1 / 384
1 鑑定の儀編
0-0 精霊の国のじゃない方
しおりを挟む
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
この国の人は皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
なにせ、摂理の神エルムの加護たっぷりの土地を基盤として興った国なわけだし。
エルムが司る自然の力、エルムを主とする竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前。
精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、うじゃうじゃいる。
他国はエルムの加護がないので、精霊魔法を扱えるのは一割程度なんだとか。
もちろん、他国は他国で別の神の加護があるから、神の加護が手厚い分野、すなわち得意な分野も違ってくるのは当たり前なんだけれど。
精霊魔法の分野ではエルメンティアが一番で、クドいようだけど精霊魔法を扱える人間もうじゃうじゃいて、うちの王国は精霊に愛されているのよ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言うようだ。
(精霊の加護が厚いんじゃなくて、あくまでも摂理の神エルムの加護が厚いだけ)
私、ネージュ・グランフレイムは、そんな国の約七割じゃない方として生まれた。
こう言うのもなんだけれど、肩身が狭い。とっても肩身が狭い。
グランフレイムは昔からある家門のひとつ。精霊魔法の名家とか権威とか言われるほど有名な家門だ。
そもそも、そんなグランフレイムに生まれてしまったのが、最初のボタンのかけ間違いというもの。
グランフレイムは過去に何人も優秀な精霊術士を輩出している。
私の父も兄も上位精霊を扱えるほどの上級精霊術士。凄い人たちだ。
母は私が幼いころに亡くなっているので記憶にないが、優秀な精霊術士だったそう。
妹にいたっては全属性の精霊を扱える。普通の人はどんなに多くても属性三つ程度だから、この全属性っていうのは、とても凄い。
精霊からも愛される天性の精霊術士だと、周囲がこぞってもてはやすのも頷けてしまう。
苦もせず精霊魔法を習得していくそうなので、本当の天才なんだろう。
それに引き換えだ。私は精霊魔法が扱えない。精霊魔法以外の魔法なら、それなり以上に扱えるんだけど、精霊魔法だけはまるでダメ。
こういった魔法は、生まれもって神から与えられた加護、先天技能に分類される。この先天技能があるかないかで、運命が分かれるとも言う。
先天技能があるかないか、どんなものか、それを文字通り鑑定するのが、鑑定の儀と呼ばれているもの。
もちろん、先天技能以外のものも鑑定するので、自分に向く分野が一目で分かってしまう。
私の魔力量が桁外れに多いことは、最初の能力鑑定の儀で判明していた。
魔力量は多ければ多いほど、より上級の精霊を使役できる。
さぞかし立派な上級精霊術士になるのだろうと、当時は相当、期待されていた。
しかし、私が期待されたのは、そのときまで。
二度目の能力鑑定の儀で、精霊魔法の技能がないことが告げられてからは、腫れ物扱いとなった。
技能がなければ精霊魔法は使えない。期待されていた子どもが、実は役立たずだったと分かった瞬間のまわりの反応といったら!
今なら冷静に笑えるけど、当時は何が起こったのか理解できないほどだった。
手のひらを返すように、皆、私に冷たくなった。違うな。興味を示さなくなり、期待もしなくなったんだ。
グランフレイムの直系で『技能なし』(=精霊魔法の技能がない人間)だなんて前代未聞。
家族全員精霊魔法が使えるのに。
妹は精霊に愛される天才なのに。
そんなことを何度も何度も言われて、嫌になってくる。
技能なしはわたしの責任じゃないし、私に責任を求められても困るんだけど。
私に対し、家族は面と向かって何も言わない。言わないどころか、ほぼほぼ顔を合わせなくなった。まるで、私という存在がないかのよう。
家族以外の人間はこういった話をあきらさまに、もしくはコソコソと、陰に日向に言いたい放題。肩身が狭いだけじゃなく、ちょっと立場もない。
時折、こう思う。
ごく普通の一般家庭に生まれてれば、精霊魔法が使えなくたって、とくに何も思われなかった。
精霊魔法が使えない家族が他にもいれば、私だけに集中するなんてこともなかった。
まぁ、そんなことを考えたところで、変わることは何もない。分かっていても考えてしまうのは、私の心が疲れているせいなのかなぁ、と。
エルメンティアでも、三人に一人は精霊魔法がまったく使えない。
私にあれこれ言ってくる親族だって、身内に精霊魔法が使えない人間がいる。
直系では私が前代未聞なだけで、傍系では普通にあることなんだし。
精霊魔法が使えなくても、日常生活に問題はないし、職に就くにあたっても、結婚するにあたっても問題はない。
精霊魔法が使えるのを素晴らしい才能だと思われることはあっても、精霊魔法が使えないことが恥ずかしい、忌むべきことだとは思われていない。
問題があるとすれば、精霊魔法至上主義の考えを持つ人間からの当たりが強いことくらい。
精霊魔法至上主義者にとっては、精霊魔法が第一で、その他の非精霊魔法は劣ったもの、精霊魔法が使えない人間は価値がないもの、と考えるそうだ。
公的にはよろしくない考え方とされているが、あえて注意する人もいないので、なくなることもないらしい。
言いたい放題言う人たちの一部は、この手の人間なんだと思うようにしている。
わずか十歳でこの心境に至って、早、六年が経とうとしているが、周りの環境は一切、変わらない。
努力してどうにかなるものなら、必死に努力する。努力してもできなければ、努力が足りなかったと諦めもつく。
でも、努力でどうにもならないものを、精霊魔法の家門なんだからどうにかしろと言われたって、どうすればいいんだろう。
考えても分からないし、誰も答えを教えてくれない。
他人に頼るな、答えは自分で掴み取れ?
言うは簡単。
掴み取ろうと、もがいてもがいて。
けっきょく何も得られないまま、最後の鑑定の儀を迎える年になってしまった。
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
精霊魔法が扱えない人間にとっては、居心地が悪いときもある、そんな国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
この国の人は皆、自分たちの国のことをそう呼んで称えている。
なにせ、摂理の神エルムの加護たっぷりの土地を基盤として興った国なわけだし。
エルムが司る自然の力、エルムを主とする竜や精霊の力に満ち溢れているのは当たり前。
精霊魔法を扱える人も全王国民の約七割と、うじゃうじゃいる。
他国はエルムの加護がないので、精霊魔法を扱えるのは一割程度なんだとか。
もちろん、他国は他国で別の神の加護があるから、神の加護が手厚い分野、すなわち得意な分野も違ってくるのは当たり前なんだけれど。
精霊魔法の分野ではエルメンティアが一番で、クドいようだけど精霊魔法を扱える人間もうじゃうじゃいて、うちの王国は精霊に愛されているのよ、と自慢げに「精霊の加護厚い……」なんて言うようだ。
(精霊の加護が厚いんじゃなくて、あくまでも摂理の神エルムの加護が厚いだけ)
私、ネージュ・グランフレイムは、そんな国の約七割じゃない方として生まれた。
こう言うのもなんだけれど、肩身が狭い。とっても肩身が狭い。
グランフレイムは昔からある家門のひとつ。精霊魔法の名家とか権威とか言われるほど有名な家門だ。
そもそも、そんなグランフレイムに生まれてしまったのが、最初のボタンのかけ間違いというもの。
グランフレイムは過去に何人も優秀な精霊術士を輩出している。
私の父も兄も上位精霊を扱えるほどの上級精霊術士。凄い人たちだ。
母は私が幼いころに亡くなっているので記憶にないが、優秀な精霊術士だったそう。
妹にいたっては全属性の精霊を扱える。普通の人はどんなに多くても属性三つ程度だから、この全属性っていうのは、とても凄い。
精霊からも愛される天性の精霊術士だと、周囲がこぞってもてはやすのも頷けてしまう。
苦もせず精霊魔法を習得していくそうなので、本当の天才なんだろう。
それに引き換えだ。私は精霊魔法が扱えない。精霊魔法以外の魔法なら、それなり以上に扱えるんだけど、精霊魔法だけはまるでダメ。
こういった魔法は、生まれもって神から与えられた加護、先天技能に分類される。この先天技能があるかないかで、運命が分かれるとも言う。
先天技能があるかないか、どんなものか、それを文字通り鑑定するのが、鑑定の儀と呼ばれているもの。
もちろん、先天技能以外のものも鑑定するので、自分に向く分野が一目で分かってしまう。
私の魔力量が桁外れに多いことは、最初の能力鑑定の儀で判明していた。
魔力量は多ければ多いほど、より上級の精霊を使役できる。
さぞかし立派な上級精霊術士になるのだろうと、当時は相当、期待されていた。
しかし、私が期待されたのは、そのときまで。
二度目の能力鑑定の儀で、精霊魔法の技能がないことが告げられてからは、腫れ物扱いとなった。
技能がなければ精霊魔法は使えない。期待されていた子どもが、実は役立たずだったと分かった瞬間のまわりの反応といったら!
今なら冷静に笑えるけど、当時は何が起こったのか理解できないほどだった。
手のひらを返すように、皆、私に冷たくなった。違うな。興味を示さなくなり、期待もしなくなったんだ。
グランフレイムの直系で『技能なし』(=精霊魔法の技能がない人間)だなんて前代未聞。
家族全員精霊魔法が使えるのに。
妹は精霊に愛される天才なのに。
そんなことを何度も何度も言われて、嫌になってくる。
技能なしはわたしの責任じゃないし、私に責任を求められても困るんだけど。
私に対し、家族は面と向かって何も言わない。言わないどころか、ほぼほぼ顔を合わせなくなった。まるで、私という存在がないかのよう。
家族以外の人間はこういった話をあきらさまに、もしくはコソコソと、陰に日向に言いたい放題。肩身が狭いだけじゃなく、ちょっと立場もない。
時折、こう思う。
ごく普通の一般家庭に生まれてれば、精霊魔法が使えなくたって、とくに何も思われなかった。
精霊魔法が使えない家族が他にもいれば、私だけに集中するなんてこともなかった。
まぁ、そんなことを考えたところで、変わることは何もない。分かっていても考えてしまうのは、私の心が疲れているせいなのかなぁ、と。
エルメンティアでも、三人に一人は精霊魔法がまったく使えない。
私にあれこれ言ってくる親族だって、身内に精霊魔法が使えない人間がいる。
直系では私が前代未聞なだけで、傍系では普通にあることなんだし。
精霊魔法が使えなくても、日常生活に問題はないし、職に就くにあたっても、結婚するにあたっても問題はない。
精霊魔法が使えるのを素晴らしい才能だと思われることはあっても、精霊魔法が使えないことが恥ずかしい、忌むべきことだとは思われていない。
問題があるとすれば、精霊魔法至上主義の考えを持つ人間からの当たりが強いことくらい。
精霊魔法至上主義者にとっては、精霊魔法が第一で、その他の非精霊魔法は劣ったもの、精霊魔法が使えない人間は価値がないもの、と考えるそうだ。
公的にはよろしくない考え方とされているが、あえて注意する人もいないので、なくなることもないらしい。
言いたい放題言う人たちの一部は、この手の人間なんだと思うようにしている。
わずか十歳でこの心境に至って、早、六年が経とうとしているが、周りの環境は一切、変わらない。
努力してどうにかなるものなら、必死に努力する。努力してもできなければ、努力が足りなかったと諦めもつく。
でも、努力でどうにもならないものを、精霊魔法の家門なんだからどうにかしろと言われたって、どうすればいいんだろう。
考えても分からないし、誰も答えを教えてくれない。
他人に頼るな、答えは自分で掴み取れ?
言うは簡単。
掴み取ろうと、もがいてもがいて。
けっきょく何も得られないまま、最後の鑑定の儀を迎える年になってしまった。
ここは精霊の国。
精霊の加護厚いエルメンティア王国。
精霊魔法が扱えない人間にとっては、居心地が悪いときもある、そんな国。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
220
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる