二番目の夏 ー愛妻と子供たちとの日々— 続「寝取り寝取られ家内円満」

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17 マユミのカレシに忍び寄る影

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 話がだいぶ横道に逸れ過ぎました。

 そんなわけで、機会あるごとにマユミのスマートフォンに彼女に悪影響を及ぼすソフトや「みえるちゃん」のアプリがインストールされていないことをマユミの同意のもとに確認しているのです。
 マユミはちゃんと約束を守ってくれていました。これも親の務めなのです。
「ごめんな、マユミ。お前を守るためなんだ」
「わかってるよ、お父ちゃん」
 そして、やっと問題のLINEに戻りました。
 マユミが開いて寄こした画面には、こうありました。

 既読(やっぱ、今日もだった。なんか、やだな)

 なんだこれ?
 その前を見ようとスクロールし、声に出して読み上げました。
「なになに? 
 既読。『きのう、マユにしてもらったヤツ、サイコー。またしてくれな』
 ・・・何だ、コレ」
「ちょっと、どこ見てんの!」
 マユミは血相変えて俺の手から素早くスマートフォンを取り上げました。
 首から上が全部真っ赤でした。さっきの俺とマユのキスシーンを見たマコみたいに湯気が出てるような気すらしました。
「だって、最初のじゃなんだかわからないよ」
「だからって、勝手にいじらないでよ、もうっ!」
 真っ赤な顔で必死になっている娘に、またもや萌えそうでした。
「それに父親としては二番目に読んだやつのほうが気になるなあ。マユミがヒロ君に何をしてあげたのか・・・」
「それは、いいのっ!」
「まあまあ」
 マユがニヤニヤしながら割って入りました。
「いろいろあるんだよ。ね、ユミ?」

 それにしてもマユミの「ヒロ君」とやらは、俺が妻を呼ぶのと同じ呼び方で娘を呼んでいるみたいです。父親としてはヒジョーにビミョーに複雑な気持ちになりましたが、とりあえず、本筋に戻りました。
「こういうのはさ、その件の一番最初のやつから見せてくれなくちゃ。経緯がわからないよ」
「じゃあ、はいコレ。絶対動かさないでよ。お父ちゃんでも許さないから!」
 まだ顔の赤い娘に、なんて可愛いんだろうと萌えつつも、スマートフォンを読みました。

 既読(なんかさ、最近、誰かに後を尾行られてる気がするんだけど)

 既読(もしかしてさ、マユの弟じゃね? 顔、似てたし。見間違いだったら、ゴメンな)

 日付を見ると6月20日とあります。
「こういうのがね、今まで10回ぐらい来たの。アイツがそんなことするわけないと思ってたんだけど、自信なくなっちゃって・・・」
「1か月ぐらい前からってことか」
「そう」
 俺が返したスマートフォンを握りしめ、マユよりも長い脚を折りたたんで不安気に膝を抱え、顎を乗せています。
「それにね、ここんとこあたしの部屋、へんなの」
「へん? へんって、何?」
 と、マユが訊きました。
「ビミョーにモノがズレてたり、箪笥の中の入れ方が変わってたりするの」
「どういうこと」
「誰かがあたしの部屋の中に入ってイタズラしてるんじゃないか・・・って」
「ん?」
 思わず夫婦して顔を見合わせました。
「コウタに確かめたいんだけど。それと、ドアにカギ、付けちゃダメかなあ」
 マユミは思い詰めたような目をして、そう、訴えました。
 俺が答えに窮していると、マユが引き取ってくれました。
「ユミは、どうして、そう思うの」
 マユミは抱いた膝小僧をさらにギュッと抱きしめると、真っ直ぐな目で、こう言いました。
「ヒロ君の後を尾行てるのも、あたしの部屋を漁ってるのも、コウタじゃないか、って」
 どう答えていいか、わかりませんでした。
 すると、マユが立って安楽椅子のマユミの傍に寄り、床に膝をつきました。そして娘の足に触れ、撫でながらこう言いました。
「ユミ、ごめんね。ちょっと、整理させて」
「うん」
「ユミは、ヒロ君に起こった出来事と、ユミの部屋の異変。これを、同じことだと思ってる。そうだよね」
「うん」
「そうか」
 マユは少し考える、フリをしました。
「同じころに起きたこと、だもんね。そう思うのは、自然かもしれない」
「でしょ?」
 マユミは母に向き直りました。
「でもね、ユミ。まず、カギのことだけどね。お母ちゃんとお父ちゃん、カギは、イヤだなあ」
「どうして」
 俺はマユが言わんとするところが判ったので、黙っていました。
「あんたは来年、再来年か。高校受験する。そんで、その3年後は大学受験。もしかすると遠い大学を受けてそこに行っちゃうかもしれない。この家を出て、独りで暮らし始めるかもしれない」
 擦られているうちに母の温もりが恋しくなったようで、マユミは椅子から降りて、母にしなだれかかりました。日頃一番上のお姉さんとして弟妹たちに接しているせいか、その反動なのか、マユミはこういう時は思い切り甘えん坊になります。
「そうなったら、だけどね。そうなったら、カギは必要だよね。お父ちゃんもお母ちゃんもいない、知らない土地で、独りで暮らすなら、それは絶対必要だよね。お母ちゃんも独り暮らししたことあるんだ。よくわかるよ」
 マユは娘の手を取り、さらにこう、続けます。
「でも今、あんたはお父ちゃんとお母ちゃん、そして4人の弟妹と一緒に暮らしてる。家族と一緒に。でしょ?
 お父ちゃんとお母ちゃん、あんたが生まれる前、じいじの家で暮らしてた。
 でも、部屋に鍵付いてる? 
 ないよね。時々あんた、ヒロ君と使ってるから、知ってるよね」
 娘はそこでまたもや顔を赤らめました。そんな娘の内心を知ってか知らずか、母親は続けます。
「この寝室も、鍵かけてる? かけてないよね。あんたたちがいつでも入れるようにしてるんだよ。
 コウジやマイはまだ小さいから、夜中に怖くなったりしたときはいつでも来れるように。あんたも初めて部屋で独り寝させたころは毎晩ここに来てた。そして、この前みたいに父ちゃんとお母ちゃんの間に潜り込んできてたっけね。
 今でも、いいんだよ。いつだって、いいんだよ。ノックさえしてくれればね」
 マユミはまた、真っ赤でした。よく顔を赤くする娘です。
 彼女の頭の中には俺とマユが、そして自分とヒロ君が愛し合っている情景が浮かんでいるのかもしれません。ますます娘に萌えてしまい、困りました。
「察しと思い遣り、って言うでしょう。
 外国のことは知らないけど、ここは日本。あんたもお母ちゃんたちも日本人。そして、あたしたちは一つの家族。疑って締め出す前に、コウタを信じて、コウタに確かめるべきだと、お母ちゃんは思うよ」
 マユは言葉が娘の胸に染み入って行くのをじっと待っていました。
 マユミが顔を上げたのを潮に、マユは語り掛けました。
「それから、ヒロ君のことだけどね。あんたが自分で言うのもいいけど、そうするとまたケンカになっちゃうかもしれない。
 お母ちゃんたちが一度、コウタと話してみる。それからまた考えよう。それでいい? ユミ」
「・・・わかった」
 幾分顔の赤さを冷ました娘は納得したようです。

「じゃ、お休み」
 娘は立ち上がって自分の部屋に戻って行こうとしました。
「もう、寝るんだよ。お休み」
「お休み、マユミ」
「ご夫婦でお取込み中みたいだったけど、そっちもほどほどにね」
 散々顔を赤くさせられた仕返しのつもりなのでしょうか。娘はそう言い残し、ふふっと笑ってドアを閉じ、階段を上がっていきました。
 夫婦二人して顔を見合わせました。
「あの子ってば・・・。聞こえてたのかな」
 とマユは言いました。
「でもまあいいや。ユミなら」
「マユミも、だいぶ大人になったなあ」
 俺は応えました。
「しかし、次から次か。やれやれだな。子育ては大変だな」
 一息ついてベッドに戻ってきたマユに腕枕し、髪を撫でながら、改めて俺は謝りました。
「マユ。さっきの、ホントに、ごめんな」
「あのね、たー君」
「うん」
「聞いてくれる?」
「うん」
「さっきの話、まだ決めたわけじゃないからね。
 たー君も言ってたけど、あたしだって今まで一介の勤め人としてしか自覚なかったんだから。それなのにイキナリそんな役員だなんてさ・・・。
 急にそんなのに祭り上げられれば、いくら実績重視の会社だってワーワー言う人も少なくないだろうし。そういう人たちと毎日のように遣り合えばストレスも溜まるだろうし。
 それにたー君にも満足に会えなくなるんだよ。本当はビクビクドキドキ、心細ーくなってるんだからね」
「マユ」
 俺は思わずマユの身体を力いっぱい抱きしめ、キスしました。
「たー君」
 マユは俺を見上げて言いました。
「口直しして。もう一回、ちゃんと、して」

 切なさを禁じえませんでした。
 まるでバカ亭主のこさえた借金の形にスケベな金貸しに抱かれに行く健気な古女房のような・・・。そんな想像さえしてしまいました。
 心を込めて再びマユを愛でました。
 心を込めて再びマユを愛しました。
 悩みを抱える娘たちを責めるわけには行きませんが、何度もオアズケされて俺の分身は鋼のように固くなっていました。剛直をマユの女にあてがうとともに、マユの柔らかな身体を掻き抱き、魅惑的な唇から漏れる吐息を全て俺の身体の中に吸い込みました。
 マユの女は潤いきって俺を待っていてくれ、俺は優しく迎え入れられ、包まれました。
 俺はマユしか女を知りません。年齢とともに豊かさと味わい深さを増して行くマユのその中を気持ちいいと思う一方、女にとって男を迎え入れるというのがどんな気持ちなのか気になって訊いてみたことがあります。だって、女は男よりもより多く大きく声を上げ、何度も頂に昇れるのです。同じ接合でも絶対に男より女の方が気持ちいいんじゃないか?
「・・・ん、んごいのォ・・・」
 潤み切って、トロトロにふやけた目をしてマユは答えます。
「熱くって、カタくって、可愛いの。もっともっと中に入ってきてほしくなるの」
 そんな答えを聞くたびに、ズルいなあ、という思いと、可愛いな、もっと気持ち良くしてやろう、という思いとが交錯してゆきます。
「たー君のが身体の中でハジけると、サイコーに幸せなの」
 そう言いながら、マユの女は俺の分身をギューッと締め付けて来て、俺は自然に解き放つのです。
 頭のてっぺんから爪先まで全身全霊でマユを愛し、満足を捧げました。

 怒涛のような行為が終わると、裸のマユは乱れた息を整えながら途切れ途切れにこう言いました。
「たー君。明日、ミヤモトさんに、頼んで。今の全社の状況と、役員会の動向が、知りたいの」
「・・・やってくれるのか!」
 俺の腕の中で、俺をはかなげに見上げてくる、恋女房。
「それを決めるために、知っておきたいの。全て。
 だから、返事するのは、それからね」
 すぐさま枕もとのスマートフォンを取り上げ、マユに渡しました。
「ミヤモトさんにLINEしてくれる? 俺、お前とならいいけど、スマホいじるのメンドイからヤなんだ」
「なんて送るの?」
 マユはサーフェイスを指で撫でながら尋ねました。
「こう書いて。
『この間はありがとうございました。ミヤモトさんに教えてもらったお店の話を妻にしたところキョーミしんしんでした。そのお店、儲かってるんでしょうね。店員さんたちは優しいですか。どんな人たちなんでしょうね。また今度イロイロ教えてください』」
「なにそれ。へんなの」
「ミヤモトさん、結構苦労してるみたいだよ」
 マユが素早く文字を作っている横で、俺は秘書室の雰囲気やミヤモトさんが盗聴を警戒していることを話してやりました。まさかとは思いますが、個人の連絡まで監視されていることも視野に入れておいた方がよさそうだと思ったのです。
「ああそれ、フジシマ君達からも聞いてる。ヤな雰囲気だって。
 ハイ。これでいい?」
「うん。じゃ、送信して。たぶん、すぐ反応があるよ」
 マユの素肌を労わりながら、二人で暗い画面を見つめました。
 一分ほどでLINEではなく、着信がありました。公衆電話からでした。
「ハセガワか」
 夜中にもかかわらず、ミヤモトさんの声は幾分弾んで聞こえました。
「夜分すみません」
「それはいい。あのな、明日朝十時に事務所のPCの前で待ってろ。公表前の財務諸表と役員会の過去の議事録を送る。わかってると思うが、絶対に、外に漏れんようにな」
 と、彼は言いました。
「アイツ、やっとその気になってくれたのか」
「まだ、わかりません。全てを知ったうえで、決断したいそうです。ワガママ言ってすいません」
 俺は通話しながら不安げなマユを見つめました。
「そこにマユ、いるのか」
「・・・はい」
「みんな、お前を待ってる。そう伝えてくれ」
「わかりました」
 俺はスマートフォンを枕元に置きました。
「みんなお前を待ってる、ってさ」
 不安気に俺を見つめたまま、マユは黙っていました。そしていつものように俺の腕の中で丸くなり、二の腕をちゅぱちゅぱ吸い始めました。
 新婚時代から、俺とマユは寝るときは素っ裸です。健康にいいらしいと言いますが、そのほうが眠りが深いのです。夜中に子供達が来た時は大急ぎでパジャマを着ます。それがちと、メンドウですが。
 そしてマユはいつもこんな風に赤ん坊のように丸まって俺の二の腕や胸をちゅぱちゅぱ吸いながら寝に着くのです。安心するらしいのです。
 そのお陰で、俺の体はキスマークだらけになってしまい、会社の同僚と温泉に入りにくくなってしまいましたし、海水浴場ではラッシュガードが欠かせなくなってしまいました。
 でもまあ、それで恋女房が安眠してくれるなら、お安い御用ではあります。
「たー君、あのさ、近いうちに一度、コウタと話をしてくれないかな」
 ちゅぱちゅぱしながらマユは言いました。
「よくわかんないから、たー君に心配させちゃうと思って言わなかったけど。あの子最近、あたしの顔見ないの。避けてるっていうか、そんな感じなの」
「あー。俺に対してもだよ」
「やっぱ、そうなんだ」
「無視はないけど、睨まれる。・・・なんでかな」
「思春期特有の、ってやつかな」
「でもマユミの時は、なかったよなあ」
「コウタ、小さいころから感じやすい子だったから・・・。何かあるんだよ。いっかい、コウタと話してみて。さっきのマユミの話もあることだし、余計に気になってきちゃったの」
「そうだな。久しぶりに釣りにでも誘ってみるか。悪かったな。子供達のこと、任せっきりでさ。いつもありがとうな、マユ」
 愛する妻はもう、深い眠りに入っていました。
 もしかすると、これから激動の中に放り込まれるかもしれないのです。
 眠れるときに出来るだけ寝かせてやろう。 そう思いました。
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