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魔女への入門
第十三話 領主の大罪
しおりを挟むもくもくと煙の後に現れたのは、あの可愛い少女ではない、シアのよく知る幼馴染みの青年だった。
「ルカ様、カインのお姉さんってーーえ?」
「困った弟。村の掟を尽く破ってくれちゃって。ホント大魔女の立場がないったら」
カインがけほっと煙に咳き込みながら、記憶にある低い声で苦笑する。
「さすが大魔女様、容赦ないな」
「この位じゃ示しがつかないわよ。大罪人の領主様?」
「領主、か」
魔力の残った魔女の男性は例外なく領主となる。つまり、今でも魔法を使うカインは、紛れもなくこの村の六人目の領主ということだ。
掟に背き、ずっと魔女の村の外で暮らしていたーーーー領主。
「村の外で暮らしたから……罪人だなんて」
「そんな罪、可愛い方よ。まだわからないの、シア。魔女になるにはどうするんだったかしら?」
「え、領主様から直接魔力を貰って……あ!」
領主が魔女達と違い、ハーレム状態とはいえ村から一歩も出てはいけないのは、外の世界で一般人を魔女にしてしまう危険性があるからである。
魔女とされた女性に自覚があればまだいい方だ。
シアのように知らないうちに魔力を持ち、使い方も知らずその力を暴走させてしまったり、その力を誇示し悪用されるようになれば、再び人々に魔女は危険視され、中世の悪夢に逆戻りとなるだろう。
村の魔女が外へ出る際の数々の規制も、魔女以外は村に住めない掟も、全て二度と魔女狩りの悲劇を繰り返さないための防御策だった。
「つまりこの愚弟は魔力を持ったまま村を離れ、外の世界で貴方を魔女にしてしまうという禁忌を犯したのよ」
カインが困ったように視線を上げ、静かに真実を告げた。
「そうだ、シアは俺が魔女にしたーーーー被害者だ」
あの時勢いでしたファーストキス。
そういえば運がよくなったのもその頃からだったとシアは思い出す。小さい頃は雨にも降られたし、くじ運もどちらかと言えば悪い方で。
つまりシアの魔力は精霊の加護でも先祖から受け継いだものでもない、六人目領主のカインから、そうと知らずに受けとったものだったのだ。
シアは震えながらその信じがたい事実を受け止める。
逃避したい衝動を抑え、だがシアはルカに訴えた。
「でもルカ様、カインは悪くないです。あれは……カインの許可も返事も貰わずに、私が勝手にしてしまっただけで……」
「いいえ。そもそも掟を知っていながら、村の外で貴方と一緒に過ごしてきたーー完全にカインの失態よ」
「そ、全部俺が悪い。庇わなくていいぞ、シア」
カインはスッと立ち上がり、ルカに頭を下げる。
「観念する。罰でも何でも受ける。好きにしてくれ」
そして顔を上げると、真正面からルカを見据え訴えた。
「ただ、シアは……被害者なんだ。魔力さえなければここに来なかった……見逃してほしいーーーー」
「カイン!」
シアの言葉を遮り、カインは淡々と現状をルカに伝える。
「まだ薬の作り方しか知らない。魔力の暴走危険値は百だから、魔力値七十二ならこれまで通り、暴走もなくまだ普通の人でいられる」
今まで通り、ただ運がいい、勘がいいくらいの一般人に。
「暴走危険値……?」
「そう、大きすぎる魔力は制御法を知らなければいずれ暴走する。その目安の値が魔力暴走危険値。だから魔力値が百を超えれば、魔法の使い方をまだ知らなくても、強制的に村に残ることになるのよ」
シアの疑問に、大魔女は視線をカインから離さないまま丁寧に解説してくれた。
「筋はいいみたいだけど? 貴方ちゃんと教えてなかったでしょう? それにカイン、貴方まだ……」
ルカはカインを真っ直ぐ見つめた。何かを探るように。全てを見透かしそうなその眼光で。
その鋭さに、カインは僅かに顔を赤らめ、思わず視線を逸らす。
「とにかく! シアを帰すためなら俺はーーーー」
すると、全てを察したようにルカが笑みを浮かべた。
「そんな必死になって私に頼まなくてもあるじゃない、シアを絶対に外に帰す方法」
「……っ!」
明らかにカインが動揺していく。
「それとも、出来ないのかしらね? ーー領主様?」
するとカインは、これ以上は話させないとばかりに無言のままルカを避け、傍のシアの腕を掴んだ。
「ちょっと二人にしてくれるか? ……逃げないから」
「え、カイン!?」
そんな言葉を最後に、ルカの姿が掻き消える。
気づけば見晴らしのよい丘の上に立っていた。
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