51 / 98
戦争編
第十六章 生物兵器の恐怖-4
しおりを挟む「西聖殿! 奴等を発見。北の森に向かっていきます」
将軍波子の報告を聞いて、ガルは立ち上がった。
数日間の調査の後、きな臭いところを、昨夜から見張らせていたのである。
「人数は八人。どうやら引き上げる模様。追いますか?」
こちらの人数はガルと波子に石子、及びその精兵二十名を加え、計二十三である。十分対抗できる筈だ。
「ああ、波子は左、石子は右から、俺は正面から挟み込む。行くぞ!」
ガルの合図と共に二人は散った。
さすが、万の軍勢を指揮する将軍である。十名ずつの精兵を率い、実に無駄のない見事な行動だった。
一瞬のうちにして死の軍八人は、魔法使いの精鋭二十三に挟まれた形に陥る。
ガルは行く手を阻み、目の前の標的を睨み据えた。
「見事だよ。たった八人で街が崩壊するとはな」
ガルは睨んだまま淡々と言葉を紡いだ。
だが相手は訓練を受けている死の軍である。そんなことに怖気ついたりはしなかった。
「ふっ、我らにかかればこのくらいなんでもない。魔法使いどもなど滅びればよいのだ」
一人があっさりと言ってのけた。それを聞いた石子が憤慨する。
「何を! お前ら魔法も使えない下等な生物こそ滅びるべきなのだ!」
言い終えるや否や、石子は攻撃呪文を仕掛け、石子の精兵もそれに続く。
八人のまわりに円を描くように配置された彼らが次々に呪文を叫ぶと、その範囲の中で土砂が大量に巻き上がった。視界がほぼ遮られる。
続けて間を入れず、波子とその精鋭部隊が水の刃を死の軍に向けて発射する。
刃は体を貫くほどの威力を持っていた。水によって土砂が重みを増し、石のつぶてとなって八人を襲う。
瞬く間に彼らは傷だらけになった。
石子も波子もしてやったり、といった顔で死の軍の様子を眺める。
そのうちの一人が片手を魔法使いへと向けた。
キュイ―ンという音と共に、石子の精兵の一人が一瞬にして心臓部に致命傷を負う。
そして更に続け様に二発、三発と射撃される。
死の軍のレーザー銃は確実に標的の心臓に命中していた。一瞬にして精兵四名が息絶える。
その場にいた魔法使い達は、何がおこったのか、すぐには理解できなかった。
四人が倒れるのと同時に、八人を覆っていた土砂の嵐がおさまる。
死の軍の方も立っていたのは六人だった。先程の土砂と水の刃の攻撃により、二人は既に息耐えている。
ガルは考えるより早く、先程から唱えて準備していた呪文を発動させた。
狙いは六人のうち、孤立していた二人である。
その呪文は時間が少しかかるが、威力は絶大だ。
標的とされた者は動きを拘束され、しばらくの間感覚全てを奪われる。
いかな訓練されようと、視覚や聴覚などが奪われれば防御の手段すらない。その隙をつき、確実に相手を仕留める。
神経や感覚などの知識をもつガルの得意な攻撃技だった。
しかし、その大技で一人は一瞬にして仕留めたものの、もう一人は経験と身体の反射だけで、急所攻撃を避ける。
ガルは驚きながらも相手を睨みつけた。
少し他の者とは異なる雰囲気をもつ。この隊のリーダーかもしれない。
「石子殿!」
その時、横で他の軍と戦っていた波子の叫び声が聞こえた。
ちらりと見やると、死の軍が二人、それに精兵三名ほどと石子も倒れている。
先程の不理解な兵器によるものなのか。
波子は石子のもとへ駆け寄り体を起こしたが、意識はもう戻らなかった。
と、死の軍の残った三人が、ガルと波子のほうに腕を向ける。
手には何も見えなかったが、さっきの音がしたときと同じような構えに、ガルは危機を感じた。
「飛べ!」
ガルの声と同時に、銃の音が鳴り響いた。
波子はガルの声を聞くと反射的に上空に退避し、ガルも難を逃れる。
しかし、反応が遅れた兵が三人撃たれ、他の者もその見えない攻撃に足を撃たれたりと戸惑うばかりである。
ガルは即座に雷光の呪文を死の軍三人に向けて放った。だが三人とも瞬時にその雷の攻撃をかわす。
そこで波子がかわされた雷に向かって水を放ち、一人を標的に水の矢の向きを調節する。
雷を通した矢が見事にその一人に命中、その直後、残り二人の攻撃を、ガルと波子は勘を頼りにかわした。
「……やるな」
ガルはそう呟いた。波子は気を抜くことなく二人を睨んでいる。と、突然彼の足元が爆発した。
ドォォ―ンと爆音が鳴り響く。これもまた見えなかったが、爆弾が彼の足元に仕掛けられていたのだ。
波子は慌てて逃れようとしたが、爆風に吹き飛ばされる。
ガルも結界を張りつつ後退した。
「波子!?」
ガルは声を張り上げた。
将軍波子は同じく爆風に煽られた兵を庇い、近くの木に激突する。鈍い音がして、波子は意識を失った。
ガルは彼の傍に駆け寄り、生きていることを確認し急いで治癒呪文をかけたが、その一瞬を死の軍が見逃す筈はない。
銃の音がしたかと思うと、ガルの右肩を衝撃が突き抜けていった。
そこにいた波子の兵が慌てて結界を張る。もう一人の攻撃はなんとか避けられた。
「そのまま結界維持してろよ!」
そう言うとガルは炎の矢を多数生み、死の軍二人に向けて撃ち放った。二人とも見極め、寸でのところでかわす。
「はっ!」
ガルは避けられた矢を引き戻した。今度は正確に二人の頭を狙う。ふいをつかれ避けきれず、彼らは手に足に攻撃を食らう。
辛うじてリーダー格の男のみ頭への攻撃を避けられたが、手をついたところをガルは見逃さなかった。
「爆炎上!」
ドォォンという爆音と共に、死の軍二人は炎に巻かれた。叫び声を上げて焼かれていく。
ガルは容赦しなかった。
波子を抱え、残った数名の兵士と共に、ガルは街中へ戻っていく。
「さあ、もう大丈夫だ、行ってもいいよ」
ガルは道中、子供にそんな言葉をかける中年の男を見かけた。
「お前、誰だ?」
男は疑惑の表情を返した。ガルは苦笑する。
「この街の者ではないだろう? この街の者なら、俺が誰だかわかるからな」
男はそれを聞いて少し表情を緩めた。
明らかに異質なのに、ガルも何故だかこの男には敵意がわかない。
そして、男が何をしていたのか、答えを聞いても、きっと理解出来ないだろう、そんな気がした。
ガルは街の中心のほうを指差して男に伝える。
「あそこに少年が見えるだろう? 何かあったらあいつに言うといい」
指の先に見える少年は、慣れないながらもしっかりと、街の人々を指導していた。
ここ数日間の西聖代行、ディルクである。
中年の男が確認して軽く頷くと、ガルは会釈し波子を抱え、役場の方へと向かっていった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の現場に遭遇した悪役公爵令嬢の父親は激怒する
白バリン
ファンタジー
田中哲朗は日本で働く一児の父であり、定年も近づいていた人間である。
ある日、部下や娘が最近ハマっている乙女ゲームの内容を教えてもらった。
理解のできないことが多かったが、悪役令嬢が9歳と17歳の時に婚約破棄されるという内容が妙に耳に残った。
「娘が婚約破棄なんてされたらたまらんよなあ」と妻と話していた。
翌日、田中はまさに悪役公爵令嬢の父親としてゲームの世界に入ってしまった。
数日後、天使のような9歳の愛娘アリーシャが一方的に断罪され婚約破棄を宣言される現場に遭遇する。
それでも気丈に振る舞う娘への酷い仕打ちに我慢ならず、娘をあざけり笑った者たちをみな許さないと強く決意した。
田中は奮闘し、ゲームのガバガバ設定を逆手にとってヒロインよりも先取りして地球の科学技術を導入し、時代を一挙に進めさせる。
やがて訪れるであろう二度目の婚約破棄にどう回避して立ち向かうか、そして娘を泣かせた者たちへの復讐はどのような形で果たされるのか。
他サイトでも公開中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
召喚勇者の餌として転生させられました
猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。
途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。
だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。
「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」
しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。
「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」
異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。
日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。
「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」
発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販!
日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。
便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。
※カクヨムにも掲載中です
いずれ最強の錬金術師?
小狐丸
ファンタジー
テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。
女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。
けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。
はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。
**************
本編終了しました。
只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。
お暇でしたらどうぞ。
書籍版一巻〜七巻発売中です。
コミック版一巻〜二巻発売中です。
よろしくお願いします。
**************
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世界救って帰ってきたのに働きたくないのは当たり前
七鳳
ファンタジー
☆お気に入り登録&コメント励みになります!
20年前、不幸な事故で死んでしまった主人公、黒川勇人。彼は転生先で勇者となり、壮絶な冒険の末、世界を滅ぼさんとしていた魔王を打ち滅ぼす。その後、元の地球へ転移した勇者だったが、現実と戦うことになる。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる