魔女の村

各務みづほ

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魔女への入門

第九話 カインの妨害

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 帰宅したシアがバタバタと身支度を整えていると、カインが可愛い仏頂面のまま声をかけてきた。

「またどこか行くのか?」

 シアは無視をしてやろうかとも思ったが、ふとカインは領主のことを知っているのか気にかかり、手短に答える。

「……ちょっと領主様に会いに」
「領主!?」

 それまで無関心だったカインが、突如声を荒らげ腕を掴んだ。

「何故? 誰かに何か言われたのか!?」
「ちょ、痛い、何よ突然! 挨拶に行くのが悪いこと!?」
「ただ挨拶だけですむわけないだろうが!」

 シアの身体がびくっと震える。
 やはりカインは、領主や魔力のことを知らないわけではなかったようだ。

「なによ! やっぱり魔力のこと知ってて教えてくれなかったんじゃない! 聞いたんだから。魔女になるには領主様から魔力を貰うんだって」
「はあ!? それは魔力がゼロんときだろ! シアにはもうあるじゃないか。検査で出たろ、七十二も!」
「へ?」

 カインはため息をついて説明する。

「だから……シアにはもう魔力五十以上あるから、領主から貰わなくても最低限あるってこと! これ以上欲しいならともかく」
「そ、そういうことはちゃんと教えてくれないと……わかんないよ」

 ずっと仏頂面していたくせに、動こうとしたときだけ妨害してきて、本当に困ると苦情を言いたい。

「じゃああとは使い方だけなんだ……」

 しかし何故ゲーラ老師は、魔力のないカインに任せきりで、魔法を教えてくれないのだろう。
 領主付きの元大魔女様なりに、いろいろお忙しいとは思うものの不満がたまる。
 だってひと月で魔法が使える魔女になれなければ追放、振り出しに戻ってしまうのだから。

「別にゲーラが悪いわけじゃない。シアをここに誘導したのも任されてるのも俺だから」
「は?」

 シアはカインの方を振り向き、キッと睨みつけた。
 カインは今まで魔法薬の作り方など教えてくれていたが、魔力を使わないで出来ることばかりだった。
 カインに魔力がないのだから仕方ないと思っていたのだが。

「何それ……やっぱりカイン、私が魔女になるの妨害してたんだ……なんで……」
「魔女になったら、もう一般人には戻れないからだ」

 即答され、一瞬言葉に詰まる。
 魔女は村の外に出るにも制限がつく。例えば逃げ出しても探し出され戻ることになるとも知っている。だからこそ今の世の中で魔女に会うことは殆どない。
 でもそんなのもう折り込み済みだ。一生ここで生きていこうと決めたのだから。

「何度でも聞くが」

 冷静に、真正面からシアを見据え、カインは問う。

「やっぱりシア、魔女になりたい、この村に残りたい気持ちは変わらないのか?」
「当然でしょ!」

 シアも間髪入れずに返答する。そもそもまだ魔法も使えないし始まってもいない。
 すると、カインがシアから目を逸らし、大きく息を吐いて続けた。

「例えば……外に男が出来たとしても?」
「は?」
「いないの? 好きな奴とか、外に」

 何故そんなことを聞くのだろうと訝しむ。魔女が夫や息子など男性家族と一緒に暮らせないことだって知っている。
 しかし今現時点で恋人もいないし、そもそも目の前の少女……男には昔振られているのに。

「よく言えるよね、そういうこと」
「お前のこと振ったくせにって?」

 シアの心臓がドクンと跳ね上がった。

「な、なに……覚えて……」
「忘れるかよ。全部覚えてる。お前の告白を振ったことも、そん時のキスもーーーー」

 パンッと、平手で頬を叩いた音が部屋に鳴り響く。シアは涙を浮かべながらカインを睨みつけた。

 最低の黒歴史だった。
 そう、付き合おうって言ったあの時、シアは勢い任せにカインにキスをした。
 挨拶ではない、恋人同士でする唇同士の……ファーストキスを。
 その後、こっ酷く振られるとも思わずに。


「言ったよなーー俺はお前とは付き合わない」

 叩かれた頬を抑えながら、あの時と全く同じ口調、同じ言葉でカインは繰り返した。

「だからその後。他に好きになった奴とかいないのか? それでも出会いだってこれからまだたくさんあるんだし。だから……」

 シアは思わず、傍にあったクッションをカインに投げつけて叫んだ。

「どうしてそれをカインに言われなきゃならないのよ!」

 これ以上何も聞きたくなかった。シアはクルリと振り向き、怒りに震える身体を抑えながらその場を走り去って行く。

(もう顔も見たくない!)

 カインの大学が始まるまでまだ少しあるが、シアはゲーラに彼の女性化魔法を解くよう頼もうと思った。
 もうカインがこの村に来ないように。二度と会わずにすむようにーーーー。
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