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戦争編
第十五章 開戦-1
しおりを挟むドオオォォォォォォ――――ン!
どちらが放ったともわからない爆発が起こり、衝撃波で人が数人吹きとばされた。とうとう戦争が始まったのである。
最前線は雷子将軍の率いる部隊が踊り出ていた。科学世界の方は戦車や戦闘機による爆撃、魔法世界側は主に雷撃が繰り広げられていた。
しかし魔法使いには戦車や戦闘機をはっきり見ることは出来ず、攻撃を仕掛けようにも目標が定まらない。仕方がないので広範囲にわたって魔法攻撃が仕掛けられるのだが、非常に効率が悪く、兵達の魔力はどんどんなくなっていく。ただ結界のおかげで負傷者は少なく済んでいる。
一方科学世界側は、標的は見えるし無駄な攻撃もしなくていい。銃弾は減るが戦闘員自体のエネルギーがなくなるわけでもない。しかし広範囲の予測不能な魔法攻撃は、防ぐことも回避することも困難で、当たれば致命傷になり得る。そのため魔法使いよりも負傷者は多かった。
双方とも、かなり困惑した様子が漂ってくる。
ディルクは戦場から少し離れた高台で、その様子を見ていた。だんだん攻撃が乱れてきているのが明確にわかる。
「あーあ、やっぱりなぁ……」
思わずもらした呟きに、サヤが疑問を投げかけてきた。
「どんな様子なのです?」
「バラバラだよ。内乱のほうが相手の攻撃が見える分まだましだ」
そう言ってマントを翻し、ディルクは基地へ向かっていく。
サヤは慌てて後を追った。ディルクは止めたが、彼女は自分から戦場へ行くと言って聞かなかったのだ。
「現在の科学世界の軍の配置はこうだ。光子が左、闇子が右、中央は雷子が突撃準備! 合図とともに一気に殲滅せよ。敵の銃弾に怯むな!」
ディルクは本陣で戦況を把握し、各将軍を的確に配置した。指示を受けた将軍が即座に行動に出る。
「音子、お前は超音波反響を利用し、敵軍の戦車および戦闘機の位置を常に確認、各将軍と兵に伝達せよ。風子は空からの攻撃に備えよ。ミサイルや投下爆弾を空中で受け止め、着地前に上空に転送して爆破だ」
「御意!」
一通り指示を終え一息つくと、その様子を見ていたサヤが声をかける。
「超音波反響ですか、なる程……そうすれば見えない物の判別がつきますね」
さすがマスターです、とばかりに感心する彼女に苦笑する。
「科学世界行きたての頃に散々使ってたからな。蝙蝠と呼んでくれてもいいぞ」
「王子様にもそう教えられたのですか?」
「ん? いや、あいつは……国宝でも使ってたんじゃないかな」
王子は魔力的にはそれほどでもないが、王家が所有する莫大な魔力を持つ国宝を使いこなす。
隣国でも、どう一人で乗り切っていたかは容易に想像がついた。
ディルクもそのうち、どういうところに何があるか予想がつくようになり、超音波を利用した魔法は必要なくなっていったわけだが。
「目は、まだ戻らないのですか?」
ディルクの目の状態を後から知ったサヤは、驚きつつも頻繁に目の調子を聞いてきていた。女医として思うところがあるのかもしれない。
「少しずつ戻ってる……もってあと十日かな」
そうしたら自分も科学世界の兵器が見えなくなるだろう。今のうちに出来る限り戦況を有利にしておきたいとディルクは思った。
国王本軍に先駆け、ディルクと王子が第一軍として境界の戦地へ赴いていた。
本軍は現在ベコの街に駐屯しており、まもなく到着するだろう。
もちろん王都のほうにも守護部隊を配備しているが、本軍が戦場に到着次第、王子の軍を戻す予定である。
王子は進んで戦おうとはせず、ほぼ全てをディルクに任せていた。
自分が指揮をとっても所詮素人なのだから、こちらの犠牲を出さないためにもそのほうがよい、そう言って王子は後ろにまわっていた。
(一応全体は把握してるようだけどな……戦いから目を背けたりはしてないし)
本隊と連絡をとろうと一人高台に向かいながら、ディルクは考えていた。連絡用の魔法陣を敷き、現在の状況を伝え、通信を切る。
(前線を任せてくれるのはむしろ大助かりだ。あの約束はあいつの無事が最低条件だし、タイミングも見計らえる)
最後にライサと交わした約束を思い出し、気を引き締める。動けないだろう自分の代わりとする者を思い浮かべる。
ふと、西の方角に目を向けた。
西には科学世界が広がっている。丁度山に夕日が落ちるところだった。
まぶしそうに目を細めながら、彼は遠く、隣国の王都のある方角を見つめる。
もちろん、そこから王都が見える筈もないが、ディルクはしばらく目が離せなかった。
すると下のほうに突如人の気配を感じた。
夕日を見ていたため、しばらく目が戻らなかったが、やがてそこに王子の姿が浮かび上がってくる。
「シルヴァレン!」
王子は一人、ディルクのいる高台に上ってきた。そして彼と同じように、西の遠くの方を見つめながら口を開く。
「無理に……忘れようとしないほうがいいよ、ディルシャルク」
ディルクはその言葉を聞いて苦笑した。
気にしているように見えたかと聞くと、王子は微かに笑みを浮かべる。
ディルクはゆっくりと振り向き、夕日を背にして言った。
「忘れるわけないだろ、シルヴァレン。……俺は絶対、また会えるしな」
笑いながら言う彼に、だが王子は不安を感じた。
そして、絶対会えるーーそれがいつであるかに思い至り絶句する。
再会する時ーーつまりそれは、二人が殺しあわなければならない時に他ならないのだと。
「しかもそれで戦争は終わりだ。万々歳だぞ」
「ディルシャルク!!」
ディルクは、自分とライサが各々の世界の切り札的な存在になり得ることを十分に理解していた。
そして決着が着けば、その結果をもってして、国王や王族を守りつつ、戦争を終わらせるきっかけにすることが可能なのだと。
彼はーーそしておそらく彼女も、自分達の幸福など微塵も考えていない。いや、主を守ることを幸せとしている。
そして王子や王女が望まなかったところで、彼らはその目的を、何が何でも果たしてしまうのだーーそう確信して、王子はむしろ絶望を感じざるを得なかった。
「駄目だ、許さないよ……僕は君達を見殺しになんて、絶対に嫌だ!」
ディルクは王子の表情を見て苦笑すると、肩をぽんっとたたき、「んな顔すんな、王子様」と呟いた。
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