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魔女への入門
第十五話 ルカの提案
しおりを挟むルカは、決意を固めたカインに涙目のシアを交互に見ると、軽くため息をついた。
「拗らせてるわねー。貴方達、側からみてると滑稽よ? というかカイン、あんたが悪い」
言うとルカはカインの腕を掴み、一瞬で動きを封じた。
「なっ!」
「黙りなさい。あんたに私は振り解けない。ほら、私の方が魔力は上だもの」
ルカは道具を取り出しカインに当て、勝ち誇ったように言った。
「魔力値測定器……っ!」
「あら、ヴェルドより高いじゃないの。流石は私の弟ね。まあ生来の力とヴェルドの力、二人分の魔力を持つ私には到底及ばないけど」
カインはルカを振り解こうとあれこれ試してみるが、本当にビクともしない。
「何をするつもりだ、ルカ!」
「新しい後輩にもチャンスをあげようと思って? 明らかに分が悪いものね。シア! いらっしゃい、いい方法教えてあげる」
突然名を呼ばれ、シアはビクリと身を震わせた。そしてその後の言葉に一瞬思考が止まりかける。
「カインに、キスをするのよ」
ーーーー。
「え?」
「ルカ!!」
カインが驚き必死に抵抗するが、ルカは軽く往なし説明を続けた。
「いい? 渡る魔力量は、領主の持つ相手への想いの大きさなの。知り合い程度だと魔力値にして二十前後、結構親しくても四十くらいね。ヴェルドからもそのくらいって言われたでしょ」
別の領主から魔力をもらう場合、魔力は単純に加算される。
しかし一人の領主に複数回魔力を貰う場合、二回貰えば二倍に増えるわけではなく、都度その時の相手への想いの大きさによって上書きされるのだという。当然、増えることもあれば減ることもあるのだと。
だからこそ魔力を欲する魔女たちは、同じ領主をあまり何度も求めない。
「ちょ、ちょっと待ってそれって」
じゃあ魔力ゼロで入門し、何とか最低ライン五十に到達するには?
「複数の領主様からもらうか、気を引いてある程度好意を持たれたり、身体を売るとかしないと駄目ね」
なかなかのハードルだったことに今更ながらゾッとする。魔女の入門者が少ないわけだ。
「さて、貴方はいくつだったかしら?」
シアの心臓が跳ねる。あの日、たったあれだけのキスで、四十どころか魔女最低ラインを悠に超えている。
「そう、少なくともカインはその時、貴方に惚れていた」
「やめろ、ルカっ! シアも聞くな!」
カインの言葉も聞かず、ルカは淡々と続けた。
「でもカインは、貴方を魔女にしてしまった後も、想いを受け入れず突き放し続けた。どうしてかわかる?」
自責の念があったとはいえ、まだ暴走の危険もない。あからさまに避けることもなかった筈だ。
「一緒にいて更に好きになってしまったら、今度こそキスひとつで貴方の魔力値は百を超え、制御法を知らなければ確実に暴走する。もう何も知らず外の街で暮らすことなんてできなかったでしょうね」
進学することもなく。ジェシカやマルクに会うこともなく。
独り立ち推奨のシアの両親だって、あの頃では快く送り出してくれなかっただろう。
「だから貴方への想いに蓋をしたのよ、この子は。これ以上貴方に魔力が渡らないように、避けて、貴方に嫌われようと必死になって。あわよくば自分の感情も消そうと。泣かせるじゃない」
シアは今知る真実に愕然とした。
こっ酷く振って、避けて無視をし、嫌いと言ったら安堵した顔をしていたのはーー全ては双方の恋心をなくすために。
「今更んなこと言ったってシアには響かねえよ! 何年経ったと思ってるんだ。シアも、いいから早く村を出ろ! 俺のことは忘れて、二度と戻って来んな!」
「往生際が悪いわね! いいことシア、事は簡単よ。カインの今の本心を知りたいんでしょう?」
ルカはピピッと魔力値測定器を掲げてシアを見据える。
「カインがそれでもまだ変わらず貴方を好きなら魔力値も七十二のまま、冷めていれば低下する。ただし、五十を下回れば、貴方は魔女の資格を失い追放は確定よ。それでもよければ試してみることね」
シアの頭は混乱した。
そしてーーカインの言う通り、全てが今更だと思った。理由があろうとも、振られ、避けられ、傷つき続けてきた事実は変わらない。
嫌われそうなこともたくさんしたし、憎まれ口も散々言った。
元に戻ろうとも戻れるとも思えない。
ならもうーーーーカインが忘れろというのなら忘れるべきではないか。
もともとこの村に来た時も、シア自身にその目的があったのだから。
(でも村を出る事はーー)
シアはゆっくり口を開いた。
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