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戦争編
第十八章 失われた心-1
しおりを挟む西聖の死去の知らせは瞬く間に世界中に知れ渡った。
人々は嘆き悲しみ、そして戦争の恐ろしさ、悔しさを口々に語りだす。
だが、大部分の人たちは負けてなるものかと、むしろ闘争意識を燃やしていた。
ディルクは一人、王都の高台で空を眺めた。
昨日ラクニアの街と、西聖、石子、木子の死の報告を、国王や王子を始めマナとネスレイにも済ませた。
ネスレイはもしかしたら知っていたかもしれない。
皆それぞれに項垂れ、嘆き、悲しみの表情を浮かべていた。
ディルクはその後ラクニアを出る前に、身につけていたものをあらかた処分し、全身を洗浄、浄化の魔法も使い、最大限にウイルス対策をしてから、ここ王都にやって来ていた。
先程留守番をしている王子にも会ったが、二言三言交わしたきりのまま、一人ここにいる。
寝転がり、夕日が沈むのを見ながらしばし呆ける。ここ数ヶ月間で、なくすものが多過ぎた。
燃えるラクニアを見ていたら、王子や故郷が懐かしくなったのだ。
少し心が追いついていない。
世が明けたら国王軍の所に戻るつもりで、今しばらく王都の風を感じていた。
(俺は……そもそもあいつに再会して、前のように求めるのか……)
ガルが死に際に言った言葉を思い出し、久しぶりに彼女を思い浮かべてみる。
会って過ごしたのは二ヶ月、想いを通い合わせたのはたった一日で、別れてから既に半年程たっている。
最初こそ胸が張り裂けそうだったが、心が麻痺したのか、いないのが普通になってきている。
でもそれならそれで、正しいあり方だ。敵国同士で馴れ合わない方がいいのだ。
(俺達は再会しないのが、一番なんじゃないか……)
敵として殺し合うよりは、分かたれた道のまま、彼女が自分の道を進んでいるならそれに越したことはない。
そう思うように思うようにと、心をチクリと刺す痛みも無視して、ディルクは何度も自分を納得させた。
◇◆◇◆◇
一方、科学世界にも知らせは届いていた。
中でも王宮はいち早く報告を受ける。ライサのいる研究所にも知らせは届いていた。
「……西聖、が……?」
ライサは愕然とした。
魔法世界での記憶が蘇る。
西聖ガルデルマは、彼女に親切で、屈託なくよく笑いかけてくれていた。そんな顔ばかりが思い浮かぶ。
それに、心のどこかで四聖は死なないなんて思っていたのかもしれない。
そしてラクニアの陥落の知らせ。
自分はどんなに恨まれていることだろう。皆に会わせる顔すらないーー。
ラクニアに行くこと自体もう一生ないのかもしれないが、思わずにいられなかった。
涙が浮かびそうになる。
しかし、知らせを持ってきたヒスターがいるので、ライサは涙をこらえた。
「それとライサ殿、これを……」
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、ヒスターは一枚のデータディスクを取り出した。
部屋の隅にあるプレイヤーにセットし、照明を落とすと勝手に再生を始める。
プレイヤーは立体的に映像を映しだした。
「! ……これは!」
それは戦場の映像だった。
境界付近で実際に行われている戦争の様子を録画したもので、実大の立体映像の戦場が鮮明に映し出される。
兵の中にはライサと同じくらいの年の者も何人かいた。
そんな彼らが数日前に開発したばかりの武器を持って、軍隊に編成されていく。
会話も聞こえて来た。
『これはライサ宮廷博士の開発品! いーなぁ、お前、そんなの渡されたんだ』
『何言ってんだよ、お前のだって、そうだろーが!』
『威力抜群なんだろう? すげぇよなぁ。さすがだよな!』
『魔法使いどもに押され気味だけど、もうすぐすごい武器ができるんだろう?』
向こうの方では別の会話が聞こえてくる。
『私は妻も子もいるんで、死ぬわけにはいかないんですよ』
『大丈夫だ! 俺たちにはライサ宮廷博士がついている! がんばろうぜ!』
ライサの背筋が凍りついた。
自分が創った武器で、みんなが大きな希望を持って戦っている。
宮廷博士ライサが軍事開発責任者であることは国民全てが知っている。新聞も雑誌もテレビも連日戦争の情報を流している。
そして、映像はなおも続いていた。実際に戦闘画面に変わったのだ。
たくさんの人々が魔法攻撃の中に勇敢に飛び込んでいく。たいした威力もない武器で突っ込んでいく。
魔法が炸裂した。成す術もなく、兵士達は爆風に吹き飛ばされる。
「い……いぃぃぃ……ああ……」
ライサは訳のわからない叫び声をあげた。自分の甘さを思い知らされる。
ドォォ――ンと魔法が爆裂し、人々が爆風で吹き飛ばされた。
「いやぁぁああああぁぁあっ!」
耐え切れずにライサは叫んだ。
腕が、足が、体が、無残にも飛び散っていく。
煙の後は、あたり一面血の池と化していた。死体が地面を埋め尽くす。
命が助かった者でも、手や足がない者、重傷で動けない者など、そこはまさに地獄だった。
「も、もういい! やめて!」
だが彼女の願いとは裏腹に、無常にも画面は移り変わっていった。
再び先程の少年達の戦いの場面。
勇敢に立ち向かって行く、同い年の彼ら。必死で戦う若者達。
「駄目……駄目よ、逃げて……お願い、逃げて……っ!!」
ライサは必死に叫んだが、映像に、既に起きてしまったことに、彼女の声が届く筈もない。
魔法世界側の攻撃が次々と彼らを襲う。
「……ぐ……はぅ……」
ライサは吐き気を抑え、耐え切れずにうずくまった。
それでも映像は続き、そして目を逸らすこともできずに、彼女はその全てを目に焼き付けていく。
映像が終わり、ヒスターが去っても、焼き付いたシーンは何度も彼女の頭の中でリピートし続けた。
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