18 / 31
魔女への入門
第十八話 暴走
しおりを挟む黙り込んだシアから巨大な魔力の奔流が生まれる。
怒りの制御が効かない。どんどん湧き上がって止められない。
「そもそもなんでこんな村に閉じこもって……車もないとか馬鹿じゃないの」
シアの声色が変わった。抑え込んだ、低く静かな声。
「シア?」
「……こんなハーレムなんてやめて、外に出なさいよ。今時魔法なんかに誰も怯えないわよ」
カインの顔が次第に青くなっていく。長い付き合いなのだ。このパターンは何度も見ている。
しかしおかしい。いくら何でも感情が昂りすぎている気がする。
「ちょっとカイン、あの子どうしたの?」
「いや、ちょっと……ブチ切れると結構……荒れたり……は、するけど」
シアを取り巻いた魔力の奔流が、そうこうしているうちにも増え続けていく。明らかに異常だ。
「まさか……暴走!?」
「ちょ! あの魔力で!? シア、落ち着きなさい! 貴方の魔力はもう魔女の中でも上に入る。暴走なんてさせたら被害もそうだけど、命に関わるわよ!」
暴走すれば魔力のみならず命まで燃やし、その魔力に上乗せしていく。二倍、三倍、四倍と、その威力はどんどん膨れ上がっていく。
カインがシアを抱きしめ、溢れていく力を抑えた。
ルカも力を発散させようと誘導するが、生まれる奔流の方がはるかに大きい。
「何とかしなさいカイン! あんたの魔力でしょう!?」
「ええ! そこを何とか……お姉さま?」
何だかんだ、可愛い弟のお願いに抗えない自分に、ルカは心の中で舌打ちをした。
「もう、だから観念してさっさと制御法教えておけばよかったのよ。それだけ惚れ込んでおいて、外に帰すだなんてよく言えたものね!」
心に突き刺さる言葉だが、カインは何も言い返せない。
シアが睨んだ先は遠く小さく見える村の入り口、そびえ立つ正門。
「大体あんな壁が……門があるからいけない……いつまでもひきこもってないで」
その手に集約していく強大な魔力。
「な、何するの、まさか!」
「や、やめろシア! お前コントロール……」
「テイーーンラセアーーーー!!」
シアはありったけの力を門に向かって解き放った。
大魔女様とその弟の防御も間に合わなかった。
シアの放った魔法は、門どころか覆う壁も無残に破壊し、公道から周囲の森まで実に三マイルに渡って破壊し尽くした。
◇◆◇◆◇
人里離れ、バスも三日に一本。車も人もあまり通らないことが幸いした。
「お馬鹿ーっ! 制御も知らずに力任せにぶっ放すんじゃないわよ!」
ルカが叫び、カインは頭を抱えてぐったり脱力している。
「本当、シアが自分からこの村に来てくれてよかったわ。外の世界でやってたら……」
どれだけの犠牲が出ていたことだろう。また、どれだけ魔女が恨みに晒されたことだろう。
麓では村の魔女達が何事かと集まり始めている。
遠目に警備隊らしき姿を確認し、ルカはホウキを出した。後ろを向いたまま愚弟に指示する。
「カイン……あんた、女の子になんなさい」
「は?」
「だから、しばらく見逃してあげるって言ってるの! どうせまだ、あんたのことはゲーラ老師しか知らないんでしょう?」
いつまでバレないかわからないし、ヴェルドには言うけどね、と。
「ルカ……」
「とにかく、責任とりなさいよ? シアをきっちり魔女へ導くこと」
「魔法の使い方も制御の方法も、ここの掟もしっかり教えますーーありがとう!」
ホウキに乗り現場へ向かうルカに、カインは感謝の意を伝えた。
今し方の魔法に、シアは誰よりも抜け殻のように唖然としていた。顔が真っ青に染まっていく。そして。
「こわい、マホウ、こわいぃーーっ!!」
小さな子どものようにわんわん泣き出してしまった。
「シア……」
カインが近づくと、シアは泣きながら飛びつく。
「カ、カイン! ごめん、ごめんなさいっ!! わ……私、どうしたらいい!?」
「だ、大丈夫だから。人は……死んでないし」
カインはその身体を慌てて抱きとめると、ポンポンと背中を叩いて落ち着かせる。
「あー……いきなり百二十超えの魔力は……こわかったな?」
「勉強……する! 修行もする! 頑張る! 頑張るから見捨てないで、カインー!」
「はは、なんか子供の頃に戻ったみたいだ」
ぎゅっと抱きしめると、シアは次第に落ち着いてきた。
「わ、私、悔しかった……カインを独り占めできないんだって」
「うん」
「頭もガンガン痛くなって気持ち悪くてーーなんだかいろいろ制御出来なくてーー」
「少しずつ覚えていこうな。付き合うから」
これも昔と同じ、シアが心の内を吐き出しカインが宥める。そしてしばらくすると、安心し切ったように、腕の中でスースーと寝息を立て始めた。
「ほんと、変わんない」
そんなシアの髪を撫で、カインは苦笑する。
「好きだよ、シア」
そう寝顔に呟くのも、五年ぶりだった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる