隣国は魔法世界

各務みづほ

文字の大きさ
79 / 98
復興編

第二十五章 各々の一歩-1

しおりを挟む
 
「おお、よく戻ってくれた、ディルク君!」
「えええ――――っ!」

 ヴィクルー教授の声とライサの声が同時にハモった。

 列車が到着して朝食を軽くとりながら、二人がまず向かったのは大学だった。
 駅で別れず来て欲しいと言われ、迷わずどんどん進むディルクに、ついて来たところがここだったのだ。

「なんで、ディルクが先生と知り合いなの!?」

 苦笑いしながらディルクはいきさつを簡単に話した。
 なんと、重症だった彼を見つけ、今まで面倒をみてくれたのが、当時クアラル・シティのセキュリティ担当についていた教授だったという。

 彼は街の近くの丘で発見され、すぐさま大学病院に収容された。
 最初の一ヶ月くらい、目を覚まさなかった。更に動けるようになるのに三ヶ月くらいの月日を要した。
 それでも懸命にリハビリを続け、とうとうここまで回復したのである。
 回復してから、特に行くあてもなかった彼は、何気なく教授の傍らで雑務をこなし始め、元々の教授の住まいのあるこの街に移ってきた。
 それが今までの彼の経緯だった。

「全く、ホントに教授は人使い荒いんだから」

 やれやれといった顔でディルクは言った。
 まわりには驚いた表情のヤオスとナターシャがいる。
 教授はにっこり笑いながら、改めてライサに挨拶をした。

「とにかく、無事で何より、ライサ博士。久しぶりだね」
「あ、はい! 本当にお久しぶりです、先生! そして、助けていただいてありがとうございました」

 ライサも深くお辞儀をする。
 これ以上なく嬉しかった。自分が助かったことよりもーー。

(本当に、ディルクを……助けていただいて……)

 そっと心の中で呟く。その場にいた全員が、本当の意味を取り違えていたに違いない。
 ナターシャは、ライサと教授が握手をするのを見ながらジト目で呟いた。

「教授……ちゃっかり助けに行かせていたんですね。内緒で……」

 はははは、とから笑いをしながら、教授は傍らのディルクに問い掛ける。

「君が、博士と知り合いだったとはね。確か……」
「ああ、リーニャとも、知り合ったのは同じ頃なんですよ」
「え、リーニャ?」

 何故ここで彼女の名を聞くのだろうとライサが首を傾げる。
 すると、ディルクがとんでもないことを言った。

「俺も驚いたんだけど、ライサ、リーニャがここに来てる」
「えええええええーー!」

 ライサの驚きの声は、再び廊下の端まで響き渡った。


  ◇◆◇◆◇


「ライサ! うひゃーライサやぁー! また会えたなぁー」

 教授のお宅に伺うと、リーニャがすぐに気づいてとんできた。
 もう一人、十二歳くらいの少年もいる。

「ちょぉ痩せた?」
「リーニャは大人っぽくなったわね! そか、もう二年近く経つのかぁ」

 ライサにならって後ろからヤオスやナターシャ、教授にディルクも続いた。
 どうやらこの子供達を知らないのはヤオスだけらしい。ナターシャが笑って説明した。

「ああ、二人とも魔法使いよ。教授の家に引き取られていて、研究のお手伝いをしてもらってるの。男の子がキジャ、女の子の方がリーニャ。キジャは上級魔法使いの血をひいてるんだって」

 言って彼の額を指す。額が隠れるほどのバンダナをしていた。なる程、上級魔法使いだ。
 ヤオスは思わず一歩退こうとする。魔法使いに対し、彼も多少なりとも警戒心があった。
 かくいうナターシャも最初は警戒しており、キジャにも同じく科学に対するそれがあった。
 だがそれも、リーニャが来て、更にディルクと続いてから一変する。彼らには科学にも魔法にも、警戒心の欠片も偏見もなかった。
 ナターシャも他の学生達も、徐々に警戒心が薄れていったのだ。

「いやはや、それもライサ博士のおかげだな。貴方が魔法世界に行っていたから今があるのだよ」

 教授はクアラル・シティの任を請け負って一通りこなした後、別に王女の依頼を受けてラクニアへ行っていたという。
 助教授達と共に、たった四人でウイルス対策をしていた折に、リーニャと知り合い、望むままに連れて来たのだと。
 ライサはそれを聞き、再度教授に頭を下げる。ウイルス兵器のことを知りながら防げなかった彼女に代わり、動いてくれていたことに感謝する。
 リーニャの母親のこともお詫びのしようがなかった。
 しかし、恨まれていると思っていたリーニャも、科学世界に来て、教授の元いろいろ知り、考えるところもあったのだろうか。ライサに対する態度は前と何ら変わりがなかった。

 ライサは思った通り、表向きのみならず裏であちこち動いていただいていたのだなぁと感心する。

「兵器開発は貴方に任せ切りだったからね。比較的動きやすくて助かった」

 適材適所だと慰められる。
 ちなみにもう一人の宮廷博士ブルグは、兵器開発で研究所に籠ったライサに代わり、主に王宮の任に就いていたという。
 隣国との取引や経済の立て直しに加え、彼は彼でサーバーのアクセス記録を操作したり、情報を婆やや王女に流したり、軍事関連のチェックなど細々と援護をしていた。
 もう一人の魔法使いの少年キジャを保護したのも彼だ。
 また、現在進行形で王都の情報を伝えてくれているので、後でライサにも情報が行くよう手配しようと教授は言ってくれる。

 ライサは、気づかぬうちに、お二方にはお世話になっているのだと、胸がいっぱいになった。

「へぇ、すっごいな、宮廷博士ってのは。すげぇなぁ、ライサ」

 ディルクがひどく感心して声を上げた。
 すると教授に、まだまだ若僧には負けはせん、がっはっはと背中を叩かれる。
 ライサはそれをとても眩しそうに眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全
ファンタジー
上杉謙信の弟に転生したウェブ仮想戦記作家は、四兄の上杉謙信や長兄の長尾晴景に殺されないように動く。特に黒滝城主の黒田秀忠の叛乱によって次兄や三兄と一緒に殺されないように知恵を絞る。一切の自重をせすに前世の知識を使って農業改革に産業改革、軍事改革を行って日本を統一にまい進する。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...