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冒険編
第三章 新たな出会い-1
しおりを挟むーーーー凄いわライサ、頑張ったわね、おめでとう!
誰より慕う王女の声に応えようと声を上げた瞬間、ライサの目が覚める。
夢を見ていたようだ。
「もう一年も前になるのかぁ。宮廷博士号をとったの」
王立アカデミー研究員の父の影響で、ライサは小さい頃から科学を学び、科学に囲まれて育った。ところが八年前両親とも事故で亡くしてしまう。
悲しみに明け暮れ研究に没頭していたところを、アカデミーを訪れた王女が王宮に引き取ってくれたのだ。
王女の役に少しでも役に立ちたかったライサは、共に学び侍女としての仕事を覚えるが、それでも周囲の目は親のいない彼女に冷たかった。
「意地になって博士号とか特許とか取りまくったのよね」
その三年程の間、王女とはたまにしか会っていない。
そして周りにも認められ、王女付きの侍女に正式になれたのは僅か一年前のこと。
「まぁ立場的に、王立の施設には入りやすかったわけで」
ライサは街道から少し離れた林で鞄からパソコンをとりだし、操作を始めた。
少々時間がかかったが、衛星を経由して科学世界の王宮にあるサーバーに接続、いくつかのセキュリティも難なく突破する。
そもそもサーバーの管理はライサも一役かっていたので全く問題はない。
続けていろいろな検索を開始した。
科学世界の者が意図的に魔法世界に爆弾を仕掛けたのなら、計画のデータがどこかにあるはずである。
だが、いろいろな組織のかなり危ない裏データまでハッキングしてみても、この事件に関する情報は見つからなかった。
「おかしいわねぇ。組織でもなく爆弾なんて持ってるはずないしーーま、結構簡単に作れるけど」
なかなか危ないことをブツブツと言いながら、あちこちの情報を見てまわる。だがやはり欲しい情報は見つからなかった。
あと考えられるところといえばーー。
「軍隊くらい、か」
あまり考えたくはなかったが、もうそれくらいしか思い浮かばなかった。
意を決して軍隊の情報の検索にとりかかる。
程なくして、科学世界の軍隊の資料から魔法世界の古い地図を発見するが、これは王宮にいるものなら誰でも見ることができるくらいの情報である。
少なくともライサは、科学世界で魔法世界に侵略するような話は聞いていない。とすると、こんな表の情報では役にたたない。
彼女は更に、幾つもブロックのかかったガードの固い軍の機密情報を引き出しにかかった。
「うっそ! ちょっと待ってよ! こんなにあるの!?」
小一時間後、殆ど労もなく軍の機密情報を引っ張り出したライサは愕然とした。
爆弾が仕掛けられてると思わしきポイントが、何十箇所もあったのだ。
ターゲットは幸い、ライサが今いるこの街ラクニアに絞られている。おそらく足がないのと、実験的に行ってみようということなのだろう。
「……科学世界から、軍の一部がやってきてるのは確実なんだ……」
魔法世界でなく科学世界の方が、こんな小細工をしていることにライサはショックだった。
この世界に来てそろそろ一週間くらいである。魔法使いも知ってみれば普通の人たちだ。
できれば戦争なんてしたくない、そんな思いが彼女には芽生えていた。
「とりあえず爆弾見つけて解体かな。はぁ、こんなところでそんな知識が必要になるなんて」
幸い爆発予定時刻まで時間がある。ライサはゆっくり立ち上がった。
◇◆◇◆◇
「二十個目解体完了! ちょろいっ!」
適当な宿で寝泊りしながら、ライサはラクニアの街をまわっていた。
軍の爆弾と言えども、基本構造は変わらない。昔の知識とネットからの情報を元に、特別な道具など使わなくても簡単に解体が出来たし、個数は多いが爆弾は街の中心部に固まってあったので、あちこち行く手間は省けた。
おそらく派遣された軍もごく少数なのであろう。車もない科学世界の人間では、この大きなラクニアの街全ては網羅できない。
太陽が真上に昇る頃、周辺の爆弾を全て撤去し終えたライサは、一人昼食でもとろうかと道をぶらぶらと歩きだした。
周囲は小さなお店や民家がぽつぽつ並んでいる。いわゆる下町のような場所である。
子供達が何人か集まって遊んでいる光景も見かけられた。
「とりあえず、この街でやることは終わったかな」
メールを通して王女にこのことを報告すると、案の定、出来ればくい止めて欲しいと連絡が来た。
(姫様……軍のこと知ってらしたのかしら……だからーー)
思わず預けられた書状に目が行くが、眺めたところでその真意がわかるわけでもない。
報告はしたし、先に進むことにする。
どのみちライサが一人で軍を追い詰めることなどできないし、当初の目的である王都への道のりはまだまだ長い。ずっとここに留まっているわけにもいかなかった。
ライサは昼食をとり終えると、街を出るつもりで門に向かって足を進めた。
そしてもうあと、五分も歩けば南の門に着くかという頃。
「危ない、どいてやーっ!!」
突然頭上から声が聞こえた。と思うと同時にゴンッといい音が響く。
(空から人が降ってきた! ここは空から人が降ってきても文句は言えない世界!)
頭と頭がぶつかった衝撃に目の前が真っ白になったライサは、瞬時にそんな思考を働かせていた。
いや、もちろん魔法世界といえども普通は文句ぐらい言うが。
「すまんっ。うち高速飛行の練習しとってん」
ライサと同じように頭を抑えた女の子が、すまなそうに謝った。どう見ても年下の子供である。
「……いいけど。せめて人のいない場所でやんなさいよね」
痛みに怒る気すら失せたライサは低い声で言った。
「えらいすんません」
もう頭痛は治ったのか、というくらいにあっけらかんと女の子が笑う。
ライサはまだ少し痛む頭を抑えながら、再び歩みを進めようとした。
「リーニャ、大変やで! リーニャのお母さん、また倒れてまったで!」
遠くから女の子と同じくらいの男の子が、大声で叫びながら走ってくる。どうやらぶつかってきた子はリーニャという名前らしい。
「なんやて!? 今朝はだいぶよーなったって」
リーニャは呟くや否や、家に向かって走り去って行った。
◇◆◇◆◇
「母ちゃん、母ちゃん!」
リーニャは母親のベッドの傍に駆け寄ると、泣きながら母の名を呼んだ。青い顔で呼吸も苦しそうな母親の状態を見て号泣する。
「リーニャ? 帰ってたの?」
台所の方から女性の声が聞こえ、リーニャは泣きながら振り向いた。
少しウェーブのかかった紺色の髪を、後ろで一本のお下げにして結っている。肌は白く目は緑がかってとても美しく、額にはペンダント状の赤い宝石のついた鎖をかけていた。
服装はそれに反してやや軽快な格好で、短い巻きスカートをはいている。
「サヤ姉ちゃん……母ちゃんは」
小さな声で訴えるように話すリーニャに、台所からきた女性サヤは、答えにくそうな顔をした。
医療器具を扱い、リーニャの母親をもう一度診る。彼女は医師だった。
「あのね、リーニャ、手はつくしてみるんだけど……」
しどろもどろにサヤが状態を伝えようとすると、
「そんな! 助からへんのん!?」
リーニャが涙をぼろぼろ流しながら崩れ落ちた。
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