精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

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1 鑑定の儀編

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 そもそも、今日は実戦訓練の日だった。

 私の実戦訓練の場は、大神殿に隣接する赤の樹林。ここで、定期的に大型の肉食獣や魔獣を狩っている。

「混沌の樹林が飛び散った地が、赤の樹林、黒の樹林と呼ばれています」

 今日の実戦訓練も、ジンの注意事項確認から始まった。ジンの話は地味に長い。

 赤の樹林や魔獣についての知識も含めて確認したり補足したりと、話がどんどん積み重なっていく。

 おかげで知識は増えるし忘れたりもしないが、実際の訓練に入るまでの時間がどうしても長くなる。そろそろ心得的なものだけにしてほしい。

 私がそのへんの岩に腰掛けて楽な姿になるのをジンは黙って見ている。黙っているってことは今日も話が長いんだろうな。
 ジンは直立不動のまま、私は楽な姿勢で真剣に話を聞く。

「特徴は覚えていますか?」

「混沌の木と呼ばれるものが生えている。混沌の木は微量の混沌を吐き出すので、樹林の中は混沌が溜まっていく。
 樹林に棲息する生き物が、その混沌を溜め込み魔獣になる」

 名もなき混沌と感情の神が封じられた地は混沌の樹林と呼ばれ、今もなお、混沌と感情の神の気が渦巻いている。

 混沌の樹林がある限り、赤の樹林や黒の樹林は完全にはなくならないそうだ。
 なくならないのであれば、これ以上広がらないようにして、魔獣の被害を少なくするしかない。

 そのため、実戦訓練で魔獣を狩ったり、浄化魔法で混沌の木を減らしたりする活動が広く行われている。

「赤の樹林と黒の樹林の違いは?」

「赤の樹林は精霊力がほぼゼロ。精霊魔法が使えなかったり、使えたとしても威力が大幅にさがる」

 精霊力に違いがある理由は解明されていない。
 赤の樹林は、精霊魔法が使えない、使えたとしても威力が弱くなったり、簡単なものしか使えないので、精霊の加護がない忌み地だと考える人間もいる。

 驚くことに、能力が制限されるからと、精霊騎士や精霊術士は赤の樹林で実戦訓練をしない。実戦訓練どころか派遣もされないらしい。

 能力が制限される場所での訓練も必要なんじゃないの?

 グランフレイムの精霊騎士に質問したことがあるけど。
 能力で『役割分担』されるから、そんな訓練は必要ない、そんなことも知らないのかと笑われたわ。
 くー、なんかムカつく。

 精霊魔法が使えない場所には、精霊魔法が使えない人間が仕事を回される。
 だから、自分たちは無関係、そう言ってるわけだ。

 普通は不利な状況を克服するためにとかなんとか言って、やるもんなんじゃないの? どれだけ、精霊魔法様々なのよ! と妙なところで感心する。

 不利な状況がいつ起きるかは、それこそ、時と空の神や運命と宿命の神ではないと分からないのに。

 役割分担できない状況で不利な場面に出くわしたら、どうするつもりなんだろうね。
 精霊魔法様々な人たちの考えなんて、まったく理解できないけど!

 そんなことを頭の中で考えていたせいか、このとき当主の娘なのにバカにされた件についてはスルーっとしてしまった。

 悔しいけど、精霊魔法が使えない私の扱いなんて、こんなものだわ。

 専属護衛のジン、専属侍女のメモリア、この二人は元精霊騎士だけど、彼らからは同じような扱いをされたことはない。
 ジンに至ってはとても優しいし丁寧だ。

「ジンて、私のこと大好きだよね」

と尋ねたら、

「好きですよ。恋愛感情はまったくありませんが」

とあっさり返されたのが、なんだか悔しくて。

「私もジンは好きだけど、恋愛感情はないわ」

と返してあげた。

 確かにジンに対して恋愛感情はないと思う。私にとってのジンはお母さん的存在。
 小言も多く口うるさい。

 実戦訓練もお決まりの注意事項確認をやらされるし。他のことを考えながらでも、答えはスラスラでてくるようになったし。

「対策は?」

「非精霊魔法、もしくは、剣技や槍技などの武器技で対処する」

「さすがに覚えていますね」

 何十回と聞かされたからね!

「何十回と言ってますが、相手が魔獣であった場合、血には触れないでください」

 最近の研究では、混沌は筋肉や骨ではなく、血に溜まるらしい。

 血をキレイに洗い流して、念入りに浄化すれば、肉や毛皮などが利用可能だ。
 処理の技術もどんどん向上している。

 そのせいもあって、最近では、魔獣由来の加工品や食材が出回るようになってきた。

「この実戦訓練は、大型の肉食獣や魔獣を倒すところまで。自分の身を自分で守れるようにすることが目的です」

 騎士団くらいの大所帯なら、血抜きや解体処理も自前で行うらしい。

 そうでない場合は、専門業者にやってもらうのが一般的。専門家に任せる方が無駄も失敗もない。
 だから、私たちは倒すことだけに集中する。

 ただし、

「相手が魔物であった場合は、対処しないでください」

 あくまでも対処は魔獣だけ。

「なんで魔物は対処しちゃダメなの?」

「魔物は倒すだけでは害がなくなりません」

 ジンが額にギュッとシワを寄せて、苦しそうな、難しい顔をした。過去に魔物と何かあったのかな。

 ジンは雇用関係に徹する性質で、護衛業務と関係のない話、たとえば、専属護衛になる前の話や自分の家族など個人的な話は語らない。

「そもそも倒すことが難しいんです」

 魔物は混沌が濃く固まって形をなし、命が芽生えたもの。魔獣とは根本的に成り立ちが違う生き物だ。いわば、混沌の塊なので、生き物と言っていいのかは分からない。

 魔物の存在は確かではあるが、滅多に出現しない。研究もほとんど進んでいない。文献もない。ジンからも魔物については対処の原則しか教わっていない。

「だから、魔物の場合は騎士団に遭遇報告が原則となります」

 今日もいつもの対処の原則だけ。

「対処したかったのに、なんて顔をしてもだめですよ」

「いやいや、そんなことは思ってなんかないって」

 私はコホンと一息ついて、仕切り直した。

「大型の肉食獣と魔獣を狩る。
 魔獣の血には触れない。
 魔物を見たら手出ししない、騎士団に報告。
……これで良いでしょ?」

 ジンから余計な話が追加される前に、話をまとめて、先を促した。

「はい、では始めましょうか」
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