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冒険編
第四章 死の軍-1
しおりを挟む歩き始めて早二日。
サヤが用意してくれた馬一頭と小さな荷車とともに、何事もなく、むしろほのぼのとした旅が続いていた。
綺麗な景色があっては眺め、花が咲いていれば摘み取り髪飾りにしたりする。道中点々と存在する小さな町の温泉で湯につかったり、おいしい料理を食べたりした。
サヤが路銀をそこそこ持っていたのである。
ライサは行く先々で路銀を稼ごうとしたが、それよりも買い出しや、一人出かける時にリーニャといて欲しいとサヤに阻まれてしまった。
「次の街まで転移? そういうお店はあるけれど」
言いにくそうにサヤが言った相場は、ひと月ふた月働いたくらいでは到底足りない額だった。
転移魔法は上級魔法であり、距離が長い程難しいーーディルクから聞いた通りであり、「王都まで転移」というその言葉が如何に常識外れだったかを思い知る。よく怪しまれずに済んだものだ。
ともかく、その期間働くよりも歩いて進んだ方が早い。馬と荷台を用意してくれただけでも御の字である。
サヤの方は急ぎではないのだろうかと思いきや、授賞式はひと月後とのこと。
普通に歩いたり飛んだりで王都までは十日の道程だそうだから、のんびり寄り道しても十分間に合うという。飛ばれても困るが。
リーニャも飛行はあまり得意ではないとのことで、ライサはそっと安堵した。
ラクニアの街から次の街に行くには、山脈を通る必要がある。
昔よりは道も整備されているし、歩く分にはさほど不都合はない。ガードレールなどはないので、落ちないように気をつける必要はあったが。
そろそろお昼、山の中腹くらいに差し掛かる頃。
道を歩いていると、突然大きな岩にぶつかった。
避けて通ろうにも、その岩石はきれいに道を塞いでいる。背丈の三倍ほどもあり、のぼるにも困難である。
何とかして退かせるしかない。
サヤは岩石を見て少しなにかを考えるようにしていたが、くるりと振り向いた。
「ライサさん、一発どーんとやってみません?」
「え!?」
ライサは青ざめた。要するにサヤは魔法で岩石を壊せと言っているのである。
手持ちの火薬でいけるとは思うが、それを目の前でやってよいものかどうか。
どうしようかとライサがあれこれ考えていると、リーニャが助け舟をだしてくれた。
「やめ。ライサ母ちゃん治すのに、魔力使い切ってしもたんや。うちが代わりにやったるで!」
「あら、リーニャ、頼もしいわね」
サヤは特にこだわりも見せず、彼女を前にすすめる。
リーニャは岩石の前に来て両手を前に出し、目を閉じ呟いた。
「万物を構成したるものよ、我が望みにこたえ、立ちふさがりし岩石を雷をもって粉砕せよ! 落雷!!」
最後の叫びと同時にどこからともなく雷が打ち落とされ、大きな岩は真っ二つに割れた。
しかし、リーニャはしまったとばかりに後ろに下がる。
「あっちゃ。粉々にした思うたに……」
「リーニャ、あなた宮仕えは今度にしたら?」
サヤが苦笑しながら前に進み出る。同じ呪文を唱え雷が発生した。
ズドドド―ンと先程の倍はあろうかという轟音が響く。
魔法を知らないライサにも、リーニャとは明らかに威力が違うのがわかった。岩も粉々に砕けている。
「さっすがサヤねーちゃん!」
リーニャは感嘆しながらやり方を習っている。
その様子をライサはほうっと眺めていた。
(あの雷の魔法、こっちの世界でディルクが賊を倒す時に使っていたやつだ。なんだ、呪文もちゃんとあったのね)
ふとディルクのことを思い出した。
爆弾処理作業など巻き込みたくなかったからとはいえ、助けてくれたのに随分酷いことを言ってしまったと心が僅かに痛む。
「な、すごいやろ、サヤねーちゃんの魔法!」
リーニャがライサの思考を遮って、そう興奮しながら声をかけて来た。
「なんていったって上級魔法使いなんやもんな! うちらとはレベルが違うんや!」
「上級魔法使い?」
ライサは聞き返す。
「そや!」
リーニャは得意げに説明を始めた。
上級魔法使いーーそれは魔法がある一定以上使えるようになると得られる称号である。
だが、称号といっても誰に貰うでもなく自然に得られるもので、それは額に形となって現れるのだと。
「そういえばサヤさん、額に宝石がついたサークレットしてるね」
「そや。上級魔法使いは額に何かしらつけてんねん。サークレットでもバンダナでも。そうしないとオーラが自然と出てまうんで抑えてるんや。うちも早、つけたいよ」
「ふーん。いいじゃない、別に。バンダナくらいつけたって」
何気なく言ったライサにリーニャは反論した。
「あほぅ。うちなんかがつけたら、そよ風の魔法すらできなくなってまう。額は大事にせなあかん!」
拳を握りしめながら力説する。
つけるものによってもランクが分かり、魔力の強い者ほど宝石の類をつけるという。
なるほど、サヤは額に中程度のルビーをつけている。かなりのエリート魔法使いなのだろう。
そして見栄を張って分不相応なものをつければ、魔法が全く発動出来なくなるのだという。
と、そこまで聞いて、なにかが頭に引っかかるような気がした。
リーニャは今度はサヤと話をしている。ライサは思考をめぐらせた。
(待って! ディルクっておもいっきり額に輪っかつけてなかったっけ!?)
思い当たって愕然とする。ディルクは前髪を少量おろしていたが、輪っかは隠れてはいなかった。
ただ色はグレーで、サヤと違って宝石など目立つものはなかったが。
エリートとは言えなくとも、確かに輪っかはつけていたことを思い出す。
「う、嘘……上級魔法使い!? だって魔法あんまり使ってなかったし、簡単そうなのしか見たことないし……」
別れ際の自分の言葉を思い出してみる。
――せめてこれが見えるくらいの上級魔法使いでないと!
そう、一目で上級魔法使いでないライサは、一目で上級魔法使いとわかるディルクにそう言ったのだ。
ところがディルクに返された言葉は、それを否定しないものだった。
――悪かったな。魔力弱くて。
どうしてこんなことを言ったのだろう。納得がいかない。
彼は上級魔法使いではないか。
常識すら知らないライサに呆れることもできるのに、何故彼女の言葉を甘んじて受け入れたのだろう。
(き、気持ち悪い……)
ライサは根っからの科学者であった。わからないことはとことん考えてしまう、そんな性格だったのである。
◇◆◇◆◇
「おはよう、リーニャ」
サヤが起きてきたリーニャに笑顔を返し、その後で来たライサの顔に仰天した。
「あら、嫌だ、ライサさん、また眠れなかったの?」
「なんで三日もたつのに眠れへんのん?」
サヤとリーニャが口々に言う。
ライサはわからないことがあると、例え強力な睡眠薬を、致死量に達するくらい飲んでも眠れないのである。
顔は青ざめ、ボーっとし、ラリってさえいたのに、それでも眠れなかった。
サヤもあらゆる安眠魔法をライサにかけたが、やはり眠りは訪れなかったのである。
原因となる謎を解かない限り、彼女は眠れないであろう。
そしてライサは誰よりもそれをわかっていた。
「さぁーーいくわよぉーおうとーーおーーーー」
足元をふらつかせながら反対方向に歩いていく。
サヤとリーニャが慌ててフォローするが、しばらくすると、またライサはどこか別の方向へ進んでいる。
ペースは最初の半分くらいにまでなっていた。
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