精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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1 鑑定の儀編

6-1 第六師団長の今

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「ここが新しい家だ」

 目の前には新しい官舎の扉がある。
 三日前に改装が終わり、昨日、ようやくすべての荷物を運び込み、整理が終わったばかりの真新しい我が家だ。

 フィアを迎えるこの日をどれだけ楽しみしたことか。一徹や二徹、なんの苦もない。

「ラウがもともと住んでたところじゃないの?」

 新しい扉を前にして、俺のフィアがかわいいことを言っている。

「もともとは独身者用の官舎に住んでたんだ。俺たちは夫婦だろ。夫婦は妻帯者用に住むものなんだ」

 俺は、夫婦と妻帯者という言葉に力を入れた。どちらも良い言葉だ。

「へー」

 感心するフィア。かわいい。

「ラウも初めての家なんだね。どんな部屋かな」

「フィアが気に入るように改装してもらったぞ。ベッドも風呂も広くしてもらったし。ソファも二人掛けで座り心地抜群だ」

「へー」

 目をキラキラさせるフィア。かわいい。

「私の部屋は?」

「俺といっしょだ」

「私の部屋、ないの?」

 見るからにシュンとするフィア。かわいい。
 そうじゃない、フィアががっかりしてる。慌てて俺は補足した。

「夫婦は同じ部屋を使うんだ。
 だから、俺の部屋はフィアの部屋だし、フィアの部屋は俺の部屋だ」

「そうなの?」

 パッと表情が明るくなるフィア。やっぱりかわいい。
 が、さっきから中に入ろうとしない。俺はフィアを促す。

「さあ、中に入ろう」

「…………うん」

 なんだか、フィアの様子がおかしい。中に入るのを尻込みしているようだ。
 気になることでもあるのか? もしかして、扉の材質が気に入らなかったとか? それとも色か?

「どうかしたか? 何か気に入らなかったか?」

 あと一歩でフィアを連れ込めるというのに。だが、ここで焦って逃したくはない。
 俺はフィアの腰に回した手に、そっと力を入れる。

「テラが言ってたんだよね。竜種の家に入るときは気をつけろって」

「ハアアアアアア???」

 あのチビ! 余計なことを!

「何に気をつければいいんだろうね、と思って」

 顔が引きつる。
 フィアがぽわんとしているから良かったものの、変に思われたら、どうしてくれるんだ。

「お、俺たちの家なんだから、気をつけることなんてないだろ。危険なんてあるわけないし」

 動揺を悟られないよう、フィアに答える。

 まぁ、気をつけないといけないのは俺だな。家に誘い込むまではガツガツするなと、銀竜にも言われている。細心の注意を払わないと。

「ここで立ち話をしてないで、中で話さないか? 身体が冷えるだろ?」

「ラウにこうやってくっついていれば、温かいから大丈夫だけど」

 フィアにピタッとくっつかれて、俺が大丈夫じゃない。ヤバい。あちこち力が入る。もっとくっつきたい。

「俺が大丈夫じゃないんだが」

 ボソッとつぶやいたのをフィアに聞かれてしまった。マズい。

「ラウ、寒かった? ごめん、中に入ろう」

 と思ったら、フィアが俺を気遣ってくれる。かわいい。

「そういえば、ラウって寒がりだったね」

 ああ、そういう設定だったな。その方が、フィアにベッタリくっついていられるからな。
 でも、フィアがその気になってくれた。これでやっと家に連れ込める。

 俺ははやる気持ちを抑えながら、扉に手をかけた。

 開けようとしたその瞬間、

「黒竜! 忘れ物だ!」

 赤種のチビが割り込んできやがった。

「お前な! あと一歩でフィアを連れ込めるっていうのに、邪魔するなよ!」

「えー、ヒステリーやめてくれよな。せっかく、四番目が使ってたシーツとかタオルを持ってきてやったのに。
 黒竜、お前、欲しいって言ってただろ、いらないのか?」

「いる」

 真顔になった。当然、欲しいだろ。

「ほら、これに入ってるから」

「フィアの使用済みリネン」

「四番目が使ったカトラリーも持ってきたけど」

「欲しい」

 さらに真顔になる。当たり前に欲しいだろ。

「フィアの口に入ったカトラリーか」

 フィアの使ったリネン類とカトラリーを受け取って、俺はうっとりした。

「それじゃ、帰るよ」

「ああ、ありがとう」

「ラウ」

 俺のすぐ横から、呆れたような声が聞こえる。マズい。フィアに見られた。

「フィア、違うんだ!」

 俺は慌てて弁明する。

「フィア、これは、フィアが好きすぎて、フィアが使ったものをすべて、俺のものにしたかっただけなんだ」

 俺は正直に話した。多少、気持ち悪がられても、引かれてもいい。俺のフィアに対する気持ちに嘘偽りはまったくない。

「いちばん欲しいのはフィアだから!」

 俺は心の底から、そう思っている。

「ラウ。そういうの、全部集めてたらキリがないでしょ」

 そんな俺に対して、フィアが冷静に指摘した。

 フィアは素直な性格でぽわんとしているが、物事を的確に見極めて対処する。考えていることが明後日の方向に飛ぶときもあるが、判断そのものに誤りはない。
 こういうところは、さすが、最高の鑑定能力を持つ赤種だ。

「それに、その性格というか性質、少しは治そうと思わないの?」

 フィアからそう聞かれて、思わず願望が口から出た。

「フィアといっしょに寝たら、いろいろ満足して、治りそうな気がする」

 治るか治らないかと聞かれたら、絶対に治らないと思うが、もしかしたら治りそうな気もするので、言うだけ言ってみた。

「え? ラウの隣で寝るだけで治るの?」

 フィアは基本的に俺の言葉を、言葉通りの意味で、素直に信じてくれる。かわいい。

「ああ、冷え症と同じようなものだ」

「え? 性格というか性質って冷え症と同じだったの?」

「ああ、風呂で(フィアといっしょに)温まれば、もっと治りが良さそうだ」

「え? そういうものなの? 竜種の常識?」

「そうだ」

「そうなんだ」

「それじゃ、まずは風呂にしようか」

 フィアが深く考え込まないうちに、俺はサッと移動して、行動に移した。


 翌朝。

「ラウの嘘つき」

 俺の傍らで、朝から涙目になってるフィアが、とてもかわいい。
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