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序章
02 皇宮警備隊、全滅!
しおりを挟むその朝、皇宮政庁舎警備の当番部隊を率いる憲兵隊の少尉は、毎度最も眠気が昂まる夜明け前、内閣府一階の警備隊詰め所で、石炭ストーブの上で熾っているポットを傾け、眠気覚ましのコーヒーを淹れていた。
あと少しで第四夜警時が終わる。交代の時刻だ。エンタシスの立ち並ぶ元老院前広場で毎朝行われる警備兵交代の儀式が見られる。
もうすぐ、帝都南の憲兵隊大隊駐屯地から今日の警備任務を担う交代の一個小隊30名がやって来て彼の小隊と交代式を行う。彼は自分の小隊を率いて駐屯地に戻り24時間勤務が終わる。その後の丸二日間の休日はサイコー! 休日の後、駐屯地勤務を6日。その後、また24時間・・・。
さあ、宿舎に帰ってひと眠り。明日は南の湖に釣りにでも行くか・・・。
帝国陸軍の冬季完全軍装で、一口暖かいコーヒーを啜ったときだった。
ゴゴゴゴゴ・・・
「なんだ? 」
得体の知れない振動が、地響きが詰所を襲った。
―― 小隊長殿! 敵襲です! ――
元老院会議場の北隣は皇宮である。その皇宮前にある警備兵詰所からの伝声管が吼えた。脱兎のように、伝声管に取りついた。
「エーリッヒ! 何事だ! 敵とはなんだ! 」
ここは帝国のど真ん中、しかもその帝都のど真ん中の政治軍事の中枢なのである。外敵など、攻めてくるはずもない。
「武装した・・・、うわっ! 」
銃声! 伝声管と詰所の外からの銃声が二重に交錯した。
「エーリッヒ! どうした! 何があったのだ! 」
その時、詰所のドアが勢いよく開いた!
「近衛です! 近衛の部隊が、攻めて来ました! 」
ズダーンッ!
部下の兵と共に鳴り響いた銃声は「敵」が南のこの元老院広場にも侵入してきたことを示していた。
小隊長である憲兵少尉も銃とヘルメットを取り、広場に出た。
が、すぐに詰所に引き返し身を隠さねばならなかった。
「なんだこれは! 何事が起ったのだ! 」
攻め手の兵たちが着けていた肩章は北の皇宮と同じ、第一近衛軍団を示す赤に鷲の紋章にローマ数字の「Ⅰ」をレイアウトしたものだったのである。その数、優に一個中隊、100名ほど! しかも、戦車までが広場に乗り上げてきた。
キュルキュルとキャタピラーを軋ませて入って来たマークⅠ型の旋回砲塔が回り、仰角が取られ、広場西側の内閣府庁舎に向いた。
ドンッ!
50ミリ砲が火を噴いた。庁舎の3階と2階の間の壁に命中した砲弾が爆発し、壁に穴が開き、瓦礫が崩れ落ちた。
憲兵少尉は広場の歩哨に立っていたはずの部下たちの名を呼んだ。
「ユルゲン! フランツ! グン・・・ 」
それは連続する機銃の薙射(ていしゃ)に遮られ、詰所のドア付近の壁にも何発かが着弾した。
ドアの縁から顔を出そうにもすぐに銃弾が飛んで来た。
そうしているうちに内閣府の庁舎に擲弾筒弾が撃ち込まれ、爆発に続いて濛々たる煙が上がり間髪入れずに一個分隊ほど十数名の歩兵が突入していったのが見えた。
憲兵少尉の顔は蒼白になった。
皇宮警備の任務はごく装飾的なもので、議会が開催されたり外国の賓客が招かれたりする折の儀仗兵も兼ねていた。装備する兵器も小銃だけである。ときおり出る酔っ払いや不心得者たちや少人数の暴徒を追い払ったり、逮捕するぐらいが、ここ2、3百年ほどの彼らの任務だったのである。
それが。
裏の皇宮へ襲って来た部隊も含めれば一個大隊規模、しかも戦車まで繰り出しての大部隊の襲撃、ましてや反乱などはまったく想定外の出来事だった。
まだ若い憲兵将校の眼前で、あり得ないことが起こっていた。
少尉はドアの反対側から自分を見つめる部下の、絶望した瞳を見た。
「どうにもならん・・・」
すると、詰所の中に何か飛んで来た。
それがバズーカ仕様の擲弾筒弾であるのを少尉が知るのと激しく炸裂するのが一緒だった。
皇宮警備の憲兵一個小隊は、全滅した。
その朝、元老院前広場で交代式が行われることはなかった。それは、帝国が開闢して以来初めての出来事であった。
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