93 / 98
復興編
第二十九章 脅威との決着-2
しおりを挟む「随分いろいろ好き勝手やってくれたようだな」
忘れようもない低い、ドスのきいた声。恐怖に彼女の心臓が跳ね上がる。
しかしライサは気丈に相手を睨み据えた。
「……ダガー・ロウ……」
「システムを壊し、兵器のエネルギーを抜き、武器を解体させーー貴様は最強の科学者だな。見事だ」
ダガーはゆっくり近づく。
ライサは動くことが出来なかった。逃げても無駄だとわかる。
彼女が科学者であるのと同様、この男はプロの暗殺者なのだ。
「俺の……全てを壊しやがって……貴様!」
ダガーは目にも止まらぬ速さでライサの首を掴んだ。
「ぐ……っ!」
苦しいーーディルクの守護魔法もとうに切れている。
ライサは渾身の力を振り絞って懐の銃に手を伸ばした。必死に銃口を向ける。
しかしその銃をダガーはいとも簡単に掴み、ライサを思い切り蹴り飛ばした。
あまりの衝撃にその手から呆気なく銃が離れ、そのまま彼女は何メートルか跳ばされる。
どちらが上下かもわからぬまま意識が吹き飛びそうになった。激しく咳き込み、血を吐き出す。死ぬ程の痛みと苦しみの中、辛うじて意識を保つ。
彼女の霞む目には、自分に銃口を向けたダガーが見えた。
(そっか……私は銃で死ぬのね……あの時の、ディルクみたいに……)
ふと微笑する。何て自分に相応しい死に方だろうと。
文句言えないくらいには散々好き勝手やってきたし、犠牲も出してしまった。これが罰なのかと諦めの感情に満たされていく。
大切な、優しい優しい最強の魔法使いの顔が思い浮かんだ。
付き合えた一週間、本当に楽しかった。
(ごめんね、ディルク……今までありがとうーーーー)
ガーーンと一発の銃声が鳴り響いた。
死の恐怖に歯を食いしばっていたライサだが、いつまでたっても衝撃がこないのに疑問がわく。
恐る恐る見ると、ダガーの手が止まっていた。いや、止められていた。
「ライサ!」
そこにはディルクの姿があった。ダガーの銃を持った手を間一髪で別方向へ向けていた。
「東聖……!?」
しかしダガーの呟きは、ライサの心臓を潰れそうな程強打した。
この男に知られてしまった、彼が生きていることを。
婆やと王女のためにとどめを刺したはずの最大の敵の生存を。
ダガーは瞬時にディルクに銃を突きつける。対する彼の判断は俊敏だった。
ダガーのくりだした蹴りをかわし、さっとライサの方へ向かう。そのまま彼女を抱き上げて、森の奥の方へ去っていく。
ガーン、ガーン、ガーンーー銃声が森中に鳴り響いた。
ダガーの腕は正確だった。ディルクは必死にかわしたが、腕に一発翳めてしまう。
ディルクはライサを抱え全速力で走った。腕からは血が滴り落ち、地面にはその跡が点々とついていく。
「ちっ」
ダガーは舌打ちしながら二人の血痕を追い、大声を張り上げた。
「ライサ・ユースティン、わかっているな!? 俺は地の果てまで獲物は逃さん!」
遠くからダガーの声が聞こえる。
戦時中のあの確約が、ライサの中で瞬時に蘇ったーー東聖を殺さねば婆やを見逃さないと。
あの男はこの後、婆やの調査を全力で始め、そして今は遠くで幸せに過ごしているはずの王女共々捜し出してしまうだろう。
「……うっ……」
ライサが耐え切れずに大量の血を吐き出した。
先程の蹴りと衝撃で、どこか内臓がやられたのかもしれない。ディルクの腕から崩れるようにずり落ち、そのままうずくまる。
「ごめ、ごめん、ディルク……知られてしまった。貴方が生きてること」
「俺がダガーに狙われるようになるって? 構わねぇよ。あいつとは遅かれ早かれケリをつけないと」
「それも、そうだけど……また、私、貴方を……」
いや、もう彼を殺すのは絶対に嫌だとライサは首を振った。それならば今度こそ、ダガーの目の前で自ら命を絶ち、その脅迫の意味を失わせようと。
身体もあちこち痛い。
このまま戦うにしても、完全にディルクの足手纏いでしかない。
「ディルク……もう、私のことはいいから、先に行ってちょうだい、早く!」
いつだったか、前も同じようなセリフを言ったな、などと考えながらライサは必死に彼の背を押した。
しかしディルクは振り返ると、そんな彼女の口周りの血を拭う。大きく息を吸いこみ、その息に魔力を込め、それを彼女の口から体内に送り込んだ。
ライサの体の中の痛みが徐々に和らいでいく。
そんな治癒魔法があるのか、まさにマウストゥマウスーーなどと彼女はされるがまま、こんな状況下に変に感心してしまうが、その行為はダガーから逃げるには致命的になった。もう転移魔法を使う間もない。
「ぷはっ! ……そんなこと、出来るわけないだろ! 応急処置だ、大人しくしてろ」
ディルクは即座にライサに結界を張った。彼女にも境目がわかるよう、弱い光が発せられている。そして続けざまに振り向き、別の結界でダガーが放った銃弾を間一髪ではね返す。
彼は更に先程受けた銃の傷を瞬時に治すと、来た道をキッと睨み据えた。
ダガーが姿を現す。
「ほう……」
ライサのまわりの薄く光る結界を見て、ディルクのほうに視線を移す。
「結界で博士殿に手は出せないと。甘いな。俺は貴様を倒し、博士殿も殺し、そして裏切り者の女も始末しにいく」
「……ライサが俺を殺す理由が、王令以外にあるんじゃないかとは思ってたけど、成る程? お前が脅していたのか……今も!」
彼女が自ら東聖に死をもたらすようにと。
またその罪悪感で、傀儡のように国や新国王に尽くすーーもしくは死にたくなるようにと。
「どこまで……クソなんだてめぇは」
青い顔のまま身体を小刻みに震わせるライサをチラリと見ると、ディルクは拳を握りしめ小さく伝えた。
「早まるなよ、ライサ……今はあの時とは違う。二人で全部守れるんだからな」
「あ……」
ライサが出来ないことでも、今なら彼がいる。婆やが危ないなら二人で向かって守ればいいのだと。
そしてダガーもそれに気づいているからこそ、脅しつつも今ここで東聖の死を確実にしなければならないのだ。
ディルクの額には宝石のついたサークレットが見えた。魔力はほぼ回復しているようだが、ダガーは魔法使いにも対抗しうる力を持っている。
ライサは気が気でなかった。
突如、ダガーの姿が消えた。瞬間、ディルクの後ろにまわりこみ、先程のナイフを振り上げる。
が、間一髪ディルクはそれをはね除け跳びずさった。
続いて今度はディルクが、瞬時にダガーに足払いをかけた。ダガーも跳んでかわす。
魔法も武器もない純粋な格闘が続いた。あまりに激しい攻防に、おそらく銃を構える間も魔法を使っている余裕もないのだ。
ダガーが魔法使いに対抗できるのは、このスピードが理由でもあった。
どうしても魔法に頼りがちな彼らが、魔法を使おうとする前に、瞬時に攻撃をしかける。
ディルクもそれを見破っている。だからこそ、敢えて魔法を使わないのだ。
「さすがに貴様は、格闘も十分に心得ているというわけか!」
ダガーが舌打ちをしながら、それでも攻撃の手を休めずに唸る。
「はっ!」
ディルクがそれには応えずに、気合をかけた。突如魔法による衝撃波が生まれる。
スピードといえば、ディルクの魔法の速さも正確さも並大抵ではない。
大きな魔法はともかく、基本的な魔法なら、呪文なしでもおそろしく正確にその本来の効果を発揮する。
ダガーはその衝撃波をかわすので精一杯だった。
ディルクがその隙をついて飛び上がり、今度は上空からドリルのような風を送り込む。
「グワァアアァァ――ッ!」
今度はダガーはまともに食らってしまった。地面にめり込むように倒れる。
風が収まったときには、既にチェックメイトだった。
ディルクが仰向けに倒れたダガーに冷ややかに告げる。
「あばよ。ダガー・ロウ!」
瞬間、何の躊躇いもなく、ひとすじの光の攻撃がダガーの頭を貫いた。
ダガーは、自分が負けることをわかっていた。
彼は、殆ど武器を持っていない。ここにディルクとの差があった。
格闘技で五分五分なら、魔法の使えるディルクのほうに分がある。
ライサに科学世界の武器を殆ど壊されていた時点で、彼の負けは決まっていたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!
克全
ファンタジー
上杉謙信の弟に転生したウェブ仮想戦記作家は、四兄の上杉謙信や長兄の長尾晴景に殺されないように動く。特に黒滝城主の黒田秀忠の叛乱によって次兄や三兄と一緒に殺されないように知恵を絞る。一切の自重をせすに前世の知識を使って農業改革に産業改革、軍事改革を行って日本を統一にまい進する。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる