隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー

各務みづほ

文字の大きさ
26 / 64
前編

第九章 夢の終わり-3

しおりを挟む
 
 ディルクは少し席を外した。この世界を去るにあたり、片をつけると言って出て行った。
 王女と二人きりになった王子は、最後に心の底からの感謝の意を述べる。

「姫といた七日間は楽しかったし、すごく貴重な時間でした。本当に感謝しています」

 王女は動かない。

「僕も……基本王城では缶詰だからね」

 彼の言葉に彼女ははっとした。国は違えど立場は同じなのだと。

「魔法使いは……僕は、怖いですか?」
「……はい……」

 ようやく発された小さな肯定の言葉に、王子は哀しみを覚えながらも納得する。

「怖いです……もう、これで二度と会うこともないのに、そうあらねばならないのに……」

 僅かに震えながら言うと、王女は泣きそうな顔を上げた。

「また、お会いしたくなりそうで、怖いです!」

 その言葉を聞いた瞬間、王子は彼女を抱きしめていた。
 自分の正体を知り、敵であるとわかってもまた会いたいと言ってくれる王女に、急激に愛おしさが湧いてくる。

「……キスを……してもいいですか?」

 友人と言ってくれた彼女に、王子は応えたいと思った。
 そして王女が頷くと、王子はその薔薇色の頬にそっと口付けをする。
 友情のキス。たとえ世界が異なり離れ離れでも、この繋がりは大切にするのだと。

 しかし、王女はそうじゃないと言わんばかりに王子に飛びついた。
 彼が慌てて彼女を抱きとめると、王女はそのまま躊躇いもせず、その薄紅色の唇と彼の唇を重ねる。

「!?」

 王子は驚き目を見開くが、そのままゆっくりと目を閉じた。
 友情ではない、友情よりももっと尊い、大切な、特別な想いを確かに感じる。
 そしてしばしの後、王女は彼から離れると、涙を拭きながら「ありがとう」と告げた。



「もう、ここに来てはいけません」

 ディルクが戻ると、二人の異国人に王女はきっぱりと言った。

「そうですね、軽率でした、気をつけます」

 ディルクは頭を下げるが、王子は何かに堪えるように無言だった。



 結局別れだけを告げ、記憶操作もしないまま、二人は隣国を後にした。
 境界を目の前にして、ようやく王子が口を開く。

「ディルシャルクは……どうしたんだい? こっちの友達」

 きちんとお別れしてきたのかーー王子の質問に、ディルクは俯き、「いや」と小さく呟いた。

「消したよ。俺に関する記憶は全部」
「え……」

 ディルクにとって、それは当然のことだった。
 これは彼個人の不祥事なのだ。挨拶だの卒業だの言っていられない。
 一国の王子をこの敵国に、七日間も気づかず振り回してしまっていた、そのけじめをつけねばならなかった。
 しかしそれは口には出さない。
 王子のせいではないのに、きっと自分が悪いと思わせてしまうから。

「いい機会だったんだよ。いつまでもこうしていられる訳でもなかったし」

 自分に言い聞かせながら、ディルクはまだ僅かに震える手をギュッと握る。
 魔法世界の最高峰を目指すのだ。トラウマなんかで立ち止まっていられない。
 ディルクは振り向き顔を上げ、王子にはっきりと言った。

「俺はもう、居場所のないこの国に、逃げて来たりしないからな」

 王子はゴクリと息を飲み込んだ。
 何かを決意した言葉の陰に、僅かに見える哀しみの表情。
 いとも簡単にやってのけているが、記憶消去が彼の本意でないことくらい十分にわかる。

 王子は友人の額に目を向けた。
 ターバンの下に小さいながらも宝石の埋め込まれたサークレットをしているのでそこまで目立たないが、オーラは僅かに感じられる。
 確かに強大すぎる力かもしれない。しかし恐怖とは微塵も思わなかった。

 ディルクが王子の視線に気づき、慌てて額を抑える。

「わ、悪いな、こっちじゃ宝石つけてる方が目立つから」

 言って懐から宝石と鎖を取り出す。彼は再びいくつもの宝石を枷のように、顔を隠すように巻きつけた。
 途端に僅かに見えていたオーラも完全に見えなくなる。

「転移魔法で戻らないといけないのに、つけすぎだよ。もうちょっと宝石外してもいいんじゃないの?」

 残念そうに王子は言うが、ディルクは取り合わず前に出ると、呪文もなしに魔法世界へ長距離転移魔法を紡ぎ出した。

 王子は言葉も出ない。
 これだけの宝石をつけつつ、こんな魔法をいともあっさりと操るなんて。一体彼はどれだけの魔法力を秘めているのだろうかと。

 ディルクは続けて結界魔法を二人分の身体にかける。これがないと転移したときには重体か死亡だ。

「そっか、転移魔法だけじゃ駄目だったんだね」

 納得する王子に、来た時はどうしたのかを尋ねると、王子は苦笑した。

「ば、ばっ、馬鹿か! 本当にお前はああぁぁあああ!!」

 しかも二度も死んでいただとーーと、友人は絶叫し、青い顔をして頭を抱えだす。
 ここまでの反応を見たのは初めてかもしれないと、王子は妙に感心した。

「まぁだから、ちょっとそっちも怒られるかもしれない」

 申し訳ないと言うと、

「お、怒られるくらいで済むなら、いくらでも怒られてやるわ!」

 だからもう危険な冒険とかしないでくれーーと、王子は珍しく友人に力一杯懇願された。



 王宮に無事に転移すると、ディルクは王子の手を引き、国王陛下の元へ迷わず向かう。
 王子はそんな彼の顔を見るが、その表情は宝石に隠れてわからない。

「ディルシャルク、ま、待って」
「なんだよ、今更怒られないで済むとか思ってんじゃ」
「これ」

 王子は彼の額の宝石を見ながら、懐にずっと持っていたサークレットを渡した。

「国宝『竜の髭』。もしかしたら強力すぎて使い物にならないかもしれないけど」

 でも、その顔が隠れんばかりの宝石いっぱいの鎖を外してほしいと伝える。
 また前のように堂々と、顔を上げて外を見てほしいのだと。

 ディルクはそのサークレットを無言で受け取ると、迷わず額のそれと付け替えた。
 ガクンと一気に魔力が抑制されたのがわかる。

「うっわ、これ、ヤバイな、まじで」

 そこそこ使えていた魔法が、基本魔法の初歩の初歩くらいしか使えなくなっているのを確認した。

(それでも、まだそれだけ使えるんだ……)

 感心しつつも、それで東聖の仕事などできるのだろうかと王子は心配になってくる。
 しかし別の物にしてはと言おうとした時、ディルクがすっと顔を上げ、その目をまっすぐ王子に向けた。

「ありがとな、シルヴァレン。これ大事にするわ」

 そう言って見せた彼の数ヶ月ぶりの屈託ない笑顔に、王子は何も言えなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...