精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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1 鑑定の儀編

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「あの、よろしいですか?」

 会議に向かう父を見送ったのを見計らって、神官長が私たちに話しかけてきた。

「この後の祝福についてなのですが」

 そう前置きして話しかけてきた内容は、時間短縮のための提案で、祝福を二人同時に行うといったものだった。
 父は先に帰ったので、この場での責任者は兄だ。もちろん、兄は憤慨した。

「祝福の行程を分担するとは、初めて聞きました」

 そんな話は聞いていないぞ、と兄が凄む。

「最後の鑑定の儀では、皆さんにそうしていますよ」

 常識だろう、と神官長がかわす。

「集団での儀は、そう聞きますね」

 こっちは個人での儀なんだ、家門として寄付金を積んでいるんだぞ、と兄。

「赤の樹林が一時閉鎖した影響はよくご存知でしょう」

 うっ。鑑定の儀も閉鎖の影響で一時休止した。だから、儀の予約が殺到しているんだったっけ。

「私がお二人続けて行うよりは、私ともうひとりで同時に行う方が、あなたの妹君をお待たせしませんが」

 妹を待たせないにピクッと反応する、マリージュ最優先な兄。

「私がマリージュ様を、もうひとりがネージュ様を担当しますので」

「…………仕方ない。そちらの都合もあるだろうし、それでお願いする」

 マリージュが重く扱われるなら、家門が軽く扱われても良いのか、兄。違うな。私が軽く扱われるのはどうでもいいだけか。

 そして、マリージュは神官長に、私はただの神官に、案内されて連れていかれた。
 私が案内された部屋にいたのは、最初に出迎えてくれた少年だった。
 神官長ともうひとりって、補佐の神官だと思っていたのに。補佐どころか、まさかの神官見習い(らしき少年)。
 私の扱いが軽すぎて、泣けてくる。

「やぁ、クロスフィア。僕が担当だよ」

 妙に馴れ馴れしく挨拶された。
 しかも、名前違うし。

「私、ネージュだけど」

 ここはビシッと訂正しておく。

「ネージュ・グランフレイムよ」

 神官見習いの少年はニタリと笑った。笑い方が子どもっぽくない。
 それによくよく見ると、目はぜんぜん笑っていない。少年の赤い目は私をじっと見つめている。

「あはは。面白いこと言うね」

 面白くないし。事実だし。
 大丈夫か、こいつ。

 その少年はおもむろに自己紹介を始めた。

「僕の名前はリングテラ・クロエル。一番目の『赤種』さ」

「はい?」

 ヤバい単語でてきた!

「バーミリオン(=朱色)と呼ぶやつもいる。目の赤が朱に近い色だからね」

 さらに私の目を見ながら話を続ける。

「君はさしずめ、クリムゾン(=深紅)かな」

 そう言って、またニタリと笑った。

 赤種、ヤバいやつだ!
 見た目は少年だけど子どもっぽくないのはそのせいか!

「テラって呼んでよ」

 呼び名の紹介はいらないし!

「一足遅かったみたいで、残念だな」

 意味分からないし! それより!

「『赤種』ってあの赤種ですか? 本物の?」

 思わず口調が改まる。心の中でこいつ呼ばわりしちゃったよ。変な汗が出そう。
 動揺して、本物かどうか訊いちゃったし。

「赤種は赤種さ。赤種にあのもこのもないし、偽物も本物もない」

 本物のあの赤種確定。

「年齢的には僕の方が年下だから、砕けた口調でいいよ」

 ニタリと笑う。今度は目も笑っていた。

「立場的には神官長より上だけどね」

 うひ。話の内容がぜんぜん笑えない。

 まったく、なんて存在にタメ口利いちゃったんだろう。タメ口許可もらったけど、恐れ多い。(でも楽だからタメ口)

 赤種とは、神の権能を受け継いだ特別な存在だ。血筋に関係なく、ある日突然、普通の人から生まれてくる。
 他にも竜種、魔種といった存在があるけど、こちらは生まれやすい血筋があるので、ある意味分かりやすい。

 そして、赤種は創造と終焉の神デュクの力の一部を持つ。普通の人間にとっては畏怖すべき存在。
 大神殿にとっては神に準じる存在であり、敬うべき存在。

 当然、立場は神官長より上。
 この王国のトップと同等かそれ以上、かもしれない。

「なんで、大神殿に赤種が……」

 頭を抱えたくなった。いや、本当に抱えてた。頭が痛い。いろいろな意味で痛い。

「創造と終焉の神を祀っている大神殿に、赤種がいるのはごく当たり前だけど?」

 意外と正論で返された。
 いや、違う。問題はそこじゃない。

「なんで、神官長より上の人が私の担当?」

「年齢順で」

 また年齢順かよ!

「だから、君の担当は僕。そして、君はクロスフィア」

 ちょっと赤種の考えていることがよく分からない。ペースも掴めない。
 あ、そういえば、さっきの鑑定結果!

「えーっと、その、私の鑑定結果なんだけど」

「あー、精霊魔法技能はないよ」

「その話じゃなくて!」

「違う? てっきりこっちかと。精霊魔法大好き家門に生まれて、大変だね」

「確かに大変だけどね!」

 あ、心の声が口に出た。

「その、リクヨクって聞いたことないんだけど、リクヨクって何?」

「なんだ、そっちか。リクヨクは『六翼』。六枚の翼ってことだよ」

 もっと分からなくなった。

「だから、六翼の加護って何なの?」

「さあ?」

 おい!

「技能名は分かるけど、詳細は知らないよ、初めて見たし」

 赤種なのに知らんのか!
 一番目の赤種といっても万能ではないらしい。

「完全に覚醒すれば自分で分かるはず。加護ってそういうものさ」

「ええ?」

 さらに分からないんだけど。

「君の先天技能はまだほとんどが眠っているんだ。今はそれを告げるのが僕の仕事」

 うん? 煙に巻かれただけのような?

「眠っているものは教えられないってこと?」

 赤い目を細めてニタリと笑うテラ。

「僕の話はこれで終わり」

 テラが終了を告げる。
 もうこれ以上話すことはないらしい。ちょうどいいタイミングで、案内をしてくれた神官が入室してきた。

 けっきょくのところ、疑問は解決せず、赤種に自己紹介してもらっただけ。

 これでも十分凄いことだけど、家を追い出されて見知らぬところへ行く私の今後に、役立つとは思えない。
 赤種の知り合いだなんて、一般人からしたら突拍子もない話だし、信じてもらえない。
 まぁ、帰ったら、ジンには自慢しておこうかな。

 去り際にテラが祝福をくれた。

「君のこれからに幸あれ」
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