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魔女への入門
第十九話 領主ヴェルド
しおりを挟む領主の城、その一角のヴェルドの居室に、シアと女体化したカインは案内される。
試験管や実験器具、さまざまな魔法文献。ヴェルドは魔女や魔法の研究をする学者だった。
「やあカイン、十三年ぶり。立派なお嬢さんになったなぁ」
変わらない気さくさでヴェルドはカインに笑いかけた。
「うるさいよ。シアを研究対象にしようとしやがって」
「危ない危ない。一生恨まれるところだったか。カインは意外と嫉妬深いしなあ」
「ヴェルド!」
カインが顔を真っ赤にして跳びかかる。まるで兄弟喧嘩のように。
「な、仲良いんですね、カインとヴェルドさん」
「子供みたいでしょ。昔からあんな感じよ」
本当男共ったら、とルカは呆れ果てている。シアはさりげなく突っ込みを入れてみた。
「ルカ様も……カインには甘いですよね」
「え、そう?」
なんだかんだで領主であることを皆に伏せ、数々の罪や罰を見逃し、二人の想いを尊重してくれている。
「いや、それは……また暴走されても困るし」
明らかにそれがきっかけとなって起きた暴走だ。公にしないことで防げるならそれに越したことはない。せめて制御を身につけるまで。
それでも罰すらないなんてと思ったが、シアはそれ以上の突っ込みはやめた。
一部始終を聞いたヴェルドは、頷きながら肯定の意を示す。
「いいんじゃない? しばらく黙ってるよ。カインには領主の心得とかルールとか覚えてもらうけど」
「そんなんあるのか」
「そりゃね。一応領主だし? 互いの不可侵条約的なものとか、諸々所有権、魔女への対応、侵入者の対応、裁判権とかまぁゴテゴテと」
どんっと古く分厚い本を取り出す。
「城から持ち出し禁止。ここで読んで行ってね」
にこりとヴェルドが微笑み、カインは大きなため息を吐いた。
「読んで理解したら、もう僕にお伺いとかいらない。以降カインの責任と裁量で決めていいから」
「あーそういうこと。なるほどな」
仕方ないかとパラパラめくりだす。
「で、門を壊したシアさんだけど」
ドキッとシアの心臓が鳴る。やはり罪には問われるか。弁償か、懲役か。
「とりあえずしばらく、城に通ってもらおうかな。魔法制御の経過を見たいし、あと外の話! 聞きたいんだよね!」
なにせ十年ぶりの入門者だからさーと。
やはり普通は一ヶ月以内に魔女になれず、最初の魔力を得るところで挫折してしまうのだという。頑張って突破しても生来の魔女には敵わず、朽ちていくことも多い。
「研究対象としても、協力してくれると嬉しいってね」
「あ、そういえば私、協力するって……」
するとすかさずカインが間に入り、ヴェルドを睨みつけた。
「おおこわいこわい。ほら、彼女の許可はもらってるって。それに僕が手を出したら、ぜーんぶシアさんの魔力でバレバレでしょ?」
「俺がいても問題ねーよな? やましいことしなけりゃ。丁度この本読破しなきゃなんないし。外の話も出来るし? ーー大体何で外の情報がいるんだよ」
「うん、もう魔女も大々的に外に出ていいんじゃないかと思って?」
ヴェルドが村に禁句ともいえる言葉を吐き、その場の全員の動きが止まった。
「ゲーラ老師とはよく話してるんだけど」
最近はアニメでも漫画でも随分認知されてきたグローバル社会だろ。魔女狩りなんてそう起こらないだろうし、魔女が疎まれることになっても別の形ではないだろうか、と。
戦争が、剣、銃、そして内部からの経済打撃と変わったように。
「国の首相管轄になんのか!? 自治権放棄して!」
「まだ領主意見も弱いけどね。何せ領主は慣れれば居心地いいハーレムだからさー。カインが開村派なら三対三かな。そうなれば新しい魔女の心得が必要だろう?」
うんうんと頷くヴェルド。それはとても魔女のことを思っていて。
シアはガシッとヴェルドの手を取って言った。
「何それすごい! ヴェルドさん、私全力で協力します!」
「嬉しいね、シアさん」
「そういうことならな。ホント恋人も家族もバラバラとかしんどいわ」
言って、カインがルカとヴェルドに視線を移す。
「父さんが……姉さんや義兄さんに会えないの残念がってるんだよ。結婚式だってしてないだろ」
「ええ!? あれは神の前で永遠を誓うってやつでしょ。魔女がやるのもどうなのよ」
「あっははは! いいねぇ結婚式!」
ヴェルドがそれらしくルカに永遠の愛を誓い出すと、ルカが呆れながらも応え、恥ずかしげもなく熱いキスをかわす。
カインが困ったようにシアの元に来て「昔から結構ラブラブなんだよ」と教えてくれた。
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