隣国は魔法世界

各務みづほ

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復興編

第二十九章 脅威との決着-1

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 王子は一人夜空を見上げた。
 突然の来訪者達の情報は、彼を数日間眠らせてはくれなかった。

 ディルクとライサがそれぞれ国のために動き、既に相当の影響が出てきている。
 日々更新されるニュースがひっきりなしに変化していった。

 きっかけは、先日の王都襲撃の緊急魔法通信だ。
 王子も咄嗟に動こうとして、サヤとボルスに全力で抑えられてしまった。
 自分の無力を呪いながら緊急の二文字を聞きーーしかしものの数分でその通信は終了する。
 その理由は後の来訪者達により判明した。
 無力な主人の代わりに、頼もしい友人が動いてくれていたのだ。生きていても相当の重症、もしくは病み上がりだったはずなのにーー。

 その事実は王子の決意を強固にするのに十分であった。

「ほ、本気ですか、王子! おやめください!」

 ボルスの発狂しそうな声がとどろく。
 王子はしかし、考え直すことはしなかった。傍に控えている友人の部下に諭すように話す。

「私もいつまでもここに引きこもっているわけにはいかないんだよ。病み上がりのディルシャルクや、か弱いライサさんにいろいろ任せっぱなしだ。今が、時期だと思っている。もう終わらせなくてはならないんだ」
「でも! 反対です! 戦いの最中に王子自らが赴くだなんて!」

 ボルスの声とほぼ同時に、バタンと部屋の扉が勢いよく開いた。二人は思わずそちらの方を振り向く。

「姫!」

 そこには、王女が立っていた。寝着のまま、心配そうな顔をしてじっと王子を見つめている。
 やがて真剣な顔をして覚悟を決め、王女はしっかりと言い切った。

「……私も、お供します!」
「ならぬ!」

 即座に王子は否定した。彼女の方へ歩み寄り、肩を掴んで必死に説得を始める。

「そなたは一児の母なのだ! 絶対に失うわけにはいかない! それにまだ体調も優れぬのだろう? 無理をして、体に障ったらどうするのだ」
「王子様、貴方も父親なのよ! 危険なところになんて行かせられない!」
「しかし、私は魔法世界の王子なのだ! 行かなくてはならないんだ!」
「私だって、科学世界の王女よ! 貴方は、例え魔法世界を止められても、科学世界は止められないわ!」

 期せずして、先日ディルクとライサが交わしたような会話をその主達も繰り返す。
 二人とも引かなかった。
 普段はどちらともなく譲り合うのに、今回は双方とも頑固に意思を主張する。

 傍らではボルスが何も言えずに狼狽するが、突如横から腕を引っ張られた。サヤがボルスの腕を引いて、部屋の外に連れ出す。

「……お二人にまかせましょう」

 複雑な表情で彼女が言うと、ボルスも黙って頷いた。

 それからしばらく王女と王子の言い争いは続いた。
 何を言っても相手は聞いてくれない。互いを大事に思う気持ちは同じなのに意見が食い違う。
 王子はふと、力を抜いた。目の前の大事な妻をそっと抱きしめる。
 そして静かに、囁くように彼は告げた。

「お願いだよ、姫。私は……私の世界は……君の両親を亡き者にした。償いくらいさせておくれ」

 王子はずっと、先の戦いで王族ーー家族を亡くした彼女が気がかりでならなかったのだ。
 王女と一緒にいるときも、常に頭の中を罪悪感がよぎる。いつか、どうにかして、彼なりに罪を償う機会をうかがっていた。

 王女は、はっと悲しみの表情を浮かべる。俯き、耐えるように体を震わせた。

「……私も……私の世界も、貴方のまわりの人をたくさん殺したわ」

 王子の父親は生きているにしても、大事な仲間を何人も、彼女の国は殺したのだ。
 王女だって罪悪感が残り続けている。

「でも、でもね……」

 訴えるような目で王子を見上げる。

「私は、貴方と一緒にいたいと思ってるわ」
「姫!」

 王子は強く王女を抱きしめた。お互いへの愛しさがあらためてこみ上げてくる。
 彼らにも決意が芽生え始めていた。


  ◇◆◇◆◇


 元科学世界領土では、激しい争いが繰り広げられていた。
 内乱とは表向き、実際は全くの戦争だ。
 科学世界側の主力部隊は元より、明らかに死の軍も出動している。魔法世界側も国王軍が必死に応戦していた。
 今までも小さな内乱はあったものの、表立って死の軍と国王軍が出てきた内乱はこれがはじめてであり、混乱を極めていた。

 悪夢がよみがえる。半年ほど前に終わった筈の戦争という悪夢が。
 だが、まだ半年しかたっていない。戦力はどちらも不十分だった。
 軍の再編成に精一杯で、以前のような派手さはない。魔法や兵器の投入も少なく、剣と剣のぶつかりあいが多数を占めている。
 しかし戦いは長引く気配を漂わせていた。兵士達も疲れがたまってくる。
 両国王は焦りを感じた。

「一気に片をつけることにする」

 期せずして、双方同時に同じような結論を出した。味方に犠牲者をだしたくないのは両者とも同じなのだ。
 ヒスターは残っていた最後の兵器を使うことを決心する。これは独自に造っていた物なので、王宮のコンピュータには一切触れていない。ウイルスにも感染していない、唯一の武器だった。

 一方、魔法世界の国王も、王都から持ち出してきた、国宝“竜の軌跡”をとりだす。
 これは科学世界の者には見えない、魔法のオーラでできた巨大な魔法陣だった。
 これを敷けば、広範囲で強大な爆発をおこすことができる。

 双方とも軍を、相手が見えるか見えないかくらいまで退けていく。
 静寂が、訪れたーー。


  ◇◆◇◆◇


 その様子を、離れた崖の上で、双眼鏡を手に遠巻きながらライサは見ていた。
 周りは森になっており、人一人いない。
 彼女は王宮を散々混乱させ、武器や兵器に細工をし、軟禁されていたブルグ博士を解放すると、この崖の上へ戦場の確認に来ていたのである。
 正直こうなってしまうと、彼女に出来ることはない。
 それでも行く末を見届けずにはいられなかった。

(やるべきことは、やったわよね。ディルク、無事が確認出来たらいいんだけど……)

 そういえば連絡を取りたいときには、名を呼べ、と言っていたのを思い出す。
 しかし彼は遠く、魔法世界の王都にいる。
 しかもここは戦場近くの高台であり、あまり大声を出して見つかってもまずい。

「ディルクー……」

 限りなく声を抑え、試しに名を呼んでみた。そして聞こえるわけないかと声を落とす。
 その時、ガサッと背後の茂みから音が聞こえた。
 ライサはまさか、と即座に振り向き名を呼ぶ。

「ディルク!?」

 しかし現れた人物は、瞬時にライサを絶望へと誘った。
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