56 / 384
2 新人研修編
0-0 精霊の国の補佐官という仕事
しおりを挟む
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
この国の人は皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
摂理の神エルムの加護たっぷりの国なわけで、エルムが司る自然の力、竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前。
精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、うじゃうじゃいるからなんだけど。
精霊の加護が厚いんじゃなくて、あくまでも摂理の神エルムの加護が厚いだけ。
それでもって精霊魔法を扱える人がうじゃうじゃいるだけ。
それなのに、うちの王国は精霊に愛されているのよ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言うようだ。
そんな精霊の国には『補佐官』という、普通の職業ぽい名前の、特殊な職業がある。
他国で補佐官というと、上司や組織の予定を調整したり管理したり、業務を補佐したり補充したり、様々な雑務をこなす雑用係のような職種であるらしい。
が、エルメンティアでは少々事情が異なる。
エルメンティアの補佐官は、鑑定技能を駆使して業務を分析し活動する、いわば業務補佐の専門家。
鑑定技能がないとなれない重要職だ。
当然ながら、鑑定士のような仕事も回ってくる。
文字通り、補佐官が業務を補佐するというのは他国と同じ。
他国の補佐官のように、鑑定技能がなくて補佐業務を行う役職は、単純に『補佐』と呼ばれる別の職業だ。
エルメンティアでも、補佐官と補佐の違いが分からない人もいるので、もっと周知してもらいたいと思う。
さて、鑑定技能も、精霊魔法と同じく先天技能と言いたいところだけれど、実は先天技能と後天技能の両方がある。
そのため、生まれつき持った才能というだけでなく、後から努力して修得可能な技能だったりするのだ。
なんか凄くない? 凄いよね?
もちろん、全部が全部ではない。
鑑定技能のトップランク、赤種の一番目で創造の赤種、テラが言うには、
「鑑定の後天技能は中級まで。分野によっては上級も可能」
そして、特級以上は先天技能だけだそうだ。
エルメンティアと他国との違いが、この先天技能にあった。
精霊の国だなんだと自慢気にしているこの国、実は始まりの三神の加護を持った土地も含まれている。
鑑定技能は、始まりの三神の一柱、運命と宿命の神バルナの加護。
つまり、鑑定の先天技能は、バルナの加護があるエルメンティアにしか生まれない。
しかも、鑑定の先天技能持ちはエルメンティアでも全王国民の一割に満たない(大神殿の調査による)稀少技能。
もちろん王国も稀少技能を他国に渡したくないので、特殊な官職『補佐官』を用意して、待遇は手厚くしている。
だから、他国では真似したくても真似できない。それが『補佐官』という仕事。
頭打ちがあるとはいえ、努力してもどうにもならない精霊魔法技能より、努力すればある程度はどうにかなる鑑定技能は、私にとって、希望の星のように思える。
かくいう私の鑑定技能は先天技能の一部なので、努力云々なんて偉そうなことは言えないけど、努力して技能は磨いていきたい。
そんな私は赤種の四番目、破壊の赤種だ。テラとは同類に当たる。
少し前までは、ネージュ・グランフレイムという名で、精霊魔法の一大家門で技能なしの第二子として生きていた。
ネージュは親がつけてくれた大切な名前だった。
ところが、ちょっと特殊な事情で、大切な名前も家門名も住んでいる家も失った。
私の大切な名前は、今では、こじんまりとした小さな墓石につけられている。
そんな私の墓を訪れる人はいない。
葬儀のときの花が、枯れて茶色くなったまま置かれている。生前の私の扱い、そのものだった。
そうして死んだ私は、今はクロスフィア・クロエル・ドラグニールだ。
創造と終焉の神がつけてくれた名前と、夫がくれた家門名で新たな人生を楽しんでいる。
人生、様変わりしたが、相変わらず精霊魔法は使えない。
特殊な職業『補佐官』も、やはり、同じ等級であれば、精霊魔法技能を持った人が優遇されるそうだ。
どの職種、職場でも、精霊魔法が使えなければ『技能なし』扱いされるのは変わらないらしい。
やっぱりエルメンティアはエルメンティア。精霊魔法推しが染み着いていて、そんなところはちょっとがっかりする。
確かに、精霊魔法、優秀だけどね!
プラスアルファの技能が、精霊魔法かそうでないかで区別されなくても良いと思う。
この国の約三割である精霊魔法技能がない私たちだって、ここで生きている以上は、幸せに暮らしたい。
だから、技能なしと言われようが、強く、強くなるしかないんだ。
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
精霊魔法が扱えない人間は、強く生きていかなければならない、そんな国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
この国の人は皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
摂理の神エルムの加護たっぷりの国なわけで、エルムが司る自然の力、竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前。
精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、うじゃうじゃいるからなんだけど。
精霊の加護が厚いんじゃなくて、あくまでも摂理の神エルムの加護が厚いだけ。
それでもって精霊魔法を扱える人がうじゃうじゃいるだけ。
それなのに、うちの王国は精霊に愛されているのよ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言うようだ。
そんな精霊の国には『補佐官』という、普通の職業ぽい名前の、特殊な職業がある。
他国で補佐官というと、上司や組織の予定を調整したり管理したり、業務を補佐したり補充したり、様々な雑務をこなす雑用係のような職種であるらしい。
が、エルメンティアでは少々事情が異なる。
エルメンティアの補佐官は、鑑定技能を駆使して業務を分析し活動する、いわば業務補佐の専門家。
鑑定技能がないとなれない重要職だ。
当然ながら、鑑定士のような仕事も回ってくる。
文字通り、補佐官が業務を補佐するというのは他国と同じ。
他国の補佐官のように、鑑定技能がなくて補佐業務を行う役職は、単純に『補佐』と呼ばれる別の職業だ。
エルメンティアでも、補佐官と補佐の違いが分からない人もいるので、もっと周知してもらいたいと思う。
さて、鑑定技能も、精霊魔法と同じく先天技能と言いたいところだけれど、実は先天技能と後天技能の両方がある。
そのため、生まれつき持った才能というだけでなく、後から努力して修得可能な技能だったりするのだ。
なんか凄くない? 凄いよね?
もちろん、全部が全部ではない。
鑑定技能のトップランク、赤種の一番目で創造の赤種、テラが言うには、
「鑑定の後天技能は中級まで。分野によっては上級も可能」
そして、特級以上は先天技能だけだそうだ。
エルメンティアと他国との違いが、この先天技能にあった。
精霊の国だなんだと自慢気にしているこの国、実は始まりの三神の加護を持った土地も含まれている。
鑑定技能は、始まりの三神の一柱、運命と宿命の神バルナの加護。
つまり、鑑定の先天技能は、バルナの加護があるエルメンティアにしか生まれない。
しかも、鑑定の先天技能持ちはエルメンティアでも全王国民の一割に満たない(大神殿の調査による)稀少技能。
もちろん王国も稀少技能を他国に渡したくないので、特殊な官職『補佐官』を用意して、待遇は手厚くしている。
だから、他国では真似したくても真似できない。それが『補佐官』という仕事。
頭打ちがあるとはいえ、努力してもどうにもならない精霊魔法技能より、努力すればある程度はどうにかなる鑑定技能は、私にとって、希望の星のように思える。
かくいう私の鑑定技能は先天技能の一部なので、努力云々なんて偉そうなことは言えないけど、努力して技能は磨いていきたい。
そんな私は赤種の四番目、破壊の赤種だ。テラとは同類に当たる。
少し前までは、ネージュ・グランフレイムという名で、精霊魔法の一大家門で技能なしの第二子として生きていた。
ネージュは親がつけてくれた大切な名前だった。
ところが、ちょっと特殊な事情で、大切な名前も家門名も住んでいる家も失った。
私の大切な名前は、今では、こじんまりとした小さな墓石につけられている。
そんな私の墓を訪れる人はいない。
葬儀のときの花が、枯れて茶色くなったまま置かれている。生前の私の扱い、そのものだった。
そうして死んだ私は、今はクロスフィア・クロエル・ドラグニールだ。
創造と終焉の神がつけてくれた名前と、夫がくれた家門名で新たな人生を楽しんでいる。
人生、様変わりしたが、相変わらず精霊魔法は使えない。
特殊な職業『補佐官』も、やはり、同じ等級であれば、精霊魔法技能を持った人が優遇されるそうだ。
どの職種、職場でも、精霊魔法が使えなければ『技能なし』扱いされるのは変わらないらしい。
やっぱりエルメンティアはエルメンティア。精霊魔法推しが染み着いていて、そんなところはちょっとがっかりする。
確かに、精霊魔法、優秀だけどね!
プラスアルファの技能が、精霊魔法かそうでないかで区別されなくても良いと思う。
この国の約三割である精霊魔法技能がない私たちだって、ここで生きている以上は、幸せに暮らしたい。
だから、技能なしと言われようが、強く、強くなるしかないんだ。
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
精霊魔法が扱えない人間は、強く生きていかなければならない、そんな国。
28
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる