精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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1 鑑定の儀編

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 それから、ラウに抱きしめられてスリスリされる毎日が始まった。

 ラウは最初は無口だったが、単に一目惚れした相手を前にして緊張していただけだった。

「初対面のときはガツガツ行くなと金竜に言われててな。それに顔が緩んでいたら、気持ち悪がられると思って」

だそうだ。

 初対面、確かに、しかめっ面で終始無言。嫌な感じはしなかったけど。あれはあれで好印象につながらない。
 最近は緊張しなくなったようで、お互いのことを話し合っている。

「初めて会ったときに、かわいすぎて、一目惚れして。無意識に伴侶の仮契約をして」

 え。

「二回目に会ったときに、求婚したら頷いてくれたから、すぐさま伴侶の本契約をして」

 マジで。

「婚姻許可書も署名が入って、書面上もれっきとした夫婦だし。あとはいっしょに住むだけだな」

 なんだそれ。

 ラウから伴侶の契約の話を嬉しそうに語られたときには言葉がなかった。
 伴侶の契約は竜種独自のものなので、どんなものか分からないが、思ってた以上にヤバい夫だった。
 竜種ではこれが普通らしい。竜種の普通、ヤバい。

「それに完全に慣れちゃってる君もかなりヤバいからね」

 テラが冷静に突っ込みをいれる。

「夫の愛情が重くて過保護で執着強めで変質者気味で距離感がおかしい以外は、とくに問題ないわ」

「問題部分を今まとめて除外しただろ」

 正直、諦めも大事だと思った。

「ちょっと身動きしづらいだけで、不便はないし」

 今はちょうど、赤種としての力の訓練中だ。
 ラウは暇を見つけては、ほぼ毎日、顔を出す。が、どうしても時間が不規則になるので、こうして予定の入っているときに来るときもある。

「ほんとに? それ、訓練の邪魔なんだけどな」

 テラは背後から私に抱きついてスリスリしているラウを指差した。
 チラッと背後のラウを見て、すぐさまテラに視線を戻す。

「問題ないわ」

「どう見ても問題だらけだろ」

「なんだ、赤種のチビ。欲求不満か」

 背後からテラを煽らないで。

「お前のせいでイライラしてるんだよ」

 テラもいちいち反応しないで。

 ラウとテラは相性が悪いらしい。顔を合わせるとすぐ言い合いをする。訓練がちっとも進まない。困った。

「ラウ。訓練中は静かにしてて」

 ここで、ひとつ学習したこと。
 赤種と同じく、竜種も自分の権能や行動指針に忠実なことだ。基本的に行動指針以外のことには興味ないし、自分に関わりなければどうだっていい。
 つまり、要点を押さえてしまえば、赤種も竜種も扱いは簡単。

 抱きしめるのとスリスリするのは、どうお願いしても止めようとしない。それどころか最近はあちこちナデナデするようになってきた。
 ならば、せめて邪魔にならないよう、静かにしてもらおう。

 そっと、ラウの目を見ながらお願いをする。

「訓練が長引くと引越も延期になるの。早くラウといっしょに暮らしたいのに」

 これで一発だ。

「ああ、分かった。早く訓練を終わらせないとな」

 ほら一発だ。

「君、黒竜の扱い、慣れすぎてない?」

「さ、始めましょ」

 赤種としての力の訓練は、主に、鑑定魔法と転移魔法を自在に使えるようにすること、自分の権能を使いこなすこと。
 鑑定魔法と権能のコントロールは問題なくこなせるようになった。

 権能は固有。個々で異なる。

 私の場合は、権能『破壊の六翼』の他、自動回復(自己再生・状態異常回復・無毒化)、無詠唱魔法、神器『破壊の大鎌』などが扱える。

「ふぅ」

「この短期間でよく使いこなせるようになったね」

「まぁね」

 手にした大鎌をグルンと軽く振り回す。

「それに、黒竜が背中に張り付いた状態で、よくそこまで振り回せるよね」

「当たっても切れないようにしてあるから」

「そんなこともできるんだ」

「ラウに当たったら危ないでしょ」

「いや、そうだけど。もう、いいや」

「大鎌の方はこのくらいにして、もう一つも振り回しておいた方がいい?」

 いつも大鎌の方ばかりで、もう一つはぜんぜん使ってなかったな。

「え? もう一つってどういう意味?」

「え? ほら、神器って二つあるでしょ?」

「ええ? ないよ」

 テラと話が噛み合わない。

「ええ? ラウだって二つ持ってるよね?」

 あのとき、片方で私の大鎌を受け止め、片方でトカゲの魔核を貫いていた。あれはどっちも神器で間違いない。

「ああ、俺のは双剣だから二本あるけど、神器としては一つ扱いだな」

「ええ? じゃ、これは?」

 私はもう一つを顕現させた。

「神器だな」

「神器だね」

 ジーッともう一つを見つめる二人。

「なんだ。やっぱり、二つあるじゃない」

「いや、二つは普通じゃないから!」

「そう言われても、二つあるし」

 とりあえず、二つ目もグルンと振り回してみる。
 大鎌が思いっきり攻撃用なのに対して、こっちは攻撃用にも防御用にも見えない外観。自分の感覚を信じるなら、これは防御用だ。

「大丈夫だ。二つあっても、フィアはすごくかわいいぞ」

「かわいい関係ないだろ。黙れよ、黒竜」

「かわいいに文句つけるな、フィアがかわいいのは事実だろ」

「四番目をかわいいって言うの、お前くらいだからな。他のやつらからしたら、ほぼ死神だよ、し・に・が・み」

 興奮したらテラがガウガウと言葉を続ける。

「しっかし、なんで二つも持ってるかな、神器。
 一つでも、十分、普通じゃないのに。二つ? おかしいだろ、おかしすぎるだろ!
 もう嫌だ、四番目の能力、いろいろおかしすぎる」

「フィアは強くてかわいくて、最高の奥さんだな」

 ラウがさらに強く抱きしめてくる。

「だから、べったりくっつくなよ!」

「最初からべったりくっついてるが」

「うっわ、うざ!」

 けっきょくこの日は訓練が終わるまで、ラウとテラの言い合いは続いた。
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