精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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1 鑑定の儀編

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「強くてかわいいだなんて。最高だな」

 俺は彼女のことを思い出しながら、ひとりごちた。

 討伐確認に出動して彼女に出会ってから、もう三週間が経った。
 この間、ぜんぜん彼女に会えていない。イライラとムラムラが募る。あのとき、連れて帰ることができれば良かったのに。

 ああ、彼女に会いたい。触りたい。

 魔物討伐は、表向き、報告を受けた第六師団が討伐したと処理をした。
 『この件で俺の伴侶(仮)に注目が集まるのは腹立たしい』という理由で通るのが、竜種特権だと思う。

 あれから、赤の樹林は全域を閉鎖。第五師団と第六師団で捜索と浄化を行っている。あと一、二週間ほどで閉鎖が解除される見通しだ。
 第六師団だけでもどうにかなる案件だが、時間短縮を優先し、浄化担当の第五師団と組んだ。

 今、彼女は十六。
 最後の鑑定の儀が終われば、晴れて成人。
 許可なく伴侶の本契約もできるし、堂々と家に連れ込める。

 いつまで経っても閉鎖解除できないと、大神殿の儀も再開できず、彼女との生活もお預けのまま。
 それだけはどうにも我慢ならなかったので、第五師団長の銀竜に彼女の相談をしたら、そういうことは早く言えと、喜んで協力してくれた。
 竜種の先輩というものは良い。話が早いし、何よりこっちの生態をよく理解してくれる。

 金竜にも相談しておこう。金竜も俺と同じくデカくて厳ついタイプなので、彼女との距離の縮め方など教授してもらいたい。

 今、俺は十九だ。十六と十九なら年齢差もほどほど。夫婦としてもちょうどいい。
 対して、エルヴェス情報では彼女の護衛は二十一。俺より二歳上のおっさんだ。あんなやつに負ける気はしないが、彼女といつもいっしょだというのが気にかかる。
 俺の知らない彼女の素顔を見ていると思うと、腹ただしいし、心底、羨ましい。

 そんなことを考えながら仕事をしていると、突然、副師団長から話しかけられた。

「あのな、エルヴェスから聞いたんだが」

 樹林での今日の活動を終え、各部隊長との定例会を行い、さあ、残りの書類処理に取りかかろうという、まさにそのときだ。

 彼女に会えない、仕事が溜まっているでピリピリしているこの俺に、よく話しかけられるよな、こいつも。

「グランフレイム嬢にマーキングしてたって」

 しかも内容がそれか。エルヴェスもなんて話をしてくれるんだ。

「ァア? 誰がマーキングなんぞ、するかよ」

「だよな」

と安堵した感じの副師団長。当然だろう。

「伴侶の仮契約を勝手にしただけだ」

 マーキングは言わば目印だ。見つけやすくするだけ。
 伴侶の契約は俺のもの宣言。逃げられなくするもの。
 するなら、当然、後者だろ。

「ですよね」「だよな」

 カーシェイと突撃部隊長が声をそろえる。こいつらも竜種だ。
 竜種は引退勢も含めると、上位竜種が四人、普通の竜種が六~十人くらい存在する。
 副師団長は経験も豊富で力量も優れ、頼りにはなるが、竜種ではない。よって、竜種の生態に今一つ理解が追いつかない。

「ほら、言っただろ。絶対、エルヴェスのやつ、マーキングと勘違いしてるって」

「竜種なら、普通はこっちですよね」

「だな」

「いや、どっちも問題じゃねぇのか?」

「お前、何、言ってるんだ」

 俺は(竜種の)常識というものを、副師団長に語った。

「社会的に囲い込んで、物理的に捕まえて、身体の距離を縮めてから、最後に心の距離を縮めるのが基本だぞ」

 金竜も銀竜も基本通りに伴侶を捕まえたらしい。
 俺も捕まえるのは半分終わっているので、後は社会的に囲い込めばこっちのもの。晴れて立派な妻帯者だ。

「逃げられる前に逃げられなくする。どこに問題が?」

「問題しかねぇぞ」

 呆れ顔の副師団長。分からないやつだな。
 さて、書類処理でもするか。さっさとしないと終わらないしな。

 俺抜きで会話は続く。

「竜種ではこれが普通なんです」

「だな」

「相手のお嬢さん、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。仮契約済みなら、もう、どこにも逃げられません」

「だな」

「だから、大丈夫じゃねぇよ、それ」

 ですが、とカーシェイが考え込む。

「問題あるとすれば、あのイケメン護衛騎士ですね」

「「イケメン!」」

「はい。背が低めでしたが、爽やか系美少年顔です」

「「美少年!」」

 チラチラと俺を見ながら話す三人。
 なんだよ、俺があのムカつく護衛に負けてるとでも言いたいのか。

「エルヴェスの調査では恋愛関係はまったくないようです。とはいえ、護衛なので、お相手様に付きっきりですね」

「こっちはワイルド系で、逆に新鮮でいいんじゃねぇか?」

「そうそう。デカくて頼りがい抜群だな」

「護衛が美少年ですからね、師団長は熊扱いされていまして。異性として見られていない可能性があります」

「それ以前に、人間として見られてないぞ」

「師団長、まさかのペット枠」

「恋愛関係ではないとはいえ、さすがに美少年と熊では分が悪いですよね。どうしたものでしょう」

「だから、まず子作りから始めるんだろ」

「いや、普通は共通の趣味とか共通の話題から攻めないか?」

「師団長とお相手様が共通するものなんて、あるわけないでしょう」

「だな」

「すまん」

 残念そうに俺を見ながら話す三人。
 おい、さすがに失礼だろ。俺だって趣味くらい、なくはないぞ。
 それに彼女が好きなものは、ぜんぶ好きになる自信しかないぞ。

「…………ずいぶんと暇そうだな、お前ら」

 俺のこめかみがヒクヒクと痙攣する。

「彼女に会えないし、仕事はいつまで経っても減らないし、終わらないし、こっちはイライラしているんだ。
 暇ならイライラ解消に付き合ってもらおうじゃないか」

「「「げ!!」」」

 暇な三人が動かなくなるまで、八つ当たりという名の運動は続いた。

 運動ですっきりした俺は、情報を求めてエルヴェスを探し回る。
 目指すは、彼女と共通の何か。
 あの護衛なんぞに負けてたまるかよ。
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