精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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1 鑑定の儀編

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 さらに二週間が過ぎた。
 未だに赤の樹林の閉鎖は解除されていない。一週間前に予定されていた最終鑑定の儀は、当然ながら延期となった。
 一匹の魔物出現ですべての予定が狂っていく。

「誕生日のお祝いも成人のお祝いも、延期になってしまったわね」

「そのうえ、婚約の披露パーティーまで延期でしょ」

「最終鑑定の儀が延期続きだし、ご当主様のご都合も合わないらしいわ」

「早く、街道が通れるようになればいいのに。まったく騎士団も何しているのかしら」

「マリージュ様、とても悲しんでおりますね」

「ほんと、かわいそうな、マリージュ様!」

 いや、私も十分かわいそうなんだけどね!
 本当なら去年終わっていた最終鑑定の儀が、まだ終わらないんだからね!
 だいたい、誕生日のお祝いに、成人のお祝いに、婚約披露のパーティーって何なのそれ! 妹だけ、ずるくない? 聞いてもないし、呼ばれてもないし!
 いや別に、私もそういうのをやりたいって訳じゃないけど!

 って、今は使用人に扮して調理場に潜り込んでいるから、静かにしていないと。
 にしても、どこもかしこも、どいつもこいつも、マリージュ、マリージュで、聞いていてモヤッとする。
 私は? 私の話題はないの?

 思い立ってから二週間。

 私は使用人用の厨房にいた。
 そして、そこの料理長から料理を習っていた。

 グランフレイムは私設で精霊騎士団を抱えていたり、第八師団、通称、精霊術士団の新人訓練を請け負っていたり、使用人も多いし、家族以外の人間の出入りも多い。

 精霊術士団の新人訓練を請け負っているのは、父がらみだ。なんでも、顧問をやっているとか。新人訓練を担当しているとか。
 もちろん、ジンからの情報で、直接、父からそんな話を聞いたことはない。

 まぁ、そんなわけで。使用人のほか、たくさんの騎士や精霊術士が我が家に出入りする。その大人数の食事を賄えるよう、厨房と食堂が家族用とは別にあるのだ。
 料理のメニューも、騎士向けのガッツリしたものや、一般家庭で作られるようなものが多い。
 私のふだんの食事も実戦訓練で持っていくランチもここで作ってもらっている。

 いつも交流があるせいか、ここの料理長は私の料理修行に快く応じてくれた。
 とはいえ、当主の娘が使用人用の厨房や食堂に出入りするのは、あまりよろしくないとのこと。

 とくに、私の髪と目の色は目立つらしい。
 父兄妹たちが揃いも揃って金髪碧眼なのに対して、私は銀髪に赤目。
 銀髪は母の家系の色で母譲りだそうだが赤目は出自不明。魔力量が桁外れに多いので、そのせいで変色したのではないかと言われている。

 まぁ、色のせいもあって目立ちやすいため、どうにかしてくれ、と言われた。
 ぱっと見て分からなければいいそうなので、髪色を変え髪型も変え、メガネをかけて目の色をごまかし、使用人の服装をしている。

 意外とバレてない。
 そもそも、皆、私に興味ないもんな。
 さっきもマリージュの話ばかりで、私の話題なんて出なかったもんな。

 料理長には、料理指導のお礼にと、ちょっとお高いワインを進呈した。
 結果、私の調理技術は、初心者から初級者程度に向上。料理したことない人から、料理を習い始めた人にまで進化している。ありがとう、料理長。

 え? ほとんど変わりないって?

 食べられない料理が、頑張れば食べられる料理になったんだよ? たった二週間で!

 試食をするジンもお腹を壊さなくなったし、自分でもだいぶ上達したと思う。
 もう少しすれば、普通に食べられる料理にまでいけそうな気がする。
 でも、お菓子はダメだ。諦めよう。
 ふだん食べる普通の料理を、普通に作れるようにするのが先だ。最優先だ。

 そして意外な副収穫がこれ。

 直接、使用人の噂話を聞けること。
 けして、盗み聞きじゃないから。人前でむやみに話をする方が問題だから。

 使用人はそれなりに教育がしっかりなされているのか、妹の噂話はすれども、私の陰口はしない。
 って、そもそも、私に興味ないもんな。私の話題が出たこともなかったな。

 これが、グランフレイムの私設騎士団だと、平気で陰口を加えてくる。

「赤の樹林、まだ閉鎖してるのかよ」

 グランフレイムの精霊騎士たちも、使用人に負けず劣らず。休憩時間は噂話ばかり。もっと他にすることないんだろうか?

「第六師団のせいだろ。仕事、遅いよな」

「マリージュ様の儀ができないだろうに」

 陰口を叩いてないで、熊に言えよ、熊に。

「師団も大したことないな」

「ま、ロクデナシ団だしな」

 あの熊、君らよりはるかに強そうだったけどね。

「まったく。ネージュ様があんなところで、魔物に出くわすのがいけないんだろ」

 魔物出現は私のせいじゃないし。

「精霊魔法も使えないくせに、ロクなことしないよな」

 精霊魔法が使えないのと魔物出現とは、なーんの関係もないし。

「技能なしなんだから、成人したら、ここからいなくなるさ」

「ああ、さっさといなくなってほしいよな」

 言われなくても、いなくなってあげるし。

「マリージュ様はあんなに才能あふれてるのにな」

「ああ、あんなにお綺麗でお優しくて」

「可憐ってマリージュ様のための言葉だよな」

 妹への誉め言葉も聞き飽きたし。

「婚約の話も進んでるんだろ」

「さすがはマリージュ様だな」

 そこはマリージュじゃなくて、あの父がさすがなんじゃないの?

「ネージュ様は縁談話ゼロなのにな」

「技能なしだから、当然だろ」

「誰が技能なしと結婚したがるかよ」

「グランフレイムとの縁を欲しがるやつくらいだろ」

「ああ、血筋はあれでもグランフレイムだからな」

 うわっ、ムカつく。なんか、ムカつく。

 負け惜しみなんかじゃないけど、縁談になんか興味ないし。独りでだって生きてけるし。
 こいつら、いつか絶対、吹き飛ばしてあげようじゃないの!

「で、ここで何を?」

「おっと……」

 噂話に集中していたら、ジンに見つかった。
 いつの間に現れたんだろうと思って、振り返ると、風の精霊魔法で気配を消していた。
 見かけない使用人と話をしているのを見られても、困るのだろう。

「ちょっと社会勉強をね」

「要りませんよね、それ」
  
 即刻、使用人の食堂からつまみだされる。経験上、これからもっと面白い話になるのに。

「せっかくの情報収集が」

「だから要りませんよね、それ」

「これからが面白いところなんだよ?」

「面白さも要りませんよね」

 有無をいわさず、ジンによって厨房へ連れ戻された。
 よし、明日からはジンに見つからないように、噂話を立ち聞きしよう。
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