隣国は魔法世界

各務みづほ

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冒険編

第五章 意外な真実-2

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「ば……かな……」

 ダガーはうめきながら呟く。

「これで……将軍氷子ひょうしも倒した……筈……」
氷子ひょうしやったのお前か! 雷子らいしが荒れて大変だったんだぞ、ったく!」

 吐き捨てると、ディルクはライサの手を引っ張り、ダガーをそのままに、扉から廊下に躍り出た。
 目的は彼女の救出、とどめを刺す時間も惜しい。必死に通路をひた走る。
 手を引かれ走りながら、ライサがふと横を見ると、その通路の脇に数々の爆弾が並んでいた。

「危ない、ディルク!!」

 ライサは爆弾からディルクをなるべく離そうと、奥に向かって尽きとばす。
 ドドーンと鋭い音を立て爆弾は爆発したが、前回同様ライサは傷ひとつ負わなかった。
 またディルクが間一髪で結界を張ったのだ。

「“危ないディルク”じゃなくて、俺としてはどこからどんな攻撃が来るか教えて欲しいんだけど」

 ディルクはライサを庇いながら早口に言う。ライサは一瞬意図を掴みかねて「へ?」と間抜けな声をあげた。

「あーだからつまり……見えねーんだよ。わかるだろ?」

 きょろきょろと周りを警戒しながら、意識を張り巡らせる。

「見えないって……あ、爆弾……が?」
「そ。爆発すりゃ見えるんだけどな!」


  ◇◆◇◆◇


「二時の方向、電気系攻撃!」

 ライサの助言により、ディルクが防御結界を張る。二人は出口らしき場所に向かって走った。

「珍しく魔法使うのね!」

 自分を守りながら横を走るディルクに、ライサは苦笑しながら言葉をかけた。
 爆音がとどろき、かなりの攻撃が繰り出されているにも関わらず、ライサは身の安全を確信し、なお高揚を隠せなかった。

「しょうがないだろ、大元が見えないんだから! 結界張るしかないじゃないか!」

 上下前後左右、いたるところに簡単な結界を張りまくる。簡単なものだから長時間もたないし、一撃二撃で消えてしまう。

「とにかく急ぐぞ! 魔力が尽きないうちにっ!」

 二人は息つく間もなくそれらを突破していく。
 それにしても、爆弾が見えないから教えろーーそのディルクの言葉が示すことといえば一つしかない。

 基地をやっと抜け出し、二人は森の奥の方へ奥の方へと走り続ける。
 しばらくすると少し開けたところに出た。そこで立ち止まり呼吸を整える。

「ディ、ディルクって……私が魔法使いじゃないって……知ってたのっ!?」

 しゃべれる状態になってすぐに、ライサはせききったように聞いた。

「まぁな」

 あまりにあっさりした彼の答えに、彼女はすぐに脱力した。

「い……いつから?」

 まだ少し呼吸は早い。ディルクはもう正常に戻ってるようである。

「えーっといつだったかな、あ、あれだ、電話の着信音」
「す、すっごい最初じゃない! それっ!」

 ライサは思わず叫び声を返す。だからーと言いにくそうにディルクは続けた。

「ライサが隠そうとするから、知らん方がいいのかと思ってよ」

 知らないふりしてたんだよなー仕方なく。そんなことをぬけぬけと述べる。人の気も知らないで。

「じゃ、上級魔法使い云々のときも……?」
「あ、あれ? やっと気が付いたのか? やーい、間抜け間抜けー」

 面白そうに彼は笑う。
 ライサはディルクに殺意をちょっぴり抱いた。今までの不眠を「間抜け」の一言であっさり片付けられたのだから。

「さて、じゃ行くか。ベコの街はここから近いから」

 ベコの街は魔法世界の北方に位置する、四大都市の一つである。
 つまり、何事もなかったかのように、当初の旅の続きをしようと彼は言うのだ。
 しかしライサの方はそうもいかなかった。あまりの展開に思考が追いついていない。このままだとまた不眠が続いてしまう。

「なんで電話なんて……科学なんてわかったのよ? どうして得体の知れない隣国人の私を、そう簡単に受け入れられるの?」

 それを知らなければならない。そのために、サヤやリーニャとも離れてしまったのだ。
 ディルクはバツの悪そうな顔をするが、ライサは真正面からジッと顔を覗き込む。
 彼は仕方なく声を低くして告げた。

「だから……行ったことあるんだよ……科学世界に」
「へ!?」

 ライサは今度こそ仰天した。いつ、どうやって、どこから行ったというのだろう。

「お前な、自分のことは棚に上げるつもりか?」

 ライサの質問に、ディルクは苦笑しながらそう言った。とにかく魔法を使って行く方法があるのだろう。
 では魔法使いはみんなそんなことができるのかというと、そうでもないらしい。
 つまりは、ディルクは科学世界に対して耐性があったからこそ、彼女と問題なく接していられたということだった。

「なんだ……一人気を張っちゃって、酷いことも言って……バカみたいね私」
「いや、気付いていながら黙ってたんだから、お互い様だろ。危険な思いさせて悪かったな。ちょっと読みが甘かった。まさかお前が攫われるなんてさ」

 ライサがしおらしくなってしまい、ディルクも先程よりきちんと謝罪する。
 そして、今度はディルクが厳しい表情で、疑問に思っていたことを彼女に投げかけた。

「ところで、何故お前が攫われたのか、教えてもらえないか? ……軍、だよな? あいつら」

 同じ国出身とはいえ、軍の人間でもない一般人を、わざわざ拘束したりするのかと。

 周りに人はいない。
 それでも声のトーンを落として聞いてきた、真面目な質問。
 ライサは少し考えたが、やがて意を決したように告げた。
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