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13 夫婦生活の復活とスパイス

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 予定していた訪問先を全て消化した後、郊外の女子大に向かいました。管理棟の総務部を尋ね、担当の職員と少し雑談し形だけシステムの具合をチェックしてオフィスを辞しました。六月の眩い陽光を照り返す青々とした芝生の間の園路ぞいにある白いベンチに腰掛け、遠くのテニスコートや体育館から聞こえてくる女の子たちの張りのある声を聴いていました。掛け声を唱和しながらやってくる足音に目を留めました。
 ふぁいとー、おー、ふぁい、おー、ふぁい、おー・・・。
「日乃本女子体育大学 排球部」
 あの日。
 この若々しい汗を散らしながら通り過ぎて行く一群が着ているのと同じ、バレー部のプリント入りのTシャツ姿の女の子がこの大学の会議室に来ていました。

 俺は、やっと想い出したのです。
 はじめてマユと出会った日のことを。


 マユはこの女子体育大の三年生でした。
 小学校から続けてきたバレーボールに打ち込み、できれば社会人でプレーを続けたい、それが駄目なら中学か高校の保健体育の教師、という目標持っていたマユは、ボランティア活動や事務局の手伝いなどにも積極的に参加する真面目な学生でした。就職の時に有利だと思ったからです。
「PC操作のモニターをしてほしい」
 大学三年生の春。事務局から依頼され、他三名ほどの学生と一緒にシステム構築の業者の手伝いをすることになりました。大学が新しく導入する予定の学生管理ソフトのテストのためでした。学生と教授とのやり取り、単位の取得状況、課題の提出や論文のやりとりをWEB上でできるようにするためのシステムです。
 仕事は簡単でした。業者の担当者の指示に従って、ダミーの文章や数式、画像などを入力してゆくだけです。今どきの学生はレポートなどもPCで書きますから、皆手慣れたものでした。
 ですが、マユだけは遅々として進まず、見かねた担当者が付きっきりで入力を教えました。彼女のために熱心に指導する彼の長い指が手に触れるたびに頬が赤らむのを感じ、自分の肩に触れるほど近くで、息がかかるほどの距離にいることを意識し、彼のローションの香りの間に垣間見える大人の男の体臭に軽い眩暈を覚え、彼の視線がマユのそれと合うたびに、恥ずかしさを覚え、興奮していました。入力などできたものではありませんでした。
 その頃、マユはすでにオヤジと付き合っていたそうです。そうマユから聞きました。ですが、オヤジに対して抱いたそれとはまったく違う感情に戸惑ったそうです。
「生まれて初めて、だった」
 マユは恋に陥ちました。
 次の日。マユはいつもの洗い晒しのクラブのTシャツにジャージのズボンという服装をがらりと変えて大学に現れました。ボサボサの短髪はきちんとセットされて清潔な印象を与え、明るいふんわりとした黄色のワンピースの足元は白いパンプス、といったいでたちでした。同級生からはずいぶん囃されましたが、そんなことには一向構わず、誰よりも早く入力作業用に指定された会議室に現れました。
 マユは定められた一週間の期間中、その担当者から離れませんでした。
 ほとんど独占するような感じで、他の学生からは奇異の目で見られましたがまったく気になりませんでした。マユの小さな胸の中はその男性のことでいっぱいになりました。彼女にとってその男性はすでに恋人になっていました。作業が終わってアパートに帰ると、妄想の中で、彼は毎晩彼女を優しい言葉で褒め、抱きしめてくれていたのです。
 入力作業の最終日、その担当者は学生たちの協力に感謝し
「何かお礼をしたいのですが」と言いました。
「じゃあ、ご飯に連れてってください」
 マユは他の学生に先んじてそう言いました。担当者は笑って快諾してくれ、一度帰社して後ほど合流しますから、と言いました。
 その後向かった約束のピザ店に社員の男性が二人待っていました。ところが、あの男性はいませんでした。代わりに来た社員の男性はいろいろと気を使ってくれましたが、マユがそのことを尋ねると、
「ああ、ハセガワね。あいつは急用ができて来れなくなってね。ところでキミ、何年生?」

 せっかく伸ばした髪をマユが自らハサミでジョキジョキ切り落としたとき。
 寝室の床一面にに散らばった髪から目を上げると、大きな瞳に一杯の涙を溜め唇を噛んでいるマユがいました。
 動揺した俺は家を飛び出してしまいました。
 自転車に跨り、深夜の田舎道をあてどもなく走りました。
 何も考えてはいませんでした。とにかく、そこに居辛くなってしまったのです。

 でも・・・、でも・・・、でも・・・。

 ペダルを漕ぎながら何度も「でも・・・」を繰り返しました。夜の風が頬を撫でるに任せていると、無性に切ない思いが俺を苛み始めました。
 どうしても、「でも・・・」は口をついて出てきます。
 ですが、マユを憎むほどに愛しさが募り、マユを抱きたくなっていたのです。
「でも・・・」を繰り返しているうちに、いつしか来た道を引き返していました。俺の戻る場所は、そこしかありませんでした。
 玄関に、膝を抱えたマユが座っていました。
「思い出した? 思い出したんだよね?
 代わりの男の人からナンパされるし。タイプじゃなかったから行かなかったけど。あの時、地面の底に沈んじゃうくらい落ち込んだんだからね。チキショウ。せっかく伸ばしたのに。長い髪の方がいいって、たー君が言うから・・・。
 絶対帰って来てくれると思ってた」
 思わず、彼女のギザギザに切られた髪を撫で抱きしめていました。あふれる涙がシャツに浸みてくるほどでした。
「ごめんな、マユ・・・」
 

 ひと月が瞬く間に過ぎました。

 オヤジは家に帰らなくなりました。役所には行っているようなのですが、たまに荷物を取りにきてまた何処かに出かけて行き、を繰り返しているようでした。俺に気を遣っているのだろうか、とも思いました。そんなタマではないと思っていたのですが。

 そして俺はというと、なんとリーダーに返り咲きました。
 その分帰りは余計に遅くなり、会社に泊まり込むことも増えました。しかし、以前忙しすぎてボロボロになっていた時とは何かが違いました。
 それはきっと、俺たちが夫婦をやり直すことに決めたことと関係があるのだと思います。
 最愛の妻をオヤジに寝取られる、オヤジと妻の情事を目の当たりにする。
 普通なら離婚してもおかしくない非常事態を乗り越えて、俺はマユを再び妻として受け入れることにしたのです。
 どうして受け入れられたか。
 正直なところ、俺にもよくわかりません。
 俺とマユはお互いを強く求めていた、という以外に他に言い方がわかりません。ですが、いったんお互いを受け入れ始めると、何故か全てが良い循環をはじめ、仕事にもそれは影響してきました。
 とにかく、「良い循環」が始まったのです。
 もちろん、マユとの「夫婦生活」も、前にも増して濃厚に、復活しました。
「良い循環」は、おそらくは、それのおかげだったと思います。

 どんなに帰りが遅くなっても、俺はマユを抱きました。

 泊まり込みや出張で幾日か家を留守にしたときはその分余計に可愛がりました。マユを抱くほどに愛情が深くなってゆくのを感じました。マユがかわいくて、仕事中も、商談に向かう途中にも度々マユを思い出して勃起してしまうようになりました。

 それでもあの光景だけは。

 あのオヤジとマユの痴態だけは腫瘍のように憑りついて俺を苦しめるのでした。ふとした時にそれが思い出され、その度にマユを憎らしく思い、その分、たまらなくマユを欲しくなるのです。あのオヤジとのシーンを思い出して昂奮してしまうのです。
「あんなに気持ち良さそうにしやがって、ちくしょおっ!」
 帰りの電車の中ですでにムラムラしてしまい、やはり、勃起してしまいます。
 電車が駅に着くや帰るコールをし、もどかしい思いで自転車を漕ぎ、家に帰り着き、玄関を開けます。
 上がり框にいつものTシャツにショートパンツながら、やや髪の短くなったマユが正座して三つ指ついて待っていてくれます。
 平伏が続きます。
 長い平伏からおもむろに顔を上げて俺を見上げる彼女の眼にギラギラした熱い滾りが沸いているのがわかります。マユも欲情しているのだ、とわかり、俺もさらにムラムラが増してゆきます。
「・・・ただいま!」
「・・・お帰り、たー君!」
 カバンを放り出し、堪らずにマユに抱きついて唇を奪います。マユも、ものすごい力で俺を抱き返してきます。ふくよかで柔らかいマユの身体の感触を堪能しながら、マユはマユで俺の身体を存分に撫でまわしながら、唇で唇を貪り合い、お互いの唾液を交換し合い、舌と舌を激しく絡め合う、淫靡で激しく淫らなキスを交わし、お互いの欲情をさらに高め合います。
 そしてお互いの欲情しきった瞳を見つめ合い、どちらからともなく、
「・・・上、行こ?」
「・・・うん!」
 マユからは石鹸とリンスの香りがします。が、俺はシャワーも浴びないまま二人の寝室になだれ込みます。それでもいいと、そのほうがいいと、マユが言うので。
 階段を駆けあがって寝室のドアを開けベッドまで一気に駆け込みます。
 マユは猛烈な勢いで俺のネクタイを外しもどかし気にシャツのボタンを外します。俺は俺でマユのTシャツをまくり上げ、ブラジャーをたくし上げます。
 お互いに唇を貪りつつ、マユは俺の裸の胸を愛撫し、俺はマユの豊満な胸を揉みしだきます。
 俺のうなじに唇を這わせつつ俺のズボンのベルトを外し、マユの耳たぶを甘噛みしながら耳の穴の中に舌先を入れつつショートパンツの中に手を滑り込ませ、女の部分を指で確かめます。
「すっげ、ぐちょぐちょ・・・」
「たー君だって。・・・カチカチ」
 残った服を全て脱ぎ、もう一度お互いを見つめ合い、お互いの荒い吐息を嗅ぎ合い、熱いキスを交わし、裸の胸を押し付け合います。
 それ以上の前戯はもう必要ありません。
「あん、もうっ! 我慢できないよ」
「乗る?」
 性生活の復活でマユの好きな体位を一つ、発見しました。向かい合っての座位。対面座位というヤツです。
「あんっ・・・。ねえっ・・・」
 堪えきれないといった風情で早くも俺に跨ってきます。自分で手を添えて俺のを呑み込み、深く腰を落とします。俺のが柔らかな肉の裂け目にゆっくりと呑み込まれてゆくのがわかります。それはぐにゅぐにゅギューッと俺を締め付け、亀頭を刺激してきます。
「あ、はああんっ・・・!」
 少し上から俺を見下ろしつつ、俺に乳首をナメさせつつ、自由に腰を動かして俺のをいろんな部分に当てて愉しめるからいいのだそうです。ホント、スケベな嫁です。
「これ一番好きィ・・・。ああんっ」
 マユを抱くとき、チクショーという悔しい思いと、絶対に彼女が満足するまではイカないぞと念じてする以外にもうひとつ。スパイスというか、隠し味というか、マユとセックスするときの恒例行事が増えました。
「え、だってオヤジには後ろからがいいって言ってたじゃん」
「まだそんなこと覚えてるの? も、やだ。いい加減忘れてよ!」
「いやあ・・・。あれは忘れられんね」
「も、やあんっ・・・」
 そう言いつつも腰を使うのは止めないのです。
「とかいって、ホントは好きなくせに。なあ・・・。この前の続き訊きたい」
 マユとセックスするときの恒例行事。それは最中にオヤジとの馴れ初めやどんなプレイをしたかを訊き出すことです。
 あの憎っくきオヤジにマユが犯される様子を想像するとたまらず昂奮してしまうのを知ったからです。
「えーっ?! ヤダっ! 絶対言わない! だってたー君絶対怒るもん!」
 はじめは頑なに拒絶していたマユもいつしか陥落し、少しずつオヤジとの経緯を話してくれるようになりました。
「え、また? やめてよォ・・・」
 そう言いつつも胸の鼓動を高鳴らせ、鼻息を荒くして昂奮しているのはゴマかせません。
 そのままマユを押し倒し、片脚を抱えて背後に回り、すでに挿入れていたイチモツをワザとギリギリまで抜いてしまいます。
「教えてくれたらもう一回挿入れてあげる」
「ええん? ズルい~んっ!・・・。もうっ!」
 後ろを振り向き俺にキスを求め、手で俺のをもう一度中に納めようとしますが、させません。完全に抜いて亀頭の先で彼女のクリトリスをグリグリしてやります。
「ああん・・・。そこっ! ねえ、ねえっ・・・!」
 堪らずに昂奮し舌を入れてきます。乳首ももう、コリコリに固くなってツンと上を向きます。そこも軽く摘まんでキュッとひねってやると、
「んはああんっ!」
 ピクピクと感じているのが伝わってきます。
 俺はニヤりとほくそ笑み、悶えまくっているマユの耳元で囁きます。
「なあ、言う気になった?」

 そんな風にして、俺はマユとオヤジとの経緯を知りました。嫉妬の炎はさらに燃え上がりましたが、その分、というよりそれに数倍するほどの昂奮とマユへの想いが募ってゆくのを感じました。
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