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魔女への入門
第五話 可愛い幼馴染み
しおりを挟む「俺、カインだよ。カイン・ドーウェル。幼馴染みのカインくん」
「……は?」
目の前の少女は、今し方別れてきたばかりの幼馴染み、カイン本人だと言う。
しかしシアの知るカインは完璧に男性だ。五つの時ではあるが、直に見たことだってある。
シアと同い年、十八になったばかりの男で、この秋から大学生。髪も短く声も低く、身長も百七十センチを越えている。
対して目の前の少女はどう見ても女の子、髪と目の色は同じだが、身長も百六十センチ程度しかない。
長い髪に高い声。薔薇色の頬に白い肌、目も大きく睫毛も長い。華奢な身体にフリルのスカート。そして理想的な大きさの胸ーーーー。
「嘘! 女装にしては……」
シアは思わず、その目についた豊満な胸の膨らみをガシッと掴んでみた。そのまま揉んだり揺らしてみたり、感触をしっかりはっきり確かめる。
「うわっ! や、何すんだ、お前っ! ん……あっ!」
この感触に形や大きさ、この反応ーー限りなく本物ではないだろうか。
「しかも私より大きいとか!」
「は?」
真っ赤な顔の少女カインが振り返り、シアは慌てて自分の胸を隠す。
「て、てか、同性同名とか……兄妹でもなくて?」
「本人、だってば……」
疲れた顔をしつつ着崩れた衣服をきちんと直しながら彼女、カインは答えた。
なおも信じられないといったシアが、上から下、前から後ろと遠慮もなくジロジロ見回していると、奥からしわがれた声が聞こえた。
「女体化魔法じゃよ。よく出来ておるだろう? この村では男性は目立つのでね。いけめんならなおのことのぅ」
ひょひょひょと笑いながら、一人の老女が顔を出した。
黒い帽子にローブ。見るからに魔女というその風貌に、肩には白いフクロウが留まっている。
老師ゲーラ。領主様付きの元大魔女である。
「あっ、シア・コナリーです! はじめまして」
「シアさんな。ようおいでなさったな」
「これからお世話になります。よろしくお願いします!」
当初の緊張も忘れ、シアはスラスラと挨拶をした。
ゲーラは笑って頷く。そして肩のフクロウを窓から飛ばすと、二人に向き直りのんびりと話を始めた。
「カインが村を出て十三年、初めて戻って来よってのぅ。何とかここで匿ってくれんかと言うもんじゃからの」
とりあえず村で目立たないよう、男であるカインを魔法で女性化させたのだという。
(だからってだからって……私より可愛いとか、なんてことよ!)
そもそも何処からこの村に入ったんだとか見つかったらまずいんじゃとか、疑問は尽きない筈なのだが、この時のシアはその辺全てがすっぽり抜けていた。
ゲーラが説明している間も、少女は黙ってむくれている。しかしその姿すら可愛らしい。
「てかせめて、もっとその胸は小さくしなさいよ、胸は!」
怒りを込めまくって、シアは断固要求する。しかし、
「……だそうじゃよ? カイン」
「……無茶言うな……」
巷の男共なら一撃でノックアウトされそうな愛らしい顔で呆れられてしまう。一体この男、どこまで女性演技を極めているのか。
「許してやりなされ、シア。カインはお前さんを心配してここまで来たんじゃて」
「ばーさんっ!!」
挙げ句の果てに、真っ赤な顔でゲーラをポカポカ叩きだす。なんとも複雑な気分になる。
「え、ええと、カイン……ちゃんは、ゲーラ様と親しいのかしら?」
頬に青筋を立てながら、未だあのカインと一致しないシアが問う。
「親しいって言うか……昔の……子供の頃の魔法の先生。下手すると死んだ母さんより世話になってた」
「えええええっ!?」
つまり幼少時、五歳までの間師事していたというのか。
「カインは男児のくせに無類の魔法好きでの。早々に魔法など消えると言うておるのにあれこれ知りたがってのぅ。そうじゃ!」
ニコニコしながらゲーラはカインの頭にぽんっと手を乗せる。なんだか嫌な予感しかしない。
「シアは当分の間このカインに指導してもらいなされ。カインもよいな、復習じゃよ」
「「えええええええ!?」」
二人の奇声がハモり、外の小鳥達が一斉に空へ羽ばたいた。
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