ダンスダンスダンス!!

カナブン

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八話

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 速足はそのままに祈りながら、馬車の動向を見守っていると、馬車の速度が落ち始めたことに気が付いた。
 んん??なんだ?

 
 しばらくして馬車は完全に止まってしまう。ほどなくして馬車を降りる人の動きが見える。なにをしている??
 5人の内、御者台に1人、荷台に2人を残し、残りの2人が草原に入り込んでゆく。

 …何が起こっているのかは分からないが、これはチャンスでは??
 今のうちに距離を稼ごう。あわよくば森に隠れたい。速度を上げる。
 能力で脚力をとっていたおかげか、生前?前世?より確実に早く走れる。…いけるか??

 視線の先にようやく森の端が見えてくる。あそこまで行けたら隠れられる。
 後ろで止まったままの馬車を目の端で確認しつつ、更に足を動かし、全力で走り出す。

 草原に入っていった二人は何をしているんだろうか?
 地図で見る限り、草原を横切って行こうとしているが…あれは…私が草原ウルフを溺死させたところを目指している??

 先ほど私が地面をえぐり、どろ池を作成した場所に向かって二人は向かっているようだった。
 
 …どういうことだ?あそこには、私が残したドーナツ型のむき出しの土の跡が残っているはずだが、街道から見て一目でわかるほどの距離ではなかったはず。しかし、見る限り二つの点は速足にまっすぐそこを目指しているように見える。というか、移動マジで速いな!?走っているのか、草原ウルフの全力疾走よりは遅い程度の速さで進んでいる。

 メタクチャに視力が良いのか、はたまたむき出しの土の匂いをかぎ分けられるほどの嗅覚の持ち主か。…草原ウルフの時の様に、魔力の痕跡に反応したとも考えられる。なんだ、何に反応したんだ!?分からないことが多すぎて混乱してしまう。
 この世界の魔力は使用後もしばらく痕跡が残るのか?

 グルグルと予測が頭を巡るが、ここで考えに浸っていても情報が少なすぎて正解にはたどり着けないと考えを切り替える。走り出した足はそのままに使える能力がないかを必死で考える。
 使えるもの…脚力、体力…魔力…いや、浮力か。そうだよ、飛べばい良いんだよ、くそ、もっと早く思いつけばよかった。

 どろ池を飛んだ時を思い出しながら、浮かび上がる。全力疾走のままに浮かび上がったのでそのままでも少し前方に移動するので、前傾姿勢になりその勢いを保ちながら速度を上げる。上手くいっているようだ。最初からこうすれば良かった。周りの景色がどんどんと後ろに飛んで行き、森の端が近づいてくる。

 馬車と動く点ににフォーカスしていた視点を切り替え、前方の森に集中する。隠れられそうなところは??
 森のちょっと入ったところに大きめの木が生えている。生体反応はいまのところ無し。安全と認識していいだろう。
 地面から30㎝程浮いたまま街道からその木までの直線距離をハイスピードで移動していく。

 どうか間に合ってくれ。草原を超え、森に入り、顔や足に草や木の枝があたるのを無視しながら移動を続けると、どうにか目的の木が見えてきたので浮力に集中し体をさらに浮かび上がらせる。安全策として木の上部、枝が密集しているところに隠れることにしたのだ。

 木の幹から太い枝が伸び、体重をかけてもちょっとやそっとでは折れなさそうな場所を見つけてそこに身を縮こめせて腰掛ける。そこそこの高さだ。下は見ない。怖いから。ここなら、大丈夫だろうか??もっと、森の奥に移動した方が良い??


 再び馬車と動く点にフォーカスして、今の動きを確認。というか、これ二窓で見てれば良かったな。少し目を離したからか、ちょっと探すのに手間取る。ええと、拡大拡大。馬車は…いた。馬車から離れてどろ池方面に向かっていたメンバーは…どろ池跡地を発見したようだ。周囲の確認の為か一度手前で立ち止まり、また走り出す。目的地であるどろ池跡地に着くと周辺をウロウロと歩き回っている。やはり、目的はどろ池跡地だったようだ。マジか。

 …嘘だろ。ブルーの点が黄色に変わったぜ。つまりは、警戒中…ということよな?うわぁ、やだぁ、警戒されてるぅ…


 更に最悪なことに、どろ池跡地までの私の移動の痕跡と、その後の移動した痕跡も見つけたらしい。打合せのためか少し立ち止まり、同時に別々の方向に走り出す。そして、その動きは忠実に私の移動経路をなぞっているように見える。なんだ、やはり匂いか!?この世界の住人は鼻が利くの普通なのか!?うわぁ、なにそれめっちゃヤダ。


 やばい?やばいかな?もう少し、森の奥に移動するか??今なら、まだ少し猶予がある…はず。いや、匂いや魔力を追いかけることができるなら、移動したところで追い詰められるのがおちだ。ううーん、隠蔽力、隠蔽力欲しいよう、女神さま!!

 隠蔽力が、駄目ならなんだ!?カバー力か!?メイクの時にしか意識したことないけどな!?あとは、なんだ!?
 隠蔽も、カバーも、カモフラージュも、迷彩も駄目だった。…なんだ、なんかあるはず!!

 落ち着け落ち着け。私には、さっきとった語彙力がある。うなれ、私の語彙力!!
 えええーと、消すんじゃなくて洗う、は!?洗い流す!!そう、洗浄力!!

ティン『洗浄力を得ました。魔力に統合します。』
ティン『戦場力を得ました。戦闘力に統合します。』

 キターーーーーー!!思わず、前世のネットスラングが頭を埋め尽くす。もちろんあのペカーとした顔文字付きだ。
 こ れ は!!勝 つ る!!!なんか、身に覚えのない余計なものもとれたみたいだが、今は気にしない!!

 洗浄力に思い切り集中する。今までの私の行動履歴を消し去ってくれ!!



 ゴオオオォォォ

 

 周囲に突然突風が巻き起こる。それは、私が今いるところを中心に始まり、かなり広範囲に広がっていった。
 中心にいた私にはローブが少しめくれるほどの影響しかなかったが、突風にあおられ身を捩る木々の立てる音の想像以上の騒々しさに落ち着かなくなる。これは…

 …やりすぎた??

 なんとなく、周囲の空気がキラキラして見える。森特有のこもったような薄暗い落ち着いた雰囲気がする普通の森が、落ち着いた雰囲気はそのままに、なんというかここは高貴な神様を祀っている神殿の守りの森ですか?と言いたくなるような神聖さを感じられるような雰囲気になったというか…色彩がひとつトーンアップしたというか??森に入ってくる日差しが増えたような…??単純に突風で木の葉が大量に巻き上げられたから、さっきより日がさしこんでそう見えるのかな??そういうことかな??逃げるの必死であんま詳しく見れてなかったし、そういうことだよね?

 気のせいじゃないなら…洗浄より浄化したって言われた方がしっくりくるな…洗浄力じゃなくて、浄化力??

 
ティン『浄化力を得ました。魔力に統合します。』


 …そっかぁー!!浄化はまた別なんだー!?これはあくまで洗浄なんだねーー?!そっかぁーー!!
 そうだよねーー、あくまで私は洗浄しかしてないしーー。そういうことだよね、うん。そういうことにしておこう。ちょっとこの世界の初心者過ぎて何が起こっているか分かんないやーー、てへ。

 突風が起きてから、数秒。やりすぎたかもしれない可能性から全力で目をそらし、心の平穏を無理理取り戻す。
 …馬車と、私の行動をなぞっていた黄色いマークはどうなったカナーー。

 …洗浄(突風)は上手くいったみたいだ。私の行動をなぞっていた二つの点は、完全に痕跡を見失ったのかその場で立ち止まり、しばらくウロウロとした後馬車に向かって戻っていく。馬車の方は…動きなし…いや、荷台にいた人が馬車から降りてるようだった。帰ってくる二人を待っているのかな?

 とりあえず、洗浄力を使えば行動履歴を消せることが判明したので、今後も頻繁に使っていこうと決意する。もちろん、力加減は考えないといけないが…

 
 若干冷や汗をかきながら、5つのマークを観察しながらももう少し森の奥に移動しようと今度は拡大地図のウィンドウを二窓に増やす。おっと、その前に。
 一度、洗浄力を極々少量の魔力を消費するイメージで自分にかける。イメージは手をきれいにする程度。
 念のためだ。さっきの洗浄では対象を『私の行動履歴』で指定していたから、『私』は洗浄の範囲に入っていないはず。だから、私自身の匂いとか魔力の痕跡を一端消しておきたい。結構走って汗かいてるしね。

 ハタリ。

 …うん。全身の洗浄が終わったみたい。やったね。ローブが一つはためき全力疾走でかいた汗とか、やらかしに青ざめてかいてた冷や汗なんかが綺麗になくなり、すっきりとした気分になる。あいかわらずイメージと現実での魔力の発動量の差がアレだけども。…今は突っ込むまい。うん、とにもかくにも落ち着いてから考えよう…

  
 気分もすっきりしたし、森の奥を観察する。森に少し入っただけという場所だからか、周りにマークされるような生体反応はない。まぁ、マークされない虫とかは一杯いるんだろうけど。奥に移動するか??ただ、あまり奥に行きたくもないんだよなあ。森の奥に行く=タリス村から離れるということなので、理想は、馬車の人たちをやり過ごして、なおかつ暗くなる前には村にたどり着くくらいの安全な場所。…ここでもいいんじゃないか??

 いまの私は完全に痕跡が残されていない状態って事でしょ?ここで大人しく馬車の動向を見守って安全になってからタリス村に向かいたい。
 …まてよ。馬車の人たちも同じ目的地とかあり得る…のか??うわ、考えてなかったな。
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