精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
40 / 384
1 鑑定の儀編

4-8 元侍女は願う

しおりを挟む
 今日はネージュ様の最後の鑑定の日。
 私はいつものように、ネージュ様の私室でネージュ様の見送りをした。

 ネージュ様は凄い才能の持ち主だ。精霊魔法こそ使えないが、詠唱魔法はもちろんのこと、剣技や体技にも長け、政治や経済などの知識も頭抜けている。
 詠唱魔法は元からの才能だが、それ以外は弛まぬ努力と勉学で身に付けた。精霊魔法が使えなくとも家門の役に立てるようにと。
 才能に溺れず奢らず、努力を怠らない。そんなネージュ様にお仕えできて、とても誇らしく思う。

 そして今日からネージュ様は成人となられる。成人となれば独立できる、家門から離れられるとネージュ様は寂しそうに笑っていた。
 いってらっしゃいませ、ネージュ様により一層の幸がありますように。

「…………」

 心を込めて願いながら無言で見送った。

 ネージュ様の外出時は必ず護衛のドゥアンが付き従う。私はドゥアンにも無言で頭を下げた。ネージュ様をよろしくお願いします。

「…………」

 私、メモリア・メランドはネージュ様専属として、グランフレイム卿と契約した。ネージュ様を主とする、ネージュ様だけの護衛兼侍女として。
 これでも精霊騎士として、それなりに活躍したこともある。頑強さが売りだ。そこを見込まれて、グランフレイム卿との契約に至った。

 精霊騎士ジン・ドゥアンもネージュ様の専属だが、ドゥアンはグランフレイム家の騎士として忠誠を誓う。あくまでもドゥアンの主はグランフレイム家。その辺りが私とドゥアンの立場の違いだ。

 ドゥアンは真面目な騎士だ。他の精霊騎士と違って、精霊魔法の技能がないからとネージュ様をバカにしない。キチンと向き合うし、注意もしっかりする。
 ネージュ様のことを、家門のお嬢様としてだけでなく、ひとりの女性としても大切に思っていることが分かる。

 それを行動にも言動にも表情にもまったく出さないのは、さすが職務に忠実な護衛騎士、といったところだ。
 グランフレイム卿もネージュ様を託す相手として、ドゥアンを候補に入れているのかもしれない。

 コンコン

 ネージュ様が出発したであろう時刻。突然、部屋の扉が叩かれた。

「はい」

 ネージュ様のいないときに、ネージュ様の私室を訪れる人はいない。私は小さく返事をした。

「ドゥアンです」

 ネージュ様と大神殿に行ったのでは?
 訝しく思いながらも扉の隙間から窺うと、そこにはドゥアンがいた。そっと扉を開ける。

「…………」

 無言でドゥアンを見る。

「ご当主様の命令で待機となりました。今日は精霊騎士団の護衛班が二チームつくから大丈夫だと」

「…………」

「クッキーと紅茶をご用意してお待ちする旨、ネージュ様に伝えました」

「…………」

「私はグランフレイム家門に忠誠を誓った騎士なので、出過ぎた真似はできませんでした」

 心配だという顔をしながらも、真面目なドゥアンには騎士としての本分を越える真似はできないのだろう。

 その後、セルージュ様がマリージュ様を精霊獣に乗せて帰館して、館は大騒ぎになった。ネージュ様は帰ってこなかった。
 マリージュ様は混乱されているようで、皆、マリージュ様に掛かりっきりだ。ネージュ様がなぜ帰ってこないのか、誰も何も言わない。それが答えだった。

 私はクッキーと紅茶を用意して待っていた。いつ、ネージュ様が帰ってきてもいいように。
 ネージュ様の出迎えにいっていたドゥアンは、今は真っ青な顔でいっしょに控えている。
 外が暗くなっても、ネージュ様は帰ってこなかった。

 コンコン

 夜になって、部屋の扉が叩かれた。グランフレイム卿からの伝令だ。私とドゥアン、卿の執務室に来るようにと。
 私には別の指示もあったので、その指示と自分の用事を済ませてから執務室に向かった。

「どういうことですか! 護衛班がいるから専属護衛はいらないとおっしゃったのに! あれは安全だから専属護衛はいらないという意味ではなかったんですか!」

 執務室の中からは先に向かったドゥアンの声が聞こえる。

「ネージュ様が亡くなったなんて信じられません! それに、今日の話なのに死亡届だなんて! しかもそれが受理されているなんて!」

「私も……抗議したんだ……」

 珍しく激昂するドゥアンの声と絞り出すようなグランフレイム卿の呻き。

「君は優秀な精霊騎士だ。ネージュ亡き後も、グランフレイムの騎士として、力を貸してほしい」

「…………」

 話が終わるまで待っていても仕方ないので、扉を叩き、入室が許可される。
 ドゥアンは目を赤くしていた。

 グランフレイム卿から、ネージュ様の死亡とその経緯や経過が説明される。

「それでは契約は終了します」

 私は淡々と告げた。仕える主がいなくなったのだ、契約は終了だ。

「マリージュの専属として新たな契約をお願いしたいのだが」

「次の契約が入っています」

 私は表情を変えず淡々と切り返した。もうグランフレイムに用はない。

「ネージュ様の葬儀が終わり次第、出ていきます」

「承知した。今までネージュを守ってくれて感謝している」

 ため息をつきながらグランフレイム卿が了承する。退室すると、ドゥアンもいっしょについてきた。

「グランフレイムを出ていくんですか?」

「私はネージュ様専属でしたので」

「ネージュ様が死んだなんて、本気で信じるんですか?」

「大神殿が死亡届を受理しました」

「ネージュ様は生きています。きっと生きて、お帰りになられます」

「…………」

 二日後、ネージュ様の私物を入れた棺で、こじんまりと葬儀が行われた。
 ドゥアンは護衛騎士としてマリージュ様に寄り添っている。
 私は葬儀を見届けると館を後にして、息子のところに向かった。次の契約の話をするために。

「ああ、母さん、ちょうど良かった。専属護衛の件、よろしく頼むよ」

 そこには息子と直属の上司が待っていた。

「アンタのお母様が、美少女ちゃんの元侍女だったなんてねー しかもアノお人形ちゃん! ナイスよ、でかした、さすがアタシの補佐二号!」

「てわけで、お相手様に何かあったら、うちの師団長が暴走するから。よろしく頼んだよ」

 さあ、今から私は第六師団の騎士。
 そして、クロスフィア・クロエル・ドラグニール様の専属護衛。
 今度はこの手でお嬢様の幸をお守りいたします。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...