精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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1 鑑定の儀編

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 意識が戻ってからの一週間は、怒濤の毎日だった。よく頭が破裂しなかったな、と思っている。

 意識が戻ったその日は、身体や記憶に異常がないか、大神殿の神官に調べられた。

 もちろん、声はかすれ声、身体も満足に動かすことができない。魔力は完全に戻っているようだったので、まず、神官が回復魔法をかけてくれる。
 普通に声が出た。身体が動いた。やったー!

 と思ったところで、待ったがかかる。

「あのね、回復魔法ってのは、無理やり元気にするような魔法なんだからね。
 とりあえず、異常がないかを確認するのに、一時的に回復させただけなんだからね」

 テラだ。見た目も中身も年下のくせに、妙に口うるさい。

「担当の神官に代わるから。指示された通りに身体を動かして、質問されたことに答えて」

 テラの合図で、女性の神官がぞろぞろと入室してきた。神官長も来るのかと思ったけど、男性の神官はひとりもいない。

「テラや神官長じゃないんだ」

 ジト目で見てくるテラ。

「鑑定は僕がやるけど、他は女性の神官だよ。男性に担当させたら、確実に黒竜が暴れる」

「黒竜?」

「あいつ、嫉妬深いからさー
 君を他の男に会わせようものなら、本気で何されるか分からない」

「いろいろ、意味が分からないんだけど」

 キョトンとする私に、嫌なものでも思い出すかのように苦い顔をするテラ。こういう表情は本当に子どもっぽくない。
 後で説明するから、と言って話を先に進める。

「今日は身体や記憶の異常チェック、明日はもう一度、能力鑑定。体力が落ちまくっているんだから、今日と明日はこれだけにするよ。後は休むこと」

 その後、女性の神官から質問されたり、指示されて身体を動かしたりで一時間。
 身体も記憶もとくに問題ないと言われて、ホッとした。

 そして翌日。意識が戻って二日目はテラに能力鑑定をしてもらった。
 部屋の隅にはメモリアが控えている。

「いくら僕が子どもだからって言っても、そんな理屈、黒竜には通用しないから」

 だからメモリアに同席してもらっているんだと、やっぱりよく分からない言い訳をされる。
 だから黒竜って? 早くいろいろと説明してもらいたい。

「んじゃ、さっさと鑑定しちゃうよ」

 言葉通り、鑑定は一瞬で終わった。

「所持している先天技能は、破壊の六翼。以上」

「それだけ?!」

 こんなに期待させておいて?

「それだけって、これがあれば十分なんだけど」

 それに聞き覚えがある!

「六翼って前も言ってたよね? 『六翼の加護に包まれ眠りしもの』だったっけ?」

「よく覚えていたね。そう、君の加護は今まで眠っていたんだ。それが今回の騒動で目覚めた」

 加護が目覚める。そんなことある?

「創造の種、進化の希石、転換の輪、破壊の六翼、終末の時計」

 話の流れからすると技能名だろうけど、六翼以外は初めて耳にする。と言っても、六翼も最後の鑑定で聞いたばかり。
 創造、進化、転換、破壊、終末。なんか嫌な予感しかしない。

「まさか、その五つって…………」

「ああ、この五つが赤種の先天技能さ。この技能を持つ、イコール赤種ってこと」

 ヤバい単語出てきた!

「待って。赤種って……」

 待って待って。
 なにそれ。聞いてない。
 頭が痛い。耳鳴りがする。目が回ってふらふらする。

「クロスフィアは破壊の六翼を持つ。破壊の赤種だよ」

 待って待って待って。
 なにそれ。聞いたっけ? いや、聞いてない。
 嘘でしょ。呼吸が乱れる。息が止まりそう。苦しい。

「私が赤種? 私が破壊?」

『こんな世界、壊してしまえばいいのね』

「あ」

 破壊の衝動。
 あの時。あの不思議な空間で。私は自然とそう思ったんだ。世界を壊してしまえ、って。
 そして、あの渓谷で。ふと思い出したんだ。壊してしまわないと、って。
 それで、トカゲの首を次々とはねていった。あれは紛れもなく私だ。

「私が世界を壊すの?」

 私は破壊の赤種だから。壊したくてたまらない。私を見殺しにしたこの世界を。

 震えが止まらない。
 誰かが手を握って背中をさすってくれた。メモリアだ。
 部屋の隅にいたはずが、いつの間にか、私の傍らで私を心配してくれている。

「ちょっと衝撃的だったかな?」

 テラは動揺する私を静かに見ているだけだった。

 ダメだ。震えが止まらない。
 破壊の赤種は神をも壊す。世界を、神を、壊したいという衝動が胸の奥から溢れそうになる。
 私は世界を壊すために生まれたの?
 世界を壊すために生きているの?

 視界が真っ赤に染まる。寒い。ガタガタと震えが走る。

『大丈夫だ、フィア』

 突然、あの熊の声が聞こえたような気がした。
 そうだ。生きてく場所、生きてく理由。
 思い出した。

『場所はあるし、理由は俺がつくる』

 力強く、そう言ってくれた人が私にはいたんだ。
 世界を壊す以外に、私が生きてく理由はちゃんとある。
 まだ少し寒いが震えが止まった。呼吸も楽になった。目の前も明るくなる。

「持ち直したようだね」

「ええ、もう大丈夫、問題ないわ」

 会話をしていただけなのに、ぐったりだ。説明をあれこれ聞いている余裕なんてなかった。今日はもう休みたい。

「念のために言っておくけど、赤種に精霊魔法技能はないからね」

「知ってる!」

 なんでこのタイミングで、茶化すようなこと言うかなー
 これでも一通りの勉強はしてきたし、覚えも悪くないし。

「精霊魔法は摂理の神エルムの加護。赤種にエルムの加護なんてあるわけないでしょ!」

 余計に疲れるわ。

「で、今日はこれだけだから。ゆっくり休んでよ」

 言われなくても、そうするわよ。

 それじゃとテラが退室しようとしたそのとき、部屋の外が騒がしくなった。
 メモリアが扉を開けて確認すると、がっしりとして黒い騎士服を着た男が入ってきた。なんか、見覚えがある。

「お久しぶりです」

 その男は挨拶をすると、礼儀正しい姿勢でこう名乗った。

「第六師団、師団長直属の副官、ヴィッツ・カーシェイです。今日はお願いがあって参りました」

 最初の魔物討伐でやってきた第六師団の騎士だ。師団長の熊ではなく、この人があの場を仕切っていたっけ。
 他でも会ったような気がするが、よく思い出せない。

 カーシェイ副官は私の目の前に来ると、いきなり土下座をして、こう叫んだ。

「どうか、第六師団をお助けください!」
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