7 / 98
冒険編
第二章 ラクニアの街-2
しおりを挟む「いらっしゃい」
頭に布をかぶり、エプロンをした五十代くらいの店の主人が、お皿を拭きながら言った。
「お、ディルクやないか」
「おっちゃん、久しぶり! あ、いつものね」
二人はそのまま、お店のカウンター席に並んで座る。
どうやらディルクはこの料理屋の常連のようだ。
仕事柄彼は旅をすることが多いという。それゆえ西聖のような大物から町の料理屋のおっちゃんまで、知り合い幅はかなり広いーーディルクはそう言った。
「そういえば、ディルクの仕事ってなに?」
ライサはあまりプライベートに立ち入る気はなかったが、少しだけ気になり聞いてみる。
「ん? うーん、ま、便利屋みたいなものかな。調べものしたり報告したりいろいろ片付けたり」
「便利屋ねぇー」
大して興味もなさそうにライサは答える。
「そーゆーおまえはよ?」
「え、あたし?」
突然聞き返されて、ライサはうーんと少し考える。
「お手伝いみたいなものかな」
「ふーん、だからウエイトレスの仕事とか得意なのか。……今はお使いだっけ」
お互い大変だよなーなどと締めくくりながらドリンクを飲み干す。
みたいなものーーそんな曖昧な言葉でも、自分が突っ込まれては困るという思いからか、お互いに聞き返すようなことはしなかった。
しばらく沈黙が流れる。と、その時。
ドドーンと、少し離れたところから爆発音が鳴り響く。ディルクが反射的に立ち上がった。
「爆発?」
「ライサ、ここでちょっと待ってろ! おっちゃん、頼む」
ディルクはそう言うや否や、お店をとび出していった。
(……野次馬のわりには行動が迅速……?)
何かひっかかるものを感じたライサは、ディルクの後を追おうと椅子を立ち上がる。
「さ、できたで。お嬢ちゃん。座った座った」
料理屋の主人が、出来たての美味しそうな料理をライサの前に並べた。
「すぐ戻ってくるで。いつもああなんや。何かあるととびだして行ってまう。まだまだ子供やなぁ」
笑いながら主人は話す。
「ディルクってよくここに来るの?」
「うーん、月に一回くらいかなぁ。この料理が彼のお気に入りなんや」
ライサは料理の前に座りフォークをとった。
懐から主人にわからないようにハンカチを取り出す。周囲に素早く視線を走らせ、他の客がいないことを確認する。
主人はディルクの料理を冷めないように再び鍋に戻すと、ライサに目をやり面白そうな顔をして聞いてきた。
「ところでお嬢ちゃん、あの子の彼氏かい?」
料理屋主人の思いがけない言葉に、ライサは一瞬硬直する。が、すぐに引きつった笑みを返す。
「そんなふうに見える?」
「ディルクが女の子連れ来るなんて初めてやからな。時が経つのは早いなぁ思てなぁ」
一人しみじみ始める主人。
随分昔からディルクはここに来ていたのか。そんなことを考えながら、ライサはカウンター越しに、死角からハンカチでそのヒゲの残る口をふさいだ。
途端に主人の意識は朦朧とし、ゆっくりと床に崩れ落ちる。
ライサは駆け寄り、倒れた身体を壁にもたれさせ、店の出口に向かう。
扉を開け、主人の方を振り向き、意識のない彼に呟いた。
「ごめんね、おっちゃん」
ディルクに言われた以上、解放してくれないことは容易に想像がついた。
クロロホルムで湿らせたハンカチは、乾ききるのが早い。
それをポケットにしまい、爆発音のあった方へ、ライサは駆け出して行った。
爆発地点の方向と大体の見当で走っていたライサは、街の中央に到達する。広場の横に大きな建物が建っていた。
「この建物は……役所かしら」
ライサは鞄から大きな眼鏡を取り出した。やや黒味を帯びたレンズの眼鏡で、フレームに小さなスイッチがついている。
手早くそれをかけてスイッチを押した。
そのレンズを通して見てみると、その役場らしき建物の周りに網目のようなものが見える。
「やっぱり、結界張られてるわね」
彼女がかけた眼鏡は赤外線探知機である。魔法結界は熱と関連性があるのか、熱系統の魔法結界なのかは分からないが、少々感度を強くした赤外線探知機で見ることが出来た。
両国の境界の壁にも、物理的な壁と、そしてこんな結界らしきものが張られており、同じ方法を使って壁を抜けて来ていたのだ。
結界の網目は一見緻密だが、よくよく見ると隙間の一つもありそうである。
ライサは役所をぐるりとまわり、自分一人通れそうな結界の切れ目を探し、ひっかからないように十分に注意しながら、役所の結界を抜けた。
注意深く建物に近づき、十分注意しながら裏側へまわる。すると木々や草が生い茂る中、人影を三つ発見した。
一人はディルクである。
ライサは建物の陰に素早く隠れて様子を伺った。
彼らの目の前には、爆発後と思わしき焼け跡が広がっている。ディルクはそれを指しながらもう二人に何かを話していた。
頭にフードを被っており、周りも暗いため、その二人がどんな人物かはわからない。
ライサは、これ以上近づいたら気づかれると判断し、先の眼鏡のフレームを耳に持っていく。それはイヤホンになっていた。
(マントにつけた盗聴器、使うことになるなんてね)
最初に賊から助けてもらったときに、かなりの罪悪感とそれに匹敵する異世界への警戒心により、一応取り付けさせてもらったものである。
『ーーおかしい』
少しの雑音とともにディルクの声が聞こえてきた。
『ガルから聞いてはいたが、ここまで不自然な爆発とはーーまるで爆破魔法の痕跡がない』
痕跡があれば、術者から魔法の種類から、いろいろ絞り込めそうなものなのにとうんうん唸りながら、彼は懐から紙を取り出し、何かを書き込む。
『ボルスは爆発あとを引き続き調査、フィデスは報告を。これ持って風子将軍のところに。あとはいつものように頼む』
『『了解』』
二人の声がハモったかと思うと、次の瞬間彼らの姿がかき消えた。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛されない皇子妃、あっさり離宮に引きこもる ~皇都が絶望的だけど、今さら泣きついてきても知りません~
ネコ
恋愛
帝国の第二皇子アシュレイに嫁いだ侯爵令嬢クリスティナ。だがアシュレイは他国の姫と密会を繰り返し、クリスティナを悪女と糾弾して冷遇する。ある日、「彼女を皇妃にするため離縁してくれ」と言われたクリスティナは、あっさりと離宮へ引きこもる道を選ぶ。ところが皇都では不可解な問題が多発し、次第に名ばかり呼ばれるのはクリスティナ。彼女を手放したアシュレイや周囲は、ようやくその存在の大きさに気づくが、今さら彼女は戻ってくれそうもなく……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました
Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。
実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。
何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・
何故か神獣に転生していた!
始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。
更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。
人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m
なるべく返信できるように努力します。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる