精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
上 下
31 / 384
1 鑑定の儀編

3-9 副官は思う

しおりを挟む
 キャァァァァァ!

「聞いて聞いて聞いて聞いて聞いて!」 

 アタシは久しぶりに執務室にやってきたカーシェイと掃討部隊長を捕まえた。
 だってだってだって。
 話したいことがたっくさんあるのに、ずっとアタシの話し相手が執務室に来なかったんだもの!
 師団長にもまったく会ってないし、副師団長にもほとんど会ってないし。
 たまりにたまりまくってるのよ、いろいろなものが!

「美少女ちゃんが、手料理、習い始めたんですって!」

 カーシェイはアップルパイ、掃討部隊長はクッキーなんて抱えてる。
 コレまた、たっくさんお話する準備万端ってヤツだわ! ナイスよ、辛気くさい顔にヤサグレ顔!

 二人を席につかせて、アタシの補佐くんズ、お茶よ、オチャー!

「ねぇコレって花嫁修行よね? 師団長、結婚オメデトーーー!」

 ヤサグレ顔の掃討部隊長から、クッキーを奪ってボリボリ…… ん? オイシーじゃないの!

「手料理はけっこう上達して、食べられるものになったんですって! ウン、愛よ、愛だわ、愛のなせる技よー!」

 辛気くさい顔のカーシェイから、アップルパイも奪ってムシャムシャ…… ん? コレもオイシーわ!

 カーシェイと掃討部隊長もいっしょになってボリボリムシャムシャ食べる食べる、アップルパイにクッキー。
 アラ? うちの補佐くんズにも薦めてるわ。気が利くわねー ボリボリ。

 そうそう、お菓子と言えば!!!

「でも、お菓子は暗黒物質になるんですって!」

 ムフ。万能じゃないところが、グッとくるわよねー
 アアーン、お菓子じゃなくて、美少女ちゃんを食べちゃいたいわー

「ていうのを、師団長にも話したのよー」

 もちろん、美少女ちゃんを食べちゃいたい話はナイショよ、ナイショ。ボリボリ。

「……その話、いつしたんですか?」

 ボリボリっと尋ねてくるカーシェイ。
 もちろん、ボリボリはクッキーかじる音よ!

「ん? 先週?」

「……なるほど」

「……どうりで」

 ボリボリボリボリ。

「で、ホントに師団長のために花嫁修行して手料理習ってんのか?」

 ボリボリっと尋ねてくる掃討部隊長。
 もちろん、ボリボリは以下略。

「なわけ、ないでしょー」

「おい」

 ボリボリボリボリ。

「美少女ちゃんは、家を出て独立しようと計画してるらしいわー」

 ンン、オイシー、止まらなーい。

「料理修行は花嫁修行じゃなくて、独立計画の一環ね。自炊なんて偉いわ、美少女ちゃん」

 ムシャムシャ。
 アップルパイもオイシー、止まらなーい。

「計画と言えば……
 師団長は、家を出た美少女ちゃんを自分んとこに連れ込もうと計画してたわー」

「……なるほど」

「……どうりで」

 ムシャムシャムシャムシャ。

「ところで、このクッキーとアップルパイ、オイシーわねー どこのお店?」

 食べながらお茶を一口飲んで、

「師団長の手作りです」

 ブフーーー

「うまいよな」

 ゲホゲホゲホゲホ。

「ゲホ、し、師団長にそんな趣味、ゲホ、あったかしらー?」

 ビックリ発言すぎて死ぬかと思った!

 無愛想の塊、冷徹な堅物、血塗れの戦闘狂、可愛らしさとは無縁なあだ名がズラリと並ぶ、アノ師団長がお菓子づくり?

「いや」

「ないですね」

 殺気で魔獣も気絶する、威圧で高位騎士も泣きをみる、平常でも一般人は硬直する、アノ師団長がお菓子づくり?

「じゃー、このクッキーは?」

「先週から練習し始めました」

「じゃー、このアップルパイも?」

「あの人、器用だよな」

 早っ! 上達、早っ!
 お店で売ってるレベルよ! ナニコノ、神業!

 天変地異の前触れカシラー?

 ん? まさか……

「これで美少女ちゃんを釣り上げて自分ちに連れ込もうと……」

「奇遇ですね、同じことを考えています」

「もう犯罪臭しかしないよな」

 天変地異じゃなかったわ、犯罪の前触れだったわ!

「ちなみに、グランフレイム厨房と同じレシピで同じ味、同じ食感だそうですよ」

「ええ? コレ、そーなの?」

「中でも、このクッキーとアップルパイは大好物だそうです」

「ちょっと待って。ソレって、ドコ情報?」

「ご存知ですよね、情報収集担当副官殿?」

「ヒィィィィィ!」

 アア、アタシだ! アタシ情報だった!

「もう犯罪臭しかしないよな」

 師団長、本気すぎる! コワい!

「お相手様に逃げられたら大惨事になりますので、しっかり見張っててくださいね」

 ムシャムシャっと話すカーシェイ。
 もちろん、ムシャムシャはアップルパイを食べる音よ!
 アップルパイ食べながら、コワいこと言わないで!

「逃げられて師団長が暴走したら、こっちの手に負えんからな」

 ムシャムシャっと話す掃討部隊長。
 もちろん、ムシャムシャは以下略。

「ええ、第六師団が壊滅しますね」

「さすが、物理最強」

 物騒なことをオイシそうに言い放つ二人。イヤイヤ、オイシーのはアップルパイだけど。

「アンタたち、平然とし過ぎてない?」

 そして、なぜか、アタシが睨まれる!

「「平然???」」

 補佐くんズも含めて、全員に睨まれた!

「師団長に会ってないんですか?」

「あの圧、ヤベェぞ」

「はひ?」

 コッチも忙しくて、師団長とまったく会ってないけど、どーいうことよ、アタシの補佐くんズ!

「師団長、お相手様に会えないイライラと、仕事が進まないイライラで。イライラダブル状態っす」

 補佐一号、ソレ、聞いてないわよ。
 マズい状態じゃないの!

「この前の手合わせで、突撃部隊と掃討部隊が全滅しました。次はうちかと他の部隊が震えてます」

「副師団長とカーシェイ副官も、動けなくなるまで、吹き飛ばされてたっす」

 補佐一号二号、ソレも聞いてないわよ。
 ヤバい状況じゃないの!

「ちゃーんと、エルヴェス副官に報告したっすよ」

 ジト目で言う、補佐一号。

「妄想で忙しくて、耳に入ってなかったようですが」

 ジト目で言う、補佐二号。

 そして、全員の目がアタシに注目。

「師団長、菓子つくってると気が紛れるらしいぞ」

「今後はお菓子消費も担当してくださいね、情報収集担当副官殿」

 ソノ日から、アタシの全ごはんは容赦なくお菓子となった。
 オイシーけどツラい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...