25 / 31
次世代の領主
第二話 七人目
しおりを挟む行き先は領主の城だった。
その入り口の一つに人影が見える。カインは迷わずそこを目指し、シアと共にホウキで静かに降り立った。
「やあシアさん、こんにちは。カインも元気そうだね」
その人影ーー領主の一人でカインの義兄でもあるヴェルドが軽く手を上げる。
「こんにちは、ヴェルドさん。ありがとうカイン、送ってくれて」
「まぁ俺も、呼ばれてたんで?」
「あ、そうなんだ」
シアはたまに、外から入門した一世代目の魔女として、魔女の研究をしているヴェルドにいろいろ情報提供をしている。
「魔法の訓練も順調そうだね」
「俺の教え方がいいからな!」
子供の頃の性からヴェルドには反発してみたくなるカインが、ぶっきらぼうに答えた。
「変なこととかしてないだろうな? シアに」
「変なことって? 具体的に? どーんなー?」
ヴェルドはヴェルドで、カインが来ると本当に楽しそうにからかう。子供の頃の二人の関係も透けて見えるようだ。
「何もしてないよ。ね、シアさん。というか、僕が何かしたら魔力値でバレッバレでしょ」
「うん、紳士ですよ、ヴェルドさんは。それに最愛のルカ様裏切るようなことしませんよ」
カインがジト目で睨む中、ヴェルドとシアは「ねぇ!」と息を合わせた。
ヴェルドは続けてシアに封筒を渡す。
「今日はね、この間の測定結果渡そうと思って。はいこれ。順調そうだね」
「ありがとうございます。後でチェックさせてもらいますね」
「あとカインに話なんだけど……シアさんどうする? お天気もいいし、ガーデンでお茶でも飲んで行く?」
シアはうーんと考えると、城の裏に広がる芝生を眺めた。
「このグラウンドって使ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ。使って使って」
今の飛行の感覚を忘れないうちに復習しておきたいと思ったシアは、よく手入れのされた美しい芝生の広がる城のグラウンドを、ありがたく使わせてもらうことにした。
ヴェルドが後ほどアフタヌーンティーの用意をするよう、傍のメイドに指示をする。
カインはシアがホウキの練習を始めるのを見届けると、ヴェルドに連れられ、城内の彼の部屋へと向かった。
領主の城は大まかに八エリアに分かれている。つまり最大八人の領主を見越している建て物だった。
エリアはほぼ独立しており、入り口も八つ。繋がっているのは、グランドフロアつまり一階と、最上階のパーティフロアくらいだろうか。
(俺もルカ達の配慮がなければ、この一角に暮らすことになってたのか)
カインは魔法の勉強こそ幼い頃から好きでしていたものの、領主に関しては詳しくない。
ただ村から出られないこと、魔女達に魔力を分け与える役割を持っていることくらいだろうか。
幸いカインの存在は他の魔女達に知られておらず、今のところその役割を見逃してもらっている。それに関してはルカ達に大いに感謝している。
(いつまで隠れていられるかもわからないけどな……)
ヴェルドは開村してそんなルールを全部撤廃したいと言っているが、一筋縄ではいかないことくらいわかる。なにせ古から伝わる、大事な掟なのだから。
「で、カイン、今日の用事なんだけどね」
前を歩くヴェルドが笑顔を消し、真面目な表情で口を開いた。
「他の皆とも話したんだけどーー君が適任ってことでひとつ、教育係を引き受けて欲しい」
「教育係?」
ヴェルドが振り返り、声を落として続ける。
「この間……まだ公には秘密なんだけど、イギルって子が第七の領主候補として城に上がったんだ」
「七人目……?」
「歳は六、魔力値は二二〇……母親の魔力値が八十そこそこで、高度な魔法とか教えられなくてね」
カインが驚く中、ヴェルドは執務室の扉を閉めると、手前のソファへ向かい腰を下ろす。
対してカインは立ち尽くしたまま、その僅かな情報であらゆる事実を導き始めた。
「……てか、俺のこと知ってんのか、他の領主……まぁ、話すか」
「そのこともなんだけどね、カイン」
二人の他に誰もいない室内、更に聞こえるか聞こえないかといった低い声で、ヴェルドは淡々とカインの知らない事実を伝えた。
「領主は一世代に一人……大体十二から十三年に一度うまれる。でも君がいなかったから、もしかして今年三十一の僕が最後の領主かと思っていたんだ」
しかし突如その子が現れた。ヴェルドより二十五離れた少年が。
「そうなると、僕の一世代下の領主はいないというより、五つになる前に死んだか……村の外に出た可能性が高いという結論になる」
シアが来る少し前、イギルのことが判明したとき、領主の間では特別に捜索員を作るか議論が持ち上がった。しばらく様子見することになったが。
しかし近いうちに十八歳十九歳ほどをターゲットに、村出身の男達が全員洗い直されていただろうという。
そこまで絞れば確認など五十、六十くらいだ。ほぼ近隣の都市や町にいるし、確認方法も魔力値測定器で簡単にできる。
「つまり君は自分からここに来なくても、遅かれ早かれ捜索がかかってたんだよ」
カインは静かに目を閉じ、その情報をかみしめた。ヴェルドとしては、カインのことを話さないわけにはいかなかったのだろう。おそらく世話になった恩師ゲーラも悩ませたに違いない。
むしろ、よく領主内だけの話として留めてくれたと思う。
「……わかった、折を見て他の領主にも挨拶しとく。あと、教育係ーーな」
結局、どう足掻いたところで領主としての人生を歩まねばならないのかもしれない。
(シアを泣かせることにならなければいいけど)
カインは一つ息をつくと、気を取り直してヴェルドに問いかけた。
「……で、どこにいるんだ、そのイギルって」
「うん、城で保護されてるよ。六つで魔女の餌食になるのは流石に可哀想だろう? 部屋は、そこの通路を挟んで向こう側」
そして領主は中学生ーーセカンダリースクールにあたる十一歳で村に周知され、少しずつ魔女がお目通りできるようになっていく。
「……まあ、シアちゃんにいろいろ教えてるついでって感じでいいからさ」
城は村の居住区域から離れているので、隠れているカインにとっても都合がいいだろうという。
そして少年はまだ六つの子供なのだ。歳の近い男児は村を離れてしまい、母一人子一人で寂しいだろう。メイドも歳のいった老女が一人、あとはゲーラが顔を出すだけだからと。
「シアちゃんが今いるグラウンドもその傍の林も、城のプライベートスペースだから基本魔女たちは来ないし、魔法練習でも乗馬でも狩りでも好きに使いなよ。その女の子の姿も、本当は彼女の前では解きたいでしょ」
確かに、きちんと元の姿でシアの飛行練習のサポートをしたかったので、都合はいいかもしれない。
カインはヴェルドの部屋を出ると、グラウンドのシアの元へまっすぐ向かった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる