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魔女への入門
第十一話 魔力をください
しおりを挟む領主が一、ルカの夫ヴェルドに会ったのは翌日のことだった。普段は城に住んで業務をこなしているが、休日になるとルカの家に来るという。
「やあ、君が噂のシアさん、はじめまして。ヴェルド・カランダルです。よろしく」
いつぞやのブヨブヨ領主と違い、爽やかな好印象の紳士だった。
「し、シア・コナリーです、こちらこそはじめまして。ルカ様にはいつもお世話になっておりますっ」
ビシッと直立不動で挨拶をする。傍のルカにこそっと耳うちをした。
「噂って?」
「貴方が村人でないのに魔力持ちってことよ」
「僕も大変興味があってね。外からの魔女は非常に珍しいんだ。君も協力してくれるなら嬉しい」
「は、はいもちろん! 私でお役に立てるのでしたら!」
お役に立てる、思わずその響きに感動してしまう。
ヴェルドはそれからじっとシアを見つめると、品定めをするように上から下まで眺めた。僅かに視線が熱い気もしてシアの心臓がどきどきしてくる。
「うん、いいね。協力的だし魅力的だ。四十くらい渡せそう」
「四十! 行ったわね」
ヴェルドが魔力を与えた魔女は百や二百を下らない。だが通常、大体二十前後であることが殆どだ。
「四十?」
「そう、貴方は幸運よ、シア。ヴェルドから魔力値にして四十も貰える。単純に加算されるわよ」
ということは今七十二だから、とシアは腕を組み考える。
「ざっと百超えしますか!?」
「「百十二」」
ルカとヴェルドの声がハモった。少しお馬鹿かもしれないと思いながら。
「手っ取り早い方法よ。魔力値が百を超えれば、魔法をきちんと使えなくても追放はなくなるわ」
「そうなんですかっ!!」
「ええ。貴方がもう少しで百だってわかったからね」
数年ぶりの外からの見込みある魔女ーーその存在にルカの心が躍る。ヴェルドも満更ではなさそうだ。
「じゃあはい、貰って来なさい、魔力。私ほどでないけど、強い魔女になれるわよ」
ぐいぐいとルカはシアの背を押した。
「あ、はいっ!」
ドキドキしながら前へ進み出て……ふと止まる。
「あ、あの、そういえばーーーー魔力ってどうやって貰うんですか?」
「……」
「!」
その場の全員が固まった。
「……お馬鹿とは思っていたけど、本当に何も知らないのね」
ため息を吐きながらルカは目元に手を当てた。
「口移しに決まってるじゃない」
シアが再び固まる。
「ーーーーは?」
「口移しよ口移し。別名キス。まさか初めてじゃないでしょ」
ルカの視線にシアの心臓がドクッと鳴った。
初めてではない、確かに初めてではないが。
「まぐわってもいいんだけどね? 倍以上あげられるし」
「ヴェルド!」
「あはは、冗談」
「まぐわ……」
シアは頭を抱えて唸った。
しかしここまで来て全てを断る訳にもいかない。
むしろ集会などして、一斉に神の力をーなどと言いながら与えるわけではない理由に納得したというものだ。
(キスくらいならまぁ……初めてじゃないんだし)
ファーストキスの憧れも、好きな人とだけしたいという夢も、こっ酷く失恋してから特にこだわりもなくなっていた。
シアは一歩前へ出て力を込めて言う。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
はいはいと言いながら、ヴェルドは笑ってシアの肩に手を乗せる。
僅かに顔を赤らめ、緊張したシアが目を瞑ろうとした。
と、その時。
パタパタと一羽のフクロウが飛んできてヴェルドの肩にとまった。
「おや、ちょっとすまない、シアさん」
言うとその足から折りたたまれた紙を取り広げる。緊急の手紙のようだ。
「どうしたの、ヴェルド?」
「ゲーラ殿の緊急呼び出し。おかしいな、業務は全部片付けてきたのに」
「ゲーラ老師?」
(ゲーラ様!?)
シアはここに滞在するにあたり、ゲーラには昨日手紙を出している。タイミング的にはそれが届いて読んだ頃とは思われるが。
「うーん、ぱぱっとキスだけしてもいいんだけど、何となくね? 経過も見たいし」
「あ、行ってください。私、後でもいいので」
シアが言うとヴェルドはごめんねーと言いながら呪文を唱え、城へと転移した。
「珍しいこともあるわね、ゲーラ老師の呼び出しなんて。初めて……?」
ふと、ルカの表情が引き締まる。
そして窓の外を見たかと思うと、即座に家の扉を開け外に出た。
ただ事でない雰囲気に、シアも続いて外へ出る。
晴れて穏やかだった天気は曇り、暗くピンと空気が張り詰めていた。
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