精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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1 鑑定の儀編

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 考え込む私に、ジンはきっぱりと言った。

「魔物遭遇は騎士団に報告しないといけませんから」

 魔物遭遇時の原則です、何度も何度も言いましたよね、とウンザリした顔をするジン。

「騎士団の人がくるの? あれ(=惨状)を見に?」

 あれ(=惨状)、マズくない?

 今日、何度目か、ピシッと固まる私。
 自分でも見たくないくらいのあれ。他人が見たら、なんて思われることか。
 変な汗が止まり、今度は嫌な汗が出てくる。

「魔物の遭遇報告を受けたら、騎士団が討伐しに来るのは当然のことだと思いますが」

 ジンは、ウンザリ顔に加えて、何を言っているんだという目で見てくる。やっぱり視線が痛い。

 私、頑張って魔物を倒したのに、なんで、こんなに責められてるんだろう。

「魔物に遭遇してないよね、討伐された魔物死骸に遭遇だよね(、ジンは)」

 苦しい言い訳だと思いつつも、言うだけ言ってみた。倒しちゃってるんだから、討伐いらなくない? いらないよねー

「普通はサクッと討伐なんて、できないんですよ。そのへん分かってます? 分かってませんよね、ハァァァ」

 ついにジンが自己完結しはじめた。
 ごめん、ジン。猫の形をした何かくらいしか友達いないから、普通ってよく分からないわ。

「ともかく。普通は討伐して、死骸を無害化させたあと、埋めるなり燃やすなり研究に回すなり、後始末するんですよ、ネージュ様」

「あ。倒しても、その後もろもろ手順があるんだね。面倒だな」

 思わず口をつく。
 面倒事が増えたから、頑張って倒したのに、責められるのか。

「だから、その面倒なのをまとめて、騎士団にお願いするんですって」

 思いっきり呆れた顔して見てくるジン。
 なんか、ムカつく。

「討伐と、どうやら無害化もできているようなんで。別の意味で困りましたよ。
 まったく、なんで知識もないことをサラッとやっちゃうんですかね。
 もちろん、ネージュ様の専属護衛たる私としては、何をどうやってこうなったのか、あえて、深く、問いただしたりはしませんけど!」

「うっ」

 痛いところを突いてくる。

 私が高位の非精霊魔法を使えるのは極秘にされていて、知っているのはグランフレイムでもごくわずか。
 ジンとメモリアはもちろん知っているけれど。

 精霊魔法は使えないくせに、魔法陣の無詠唱高速複数展開ができるなんて、口が裂けても言えない。

 家門内に知られたら最後、精霊術士家門には不要の技能所持者ってことで、追い出されるに決まっている。
 そうでなくても、何かにつけて粗探しをされているっていうのに。

 魔力量も多いし、非精霊魔法でも凄い使い手であれば、認めてもらえるだろうと思っていたときもあったっけ。

 精霊魔法が使えなくたって、私は家門の役に立つんだと、思ってもらいたかっただけなのに。
 勉強だってたくさんした。家門の役に立ちそうなことなら、なんでもやった。

 でも、その希望は実の父親によってあっさりと潰されたんだよね。

「お前は別に頑張らなくていい」「お前にはとくに期待していない」だって。

 そんな私の寂しい過去より、今はこの惨状をどうするかの方が重要だった!

「私だって、よく分からないわよ」

「だから、それが困るんですよ」

 どうやって倒したかはともかく、どうやって無害化したかは自分でも分からない。
 無責任だと思わないでほしい、本当に分からないんだから。

 ジンに言われて初めて、無害化しないといけないことを知ったほどだし。
 無害化できていることにも戸惑っているんだし。

「で。どう誤魔化しましょうかね」

 どうやったって無理でしょ!

 一難去ってもう一難。
 私は心の中で盛大に叫んだ。

「ちなみに、報告しないっていう選択肢は……」

「ありません。すでに報告済みです」

「報告、早っ!」

 でもちょっと待って。
 赤の樹林は精霊力がほぼゼロのはず。
 伝達魔法って、風の精霊魔法じゃなかったっけ?

「いったい、どうやって………」

「伝達魔法くらいなら問題ありません」

 あっさり答えが返ってきた。

 そうだよね。伝達魔法が使えても、戦力の足しにはならないものね。使える内に入らないよね。

 くぅぅ、やっぱり精霊魔法、便利だな、様々だな!

「じゃあ、遭遇報告はもう済んでいるんだ」

 騎士団が来るのは確定。ガックリくる。

「何を言っているんですか。討伐済みなんですよ。遭遇報告ではなく討伐報告です」

 ジンがサラッととんでもないことを言った。

「ええっ! 討伐って簡単にはできないんでしょ。それを報告しちゃって良かったの?」

「騎士団の討伐隊が大人数でやってきて、その大人数にこれ(=惨状)を見られるほうがマズいですね。
 炎で魔核を貫いているうえ、首を焼き切っていますからね。どなたかがね、やったんですよね」

「うっ」

「これ(=惨状)がある以上、遭遇報告してから騎士団がやってくる間に、突然、魔物が死にました、なんて言い訳もできません。
 討伐報告なら、現場検証と死骸回収なので少数精鋭で来るはず。少人数なら、まだなんとかなります」

 ジンが冷静に分析する。

「現況把握、問題解析、ジン、凄い! さすが!」

 ジンが凄い。うちのジンが凄い。
 ちょっとウルウルしてしまう。

「問題なのは、第二師団ではなく、第六師団が来ることですかね」

 先ほど伝達魔法が届きましたが、と、ジンが眉をひそめて疲れた声でつぶやいた。

「第六師団。通称、遊撃騎士団。別名、ロクデナシ団」

 案外、ネージュ様と合うかもしれませんねと、言葉とは裏腹に、ジンは心配そうな顔をして私をじっと見つめてくる。

「第六師団は、非常事態案件が専門のくせ者集団ですよ。ああ、最悪だな」

 ジンが、静かにため息をつきながらも、教えてくれた。吐き捨てるような話し方が、耳につく。

 ロクデナシだなんて、名前からして怖いなぁ。どんな騎士がやってくるんだろう。
 そもそも、ちゃんとした騎士なんだろうか? ロクデナシでくせ者なんでしょ?

 私はやってくる人たちのことで頭がいっぱいで、ジンの本当の心配が何であるか、この時は知る由もなかった。
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