 人生、様変わりしたが、相変わらず精霊魔法は使えない。

 特殊な職業『補佐官』も、やはり、同じ等級であれば、精霊魔法技能を持った人が優遇されるそうだ。

 どの職種、職場でも、精霊魔法が使えなければ『技能なし』扱いされるのは変わらないらしい。

 やっぱりエルメンティアはエルメンティア。精霊魔法推しが染み着いていて、そんなところはちょっとがっかりする。

 確かに、精霊魔法、優秀だけどね!

 プラスアルファの技能が、精霊魔法かそうでないかで区別されなくても良いと思う。

 この国の約三割である精霊魔法技能がない私たちだって、ここで生きている以上は、幸せに暮らしたい。

 だから、技能なしと言われようが、強く、強くなるしかないんだ。




 ここは精霊の国。
 精霊の加護厚いエルメンティア王国。

 精霊魔法が扱えない人間は、強く生きていかなければならない、そんな国。
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