精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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1 鑑定の儀編

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「で。
 熊の魔物と対峙している猫を見て、驚いて、原則も何もかも忘れて、魔法陣を展開しながら応戦したと」

「……………はい」

 猫を膝の上に抱えながら、ちょこんと座って返事をする私。

「その結果、木が吹き飛んで、岩が転がって、地面が抉れて、熊の魔物の頭と体が分離して、髪バサバサで葉っぱもついて、全身土埃まみれのドロドロになったと」

「身も蓋もない言い方、やめてほしいんだけど」

「間違っていませんよね?」

「……………はい」

 けっきょく、怖い目つきで見るジンに負けて、洗いざらい喋らされた。
 そして、ダラダラ喋ったはずなのに、けっこう短くまとめられてしまった。おかしい。

「ともかく」

 私はつとめて明るい声を出してみる。

「結果良ければ、すべて良しってことで」

 ね!と、ヒラヒラと手のひらを振って同意を求めたが、ジンは顔を赤くしてさらに怖い目をするだけ。

 あー、これは何か余計なことを言っちゃった、かなー
 変な汗が出てくる。

「たかが猫一匹のために、魔物につっかかっていく人がいますか!」

「うっ」

 思わず肩をすくめた。
 目線が痛い。あわせて声もさらに大きくなって、耳も痛い。頭も痛い。

 護衛という立場上の発言であるのは理解できる。そして、ジンが私を心配してくれてるのも理解できる。

 にしても、

「たかがって言わないでくれる?」

 腕の中の猫が静かに、にゃーと鳴く。

「私の友達って、この猫しかいないんだから」

 人間に友達いない発言。
 自分で言ってて辛い。

 今度は逆にジンがうっと詰まる。
 つり上げていた目が大きく開いたと思ったら、気まずいのか、パッと顔を下に向けてしまった。

 ジンも知っているはずだ。

 私が、実戦訓練でよく見かけるようになったこの猫と仲良くしているのを。ジンの良心をつつくようで心苦しい。

 重たい沈黙が続く。

 人間に友達いない発言に無言で同意してくれるのはありがたいけど、それはそれでちょっと傷つくことを今、知った。

「それに」

と、私は話を続ける。

「ジンやメモリアが襲われていても、同じようにしたと思う」

 メモリアは私の専属侍女だ。
 ジンと同じく頑強さが売りの元精霊騎士で、身の回りの世話係もできる護衛兼侍女のような役回り。

 家族に関心をもたれず、家族以外からは役立たずのように扱われている身としては、職業意識であれ業務上の行動であれ、私に関心をもち、そばにいてくれるジンとメモリアは何よりも大切な存在だ。

 失いたくないし、できれば自分で守りたいと思う。

「護衛対象に守られるなんてことになったら」

 下を向いたまま、ジンが言葉を続ける。

「あいつは怒るだけじゃすみませんよ」

 メモリアは女性にしては背が高い。
 男性にしては小柄なジンと同じくらいの背格好で、髪型も似たような感じに見える。

 加えて、髪も瞳も似たような色。血縁者なのかと二人に質問したくらいだ。
(そして二人とも思いっきり否定した)

 パッと見て違いがあるとしたら、表情だろうか。

 ジンも表情豊かな方ではないが、メモリアはふだん目や口元がほとんど動かない。
 そして、格別に感情を揺さぶるときほど、微動だにしない。

 一度、メモリアを怒らせたときがあった。
 そのときメモリアは、いつもよりさらに無になり、おもむろに外壁を素手でぶち抜いたのだ。

 危ない場面で私がメモリアを庇ったら、ジンの言う通り、怒るだけではなく、無の表情でバコンとやられるかもしれない。
 それでも、私を慮って怒ってくれる人がいるというのはありがたい。

 だから、私は、

「そのときは、ちゃんと怒られるから」

と、ニコリと笑ってジンに言い返す。

 ようやく顔をあげたジンは、目を細めて無言で私を見、「そういうところですよ」と言って、ハーーっと息を吐く。

 そして頭をガシガシと掻きながら、口を開いた。

「ネージュ様、魔物対処の原則は覚えてください」

 一陣の風が、土埃をあげ、辺りの焦げ臭さを吹き散らしていく。

「まずは自分の安全確保、そして騎士団に遭遇報告」

 ジンの口調がふだん通りに戻り、今まで何十回と聞かされた、一般人が守るべき魔物対処の決まり文句を繰り返す。

 ジンの中で葛藤もあったけど、いろいろと諦めたってところだろうね。(元凶が言うなってね)

「応戦してはいけません。逃げるんです」

「次はそうする」

 私は言葉を返した。

「それと。友達宣言のところ申し訳ないのですが……」

 そんないい雰囲気のところに、ジンが水を差す。

「それ、猫じゃありませんよ?」

 え?

 一瞬、固まる。
 そして、膝の上の猫を見る。
 どこからどう見ても猫だ。

「じゃ、山猫?」

「猫から離れてください」

 そう言われても猫にしか見えない。
 黒毛赤目、小さい三角の耳、シュッとしたヒゲ、プニプニした肉球、長い尻尾、間違いなく猫だ。

「正確には、猫の形をした何かです」

 えええ?

 前々から言おうと思っていたんですけれどね、と、ぬけぬけとジンが言う。

「どう見ても猫でしょ!」

「気が違います」

 精霊術士は生命の精霊や気を見ることができる。猫には猫独自の気があるんだとか。

「くーーーー、これだから精霊術士は!
 なんでもかんでも精霊や気を理由付けして!
 精霊術士じゃないんだから分かるわけないでしょ!」

 吠えてみた。

「熊と魔獣と魔物の違いが、一目で分かる人の発言とは思えませんね」

 ジンを無視して私は猫を持ち上げた。

「猫ちゃん! 君は猫じゃなかったの?!」

 涙目で猫(仮)を見る。

 猫(仮)は首を傾げて、にゃーと鳴く。かわいい。かわいいに悪者はいない。

「魔獣や魔物が持つような、混沌は感じられないので、新種かもしれませんがね」

「じゃ、私の友達は猫の形をした何か、猫(仮)ってことで、話は終わりでいいね!」

 そして、私の最後の実戦訓練も終了!と思った矢先。

「あとは、これをどう誤魔化すか、ですね」

 ん? 誤魔化すってどういうこと?
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