二番目の夏 ー愛妻と子供たちとの日々— 続「寝取り寝取られ家内円満」

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03 子供たちのこと

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 子供の話をします。

 三姫二太郎というか、マユが正確に一年おきに、何でこうもきれいにと思うぐらいに、長女、長男、次女、次男、三女と交互に生み分けたのには笑いました。
 当初の「家族計画」では6人設けるはずでした。マユがそう希望していたからです。バレーチームを作りたいから、というのが彼女の口癖でした。6人も育てるなんて絶対無理だ。どうせ途中で音を上げるに決まってる。そう思いましたが、あまりにもそう言い張るので半信半疑ながら彼女に従うことにしました。
 一人目のマユミに離乳食を食べさせているマユに、
「次、どうする?」と訊きました。
「作るよ、もちろん!」
 当然のようにマユは言いました。
 それから長男のコウタロウ、次女のマコ、次男のコウジ、と同じように訊き、マユも同じように答えていました。
 最後に、「どうする?」と訊いたとき、三女のマイを抱いておっぱいを含ませているマユの周りはまるで戦場のようでした。
 コウタロウとコウジが、
「兄ちゃんずるい~ ボクにも貸して~」
「うるせー。お前チビなんだからまだ早いって~」
 と、おもちゃを取り合って騒ぎ、
「あたしのパンツどこ~?」
 マコが絶叫しながら駆け回り、
「静かにしろよ! うるさくて全然聞こえないっつーの!」
 マユミがソファーに寝転がりながら、大音量で歌番組を見ていました。
 その喧騒に包まれながら、マユは疲れた笑顔でこう答えました。
「ゴメン。もう、無理・・・」
 こうして「子どもたちでバレーチームを作る!」当初のマユの計画は露と消えました。
 この時ほどホッとしたことはありません。



 子供たちのそれぞれのキャラクターを説明するのに一番わかりやすいのは、彼らとアイダとのカラミです。女には全くの無縁なのに、何故か彼は子供にはモテるのです。ですのでこういう話をするときはどうしても登場してしまうのです。

 俺が事務所のデスクで書類をスクロールしていると、自宅に通じるドアが開いて、トコトコと小さな女の子がやってきます。アイダのブースにやってくると、空いている椅子を引っ張ってきてちょこんと横に座ります。
 これが、末っ子の三女マイです。来年小学校に上がります。
 ポケットから小さなリスの人形を出して、キーボードを打つアイダの机にチョンと置きました。
「アイダちゃん。寂しそうだから、お友達連れて来たよ。嬉しい?」
 アイダはそれには目もくれず、一心不乱に仕事に打ち込む、フリを続けます。
 仕事中に不用意にマイに関わるとマユに叱られるからです。
 それを知ってか知らずか、マイは次々と家とアイダの机を往復しながらいろんなアイテムをデスクの端に置いてゆきます。
 小さなおもちゃのテーブル、食器、冷蔵庫、家、小さな車、ブランコ、すべり台・・・。
「アイダちゃん。あそぼ」
 しょうがないなとマイに向かい合おうとしたその時、マイの背後にスリッパを持ったマユが仁王立ちになっています。
 マユは黙ってアイダを睨み付け、こう言いました。
「・・・働け。いいな?」
 マユは段ボール箱におもちゃ一式を突っ込むとマイを引っ張って自宅に押し戻します。
「マイ、アイダさんのお仕事の邪魔しちゃダメ。いつも言ってるでしょ」
 まあ、この程度ならよしとするか。
 俺は仕事を続けます。

 次に邪魔しにくるのが多いのが、次男のコウジです。小学二年生です。
 サッカーバカと言うんでしょうか、一日中サッカーのことばかり考えているような男の子です。もう夢中なのです。本人の希望で地元のジュニアチームに入れたところ、水を得た魚のように弾けています。運動神経も良く、オヤジは「俺の隔世遺伝だ!」と勝手に喜んでいます。邪魔しに来る時もたいていボールをリフティングしながらやってきます。
「ねえ、アイダちゃん。サッカーしよ」
「ダメだよォ、仕事中にそんなことしたら姐さんに殺されるよ」
「えーっ? ケチ」
「ダメなものはダメ」
「じゃあ、勉強教えてよ」
「ああ、それならいいかな。ちょっとだけな」
「じゃあ、この問題」
 学校の宿題をアイダの机に置き、アイダが、どれどれと取り組み始めるや、アイダのPCをカチャカチャいわせて遊び始めます。
 コウジは集中力が高くて、アイダにくっついて遊んでいるうちにいつの間にかパソコンの操作を覚えてしまいました。
「あーっ! アイダちゃん、なにこれーっ!」
「あッ、それは・・・」
「お母ちゃんに言ってやろ。お母ちゃーん」
「なんだよ」
 何故か、いつのまにか、どこから現れたのか、スリッパを持ったマユが背後に立っているのです。
「アイダちゃんね、ぱそこんにね、マンガの女の子のね、エッチな・・・」
 マユは無言でアイダを立たせ卍固めをかけます。ちなみに、アイダはマユにプロレス技を掛けられている時、いつも恍惚とした表情を浮かべます。生来苛められるのが好きなんだろうと思います。

 さて、コウジです。
 2才の時におやつも食べずに三時間かけて天井まで届くほどのブロックの城を作りました。そのときマユは迷わずコウジを能力開発だかの教室に入れました。俺はそういうのがあまり好きではなかったのでどうなることかと危ぶんでいましたが、結果はサッカーバカでした。
 それでもマユはあきらめず、コウジが小学校に上がると数学専門の塾に通わせました。最初はまだ小さいからと断られたそうですが、母親の執念で粘り、無理やり入れてもらったそうです。最初は嫌がっていたコウジも徐々に興味を示して、四則演算はもとより、今では一次関数や連立方程式を解くほどになり、周りを驚かせています(実際は小ニくらいでこのレベルはさして珍しくないそうです)。理数的な頭はたぶん兄妹で一番いいんじゃないかと思います。
「ね? あたしの目に狂いはないんだから!」
 マユは誇らしげに胸を張ったものです。
 ただ、俺としては「パソコンの操作ができる」子よりも、「パソコンを使う人を使いこなす」子になってほしいなと思っているのですが・・・。


 次女、小四のマコは兄妹の中で一番狡からく、はしっこいコです。
 俺やマユが事務所にいるときは絶対に入ってきません。以下はマユがアイダにヘッドロックをかけて白状させた、マコの行状です。
 マコは事務所のドアからそーっと中を覗き、俺やマユがいないことを確かめてから、おもむろに入ってきます。つかつかとアイダのデスクにやってきてどさっと腰を下ろし、一言、
「揉んで」
 そう言って大の大人に肩を揉ませるのです。
 まるで小さなマユ。小マユです。
 小さいうちから三十代後半の大人にこんなことをさせているようでは将来ロクな人間になりません。これを聴いてさすがに俺も怒り、マコを叱るのですがさっぱり効果がないのです。
「アイダ、オマエな、嬉しいのか、あんなガキに使われて」
 マユがアイダを詰ります。
「いや、でも、マコちゃんの目に逆らえなくて・・・なんか姐さんの目に似てるんスよね」
「オマエに迫力が無いから舐められんだよ。目で殺すんだよ、目で!」
「目、ですかあ・・・」
 アイダは苦労して怖そうな表情を作ろうとするのですが、生来優しい男なのでしょう。どうしても上手く行かないのです。
「なんだそのヤラシイ目は!」
 結局マユにシバかれてました。
 子供の純真はそういう彼の本質を見抜くのでしょう。だから子供にモテるのかもしれません。

 さてマコですが。
 遺伝なのか、周りの子よりも背が高くて発育が良く、つい先日初潮がありました。それなのに、いつも男の子とばかり遊んでいて、どうも彼らの大将みたいになっているようです。よくケンカをしてくるのですが負けたことが無いと威張っています。
 ですが昔と違い、今は「ケンカ両成敗」とか、「多少のケンカは社会性を養う」などのリクツは絶対に通りません。何度相手のお子さんの家に菓子折りを持って謝りに行ったかしれません。もちろんその度に叱るのですが、やっぱりまったく効き目がないようです。
「暴力はたとえどんな小さなものでも絶対悪」
「言葉の暴力でも絶対悪」
「ゆえに『言葉狩り』は絶対善」
 学校は今、こんな風です。少しでもマイナス要素が見えるとそれを摘み取り、隠す方向にのみ汲々としています。正直、それでいいのかと思うところもあります。
 悪いのは「ナイフ」ではなく、その使い方を間違えている「人間」です。「ナイフ」は「人間」次第で人を傷つけることもあれば鉛筆を削る有用な道具にもなるのですから。

 おじいちゃん子でオヤジに一番懐いているのはマコです。じいじの子犬「しんのすけ」の散歩やえさ遣りなどの面倒をみているのは彼女なのです。彼女にはそんな優しい一面もあります。今「しんのすけ」はオヤジの北陸の旅にお供しています。



 で、長女のマユミ、中二です。
 成長するにつれ、今は亡き美しかったオフクロによく似たおテンバな美少女になりました。
 親の僻目かも知れませんが、やっぱり発育がよくて背が高く歳の割には大人びていて、四年生の時にすでに彼氏を作って家に連れてきたりしていました。そういうところは箱入り娘だったマユとは違います。おじいちゃんの影響か、小学校の頃からバレーボールをはじめ中学に上がると一年生ですぐにレギュラーに選ばれました。
 バレンタインデー。
 マユミは手作りのチョコを社員たちに配りました。
「アイダさん、ギリだけど、ハイ」
「うれしいよ、マユミちゃん」
「アイダさんも早く彼女作ってね。会社の大切な社員さんなんだから、いつまでも右手が恋人じゃ、心配になっちゃうよ」
 最近の中学生の女の子はこの程度のことはわりと平気で言います。
「喜んでいいのか、落ち込むべきか・・・」
 アイダが悩んでいると、
「オイ、邪魔だ。そのデカいケツどけろよ」
 長男のコウタロウが帰宅しました。六年生です。彼はいつもマユミと衝突します。
「なんだとテメーッ! お姉ちゃんに向かってナメた口利きやがって!」
 ついさっきまで可憐な乙女のようにチョコを配っていた美少女が信じられないような汚い暴言を吐いてコウタロウに襲い掛かります。
 いつもは優しく弟妹達の面倒見のよいお姉さんのマユミですが、顔は可愛くてもことコウタロウに対してだけは凶暴な姉になります。いったん怒り出すと手が付けられなくなります。そういう姉に挑みかかるとはコウタロウもいい度胸してると思います。身長でも体重でも、マユミの方が上なのに。
 狭い事務所は大騒ぎです。
 コウタロウも体格は良い方なんですが、あまりスポーツに興味が無いようで、もっぱら部屋でPCをいじくったり、事務所に入り浸って若い連中の仕事の邪魔ばかりしています。幾分内向的なところはたぶん俺に似たのでしょう、友達と遊ぶよりも、社員たちと一緒にいるほうが楽しいようです。
 いつだったか、コウタロウに何かスポーツをやらせようかとオヤジに相談したところ、
「そういうことは無理にさせないほうがいい。子供にだって志向があるんだから、尊重してやれ」と言われました。
 俺はオヤジに無理矢理バレーをやらされたり、亡くなったじいちゃんに強制的に剣道を仕込まれたりしましたが、オヤジも俺の子育てで学んだんでしょうか。できれば俺が子供の時にそういう心境になって欲しかったです。
 
 事務所で暴れられると俺もさすがに頭に来ます。
「いい加減にしろ!」
 暴れる二人を引き離して襟首を掴まえて二階に連れてゆき、ケツにそれぞれ一発ずつお見舞いし、
「部屋に行って、反省するまで降りてくるんじゃない!」と放り出してきます。
 そうして事務所に戻るのですが、肝心な時にマユは涎を垂らしてデスクに突っ伏して寝てます。

 やれやれ。

 5人で打ち止めにしてくれて本当によかった。それがホンネです。
 子供を育てるというのは、本当にタイヘンなもんですねえ。決してキレイごとではありません。
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