ステンカ・ラージン 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 5】 ―コサックを殲滅せよ!―

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捜索

17 生存者、発見!

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「いたぞォ・・・。一人だ」
 アランが目を開け、森の奥に凝らした。
「北のヤツらか? 」
「違います。毛皮のブーツじゃない。軍人でもない。いや、軍の革のブーツなんだけど、歩き方が・・・。なんか、ヘン」
「きっと、第一次探索隊に随行した民間人かもしれません、大尉! 」
「いやしかしスゴイな、アラン! そんなことまでわかるのか! 」
「大尉、カンシンするのはあとで。今は、影を追いましょう! 」
「お、おう、そうだった。行くぞ!」
 大尉を先頭に、アランが、右、左、と方向を示すたびに木の幹の間をゆっくりと進んだ。シェンカーは銃口で下草を掻き分け、時には怪しそうな地面を突いたりした。
 と・・・。
「うげっ! 」
 低い悲鳴を上げたのはアランだった。地面から、野蛮人が、生えていた。
 不幸な北の民族は胸から上の青い肌をさらに青くして虚空を見つめていた。
「見るからに造りが雑だが、おれたちが追っている影は相当用心深いらしいな」
 野蛮人がハマっていた落とし穴の底には尖らせた枝が何本も植えてあり、この穴に落ちた不幸な碧い肌の男の腹から上を突き刺していた。
「これも、ブービートラップ・・・」
「パンジステーク。それも恐ろしく深いヤツだな。こりゃー、落ちたら助からんわ。掘ったヤツ、そーとー執念深いぞ、こりゃ」
 ヤヨイも慎重に穴を迂回してゆく大尉とアランの後に続いた。アサシンのくせに、ヤヨイは血を見るのが苦手だった。が、ビアンカはまるでヘーキみたいだった。
「大丈夫ですか、少尉」
 なんと、ヤヨイを気遣う余裕さえ見せた。
 去年のチナ戦役で新兵にも拘わらず大きな戦果を挙げたビアンカは北の偵察部隊に来てさらに大きく成長していた。それが少し誇らしかった。
「大丈夫よ。ありがとう、ビアンカ」
 ほどなくして一行は、高さ15mほどもあろうかという、斜面に下草の繁る開けた崖の下に出た。
 よく見ると崖の下の草むらの奥に僅かに黒い穴が開いているのが辛うじて見えた。
「全員、身を低くして周囲を警戒しろ! 万が一だ!」
 大尉を背中にしてしゃがんだ3人は四方に銃を向けた。
「俺たちは味方だ! 」
 シェンカーも洞穴らしき方に銃を向け、怒鳴った。
「キミたちを救助に来た! 安心して出てきてくれ! 」
 し~ん・・・。
「反応がない」
「もしかして、怖がっているのでは? これだけのワナを仕掛けるほどですから」
とヤヨイは言った。
「かもしれんな」
 もう一度声掛けし、やはり反応がないのを知るとシェンカーは歩き出した。
「オレの歩いた通りに歩け」
 そこはやはり洞穴だった。
 先に穴に這入って行った大尉はすぐに引き返してきた。
「わるいが、荷駄隊のところまで戻ってニッパーを持ってきてくれんか。それと、カンテラを」
「どうしたんですか? 」
「やつら、穴の入り口にも仕掛けしてやがる」
「は? 」
 ビアンカがグラナトヴェルファーの修理用工具を持ってきた。
「ここで待ってろ」
 もう一度穴に入るシェンカー。ヤヨイたちはジリジリと待った。やがて・・・。
「いいぞ」
 穴から出てきたシェンカーに従って、入った。
 そこは直径1.5~2mほどの空洞だった。穴の入り口が見えにくかったのは、だいぶ奥まで下草が生えていたからだ。
「見ろ」
 入ってすぐ。大尉が示す穴の壁際にヤヨイたちが荷駄隊の馬に背負わせているバッグそのものがあって、そのポケットにグラナトヴェルファーの弾体が詰まっていた。
「配線を切ったからもう安全だが、北の奴らが這入りこんで来たらズドンとやるつもりだったのだろうが、こんな穴の奥じゃ爆風も穴の奥に吹き込む。これを設置したやつは形だけマネた、シロートだな」
 ヤヨイもまた、穴の奥に向かって叫んだ。
「我々は救出隊です! あなた方を助けに来たんです! 出てきてください! 」
 ヤヨイの叫びは穴の壁に反響しながら暗闇の奥に吸い込まれていった。
 と。
「ヤヨイ、大尉! 」
 後ろでアランの声がして振り向いた。
 穴の外でアランが彼方を指さしていた。
「いたよ」
 出てみると、銃を持った軍服姿が、立っていた。
 ビアンカが声をかけた。
「第一次探索隊の方ですか? 」
 銃は持っていただけで向けては来なかった。彼はヤヨイたちを見て疑い深そうな表情を見せていたが、やがて大きく顔を歪め、泣き出し、その場に頽れた。
「うわあ、ああ、ああああああああああああ~んっ! 」
 思わずシェンカーと顔を見合わせた。
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