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魔女への入門
第一話 魔女になります
しおりを挟む欧州ーーそこは魔女のいる世界。
中世に魔女狩りという迫害を受けた魔女達は、都市部を離れ地方へ移り住み、独自に城と外壁を建て、閉鎖された村を造っていた。
「やった! 判定A! 魔女になれるわーっ!」
先日申し込んだ魔女適性検査の結果を見て、シアは喜びの声を上げた。
彼女がいるのは、とある魔女の村から一番近い人口二十万程の都市、その一角にある公立の学校である。
長い冬が終わり、日も徐々に延び花が咲き、気持ちの良い季節になってきた、学生最後の年。
大学進学を選んだものの成績が芳しくなく、かといって行きたい会社も、伸ばしたい専門技能もなかった彼女は、ずっとこの先の進路を決められないでいた。
その矢先でのA判定、魔女入門許可の通知。嬉しくないわけがない。
サンドイッチにジュース、それにスナックといういつものランチを芝の上で食べながら、スマホを忙しなくタップし、シアは入門の心得などをチェックしていった。
すると、突然影が差す。サンドイッチをくわえながら見上げると、そこには学友達の姿があった。
「シアっ! 見つけた。聞いたぞ、卒業後の進路!」
暗めの髪に青い瞳、カインは五つの頃からの幼馴染みである。その横には親友ジェシカとその恋人マルクの姿もあった。皆この学校ではよく一緒に騒いだ仲間だ。
「シア、大学諦めて魔女の村に行くんだって? 魔女になるの?」
「ひょいっと行っていきなりなれるのか? 適性とかあるって聞いたぞ」
口々に疑問の声が続くが、シアは魔女適性検査の結果を出し、自信満々にVサインをした。
カインがその用紙をさっと取り上げ、まじまじと凝視する。続いてジェシカとマルクも横からそれを覗く。
「いつの間にこんなん受けて……」
「ちょ、魔力値七十二!? これって結構な値なんじゃ……あんた魔女だったの!? 魔法使えるの!?」
この世に生まれて十八年程になるが、もちろんシアに魔法なるものを使えた覚えなどない。しかし。
「そういえばシアってよくくじ当たるし、雨にも降られないし、意外と運いいよな」
マルクが思い出しながら、うんうんと頷いた。言われてみればとジェシカも続き唸り始める。思い当たる節がそれなりにあるようだ。
「その割に成績には結びつかないみたいだけどな? これだって筆記試験ボロッボロじゃねーか」
「うるっさいわね! 受かればいいのよ受かれば」
つーんとシアはそっぽを向くが、そんないつも通りのカインの悪口も、今日はそれ程気にならない。
ジェシカもマルクも遠いロンドンの大学、そしてカインは地元の大学と、もうそれぞれ進路を決めており、シアもようやくそんな皆に追いついたのだ。
そしてこの夏学校を卒業し、秋にはそんな彼らとも会えなくなる。
多少のことなど大目に見られるというものだ。
「でも本当にもう簡単に会えなくなるんだ、寂しい~」
「何言ってんの! マルクと仲良く頑張りなよ、大学生活」
二人とはこの進学校に入ってからの友人であり、付き合い自体は数年程で短い。それでも鼻の奥がツンとしてくるくらいに別れは寂しかった。
「せっかくだから大魔女目指せよ、シア!」
マルクがそれを打ち消すように、笑って激励してくれた。
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