隣国は魔法世界

各務みづほ

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戦争編

第十九章 それぞれの戦い-3

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 北聖ネスレイからの連絡は、マナには届いていなかった。連絡をとる暇すら彼にはなかったのだ。
 マナのおかげで街には綺麗な空気が戻り、被害もそれ以上出ることはなかった。
 だが、毒ガスの発生源と思われるところの近くにいた者は例外なく息耐えており、多少なりともガスを吸ってしまった者達は、呼吸困難や麻痺を起こして苦しんでいる。

 そして、マナ自身も毒ガスにより手足が思うように動かなくなってしまった。
 彼自身が皆と連絡をとるのはそれから五日後のことである。


  ◇◆◇◆◇


 ベコの街、ララの街とたて続けに襲撃を果たした死の軍第一部隊は中間地点で合流した。
 あまりにうまくことが運びすぎたので、笑いが止まらない。

「なんか、すげぇあっけなかったな。あの毒用意したの、ライサ・ユースティンだって?」
「ああ、すごい即効性と致死力だ。そのくせ我々に危害がないよう計画や設計の配慮もされている」
「流石宮廷博士様様だな。ラクニアのウイルス兵器はヒスター様の開発品だろ、結構扱い難しかったし、結局あいつら戻れなかったしな……何せレベルが違う」
「おい、滅多なことを言うな! とにかく魔法使いどもなんて、俺達にかかればへでもないのさ」

 そんな部下を隊長らしき人物が押しとどめる。

「こら、お前ら、気を引き締めろよ。今は指示待ちだが、これからが本番、王都だぞ」

 しかし口とは裏腹に顔が少し緩んでいる。彼らは成功を信じて疑わなかった。

「隊長、酒、酒持ってきましたぜ!」

 部下の一人がやってきて、その場で軽く一杯ずつ祝杯を上げる。
 見れば適度に場を空けつつ二、三輪が出来ており、それぞれに飲み始めていた。

「王都は全滅目指しましょうや!」

 一人が隊長に瓶を傾けた。

「阻止!」

 酒を注ごうとした部下は突然の聞きなれない声に驚いた。なんと隊長と自分の間に見慣れない男がいるではないか。
 男は酒瓶を取り上げると無言の魔法陣を描く。その場にいた全員が慌てふためいた。

「こ、こいつ、魔法使……!」

 言い終えないうちに広大な爆発の陣が完成、発動される。
 ズドォ――ンと呪文の一言もなく、一瞬にして半径五メートルほどがふきとんだ。そこにいたおよそ十名が爆発に飲み込まれる。
 あとには魔法使いの男ーーネスレイ一人が残された。

 彼はだが、人数が一人足りないことに気がつく。即座に後ろに向けて結界を構成した。
 カキンと金属音が鳴り響く。まさに危機一髪だった。
 隊長が残っていたのである。
 両者とも後退し、しばらくにらみ合う。

「北聖、ネスレイ・バウワー……か」

 隊長が呟いた。
 他の者はと周りを見渡せば、最初の爆発を逃れたもう二十名程の部下達も、三百程の魔法使いの兵達に取り押さえられていた。その中には将軍格が六名いるのも確認する。
 ネスレイは死の軍の集結する場を予知し、ララが一応の解決をしたことを知ると、ララとベコに派遣された将軍六名全てとその精兵を集め、一気に奇襲をかけたのだ。

 部下達の必死の応戦も、将軍二名と六十の魔法使い兵の死をもたらすが、最後の一人も息絶える。
 死の軍第一部隊隊長は悔しさのあまり舌打ちした。
 完全に足取りは消したつもりでいた、これは油断だ。
 予知という、魔法使いでも操るものの少ないこの圧倒的な魔法に敗れ、自分の部下全員を殺されたのである。憎しみで一杯だった。
 そして、その憎しみはこの場において、己の死とも引き換えに、北聖の死を導くことができたのである。


  ◇◆◇◆◇


 境界の戦場で、北聖の死の報告をダガー・ロウは受けた。
 しかし同時に、ラクニアの実行部隊八名を含め計四十名で構成された、死の軍第一部隊の壊滅をも知る。
 死の軍は一人一人が精鋭だが、数は全て合わせても百数十程度の小規模な軍なのである。

「王都への侵略は後回しにする」

 予定では戦場に第二、第三部隊を投入、第一部隊は独自に魔法世界に乗り込み、四大都市を襲撃しながら、最終的に王都を攻めることになっていた。

(四聖相手では荷が重すぎたか……)

 ダガーは舌打ちした。
 彼は魔法世界にいる間に魔法使いの大体のデータはとっていたが、四聖のデータだけは謎だったのである。
 彼らは将軍などと違い、表立って大きな魔法を使うことは殆どなかった。

(さすがに、将軍などとは格が違うということか……)

 そして目の前の宮廷魔法使いを相手に、戦略を練り直す。
 最後にして最強の四聖ーー東聖。

 その時、部下の一人が新しい情報を持ってきた。それを聞いて、ダガーはにやりと笑う。

「最高の魔法使いの始末は、最高の科学者におまかせ願おう」

 そしてそれに合わせ、死の軍の編成を始めた。
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